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YMOの遺伝子を引き継ぐ者の役割

――さて、そんなYMOの結成40周年記念トリビュート・イベント〈Yellow Magic Children ~40年後のYMOの遺伝子~〉の音源を収めたライブ盤『Yellow Magic Children #01』が、昨年12月25日にリリースされました。大井さんは聴かれてみていかがでしたか?

大井「僕そもそも〈トリビュート〉ってものにそんなに魅力が湧かない人で(笑)、正直言うと、こんな集まりがあった事さえ知らなかったんです。だけど聴いてみたらこれは、レジェンドとなったアーティストには付きもののファン・ミーティング的なものとは違いました。たとえYMCというプロジェクトの主旨や文脈を何にも知らずにこのライブを観たとしても、きっとこのライブの凄まじい質の高さに惹き込まれてしまうだろうと思います。それだけの音楽の強度を作っている素晴らしいシンガー、プレイヤー陣の演奏が超アツかったです。

演奏の端々に散りばめられるように聴こえてくる手癖やキメに、YMOが提示したスタイルへのアンサーのようなものを感じて、おこがましいですが、いちプレイヤーとしてなんだか同志のような心持ちになってしまいました。YMOという共通言語を持ったミュージシャンの自由な集まりというふうで、これが〈Yellow Magic Children〉の所以かと思いました。良い意味で全然YMOっぽくなかったです」

――網守さんは、やってみてどうでした?

網守「いやもう、皆さんとにかく演奏がうまくて(笑)。しかもその中には〈厳しさ〉と〈寛容さ〉の両方があり、同世代のミュージシャンだけで組んだバンドでは味わえないような体験でしたね。程よい緊張感というか、身が引き締まる思いで演奏をしていました。

あと、クリックを聴きながら同期と一緒に演奏するのがとても新鮮でした。あれ以来、ずっとイヤモニにハマっていて(笑)。外の空間と断絶されているようで、繋がってもいる〈アンビヴァレンスな状況〉が楽しいんですよね。ステージ上での出来事が客席に対して能動的に共有されるのではなく、ステージと客席で知覚している空間がそれぞれ違っていて、観せることと観られることが拮抗した空間だからこそ必然的に共有される楽しさというか。そう、DAOKOバンドでもいま、まさにYMOの歴史を追体験するようなことをやっていて」

大井「次のDAOKOツアー、まじでヤバイよね。そこではSIMMONSのパッドも導入する予定です(笑)」

――それは楽しみです。ちなみにYMCのライブ盤は、個人的にDAOKOさんと片寄明人さんがゲストで参加した“在広東少年”が白眉でした。

網守「めちゃくちゃ良かったですよね。やっている自分たちもすごく楽しかった」

――ものすごくパンクだったし、存在感も際立っていましたよね。

網守「そうなんです。あの時の演奏が、いまやっているDAOKOバンドにも繋がっていったのはすごく感慨深いですね」

大井「さっき網守くんが言った、〈空間と断絶されているようで、繋がってもいるアンビバレンスな状況〉っていうのは、まさにその通りで。僕がやっているDATSやyahyelも、イヤモニで全曲クリックを聴きながら同期やシーケンスの上で演奏するんですけど、よくいうじゃないですか、〈オーディエンスの熱量や、その場の空気感で演奏のグルーヴやテンポが変わる〉〈それがライブの醍醐味じゃ!〉みたいなこと(笑)。

でも、僕らやYMC、YMOがやっていること、試みていることは、それとは違う〈快楽〉だと思うんですよね。お客さんには聴こえないグリッドに支配されながら、その上で各自がインナースペースに入っていくっていう。その研ぎ澄まされていく感じがとても好きなんです」

網守「高田漣さんとか、クリックを聞いているはずなのに全く聞いているように見えない演奏をしていて。その境地まで行くんだなって思いました。高田さん、“MAD PIERROT”にペダル・スティールを入れてくるんですよ(笑)? それでクリックにしっかり合わせてくる。一体どんなタイム感覚を持ち合わせているんだろう。これが本物のYMOチルドレンか……って、あれは感動しました」

――“MAD PERROT”のアレンジは網守さんと高野さんが共同で考えたそうですが。アレンジをしてみたことで、改めて気づいたこの曲の魅力というと?

網守「“MAD PERROT”はもう、〈なんでそうなるの?〉の連続ですよね。特に細野さんの曲の構造はそう。僕、坂本さんがやっていることはある程度分かるんですよ、出自が一緒なので。でも細野さんの発想は謎だらけで、〈これ、原曲を超えるなんて無理だな〉と思って、最終的にほぼ忠実にアレンジしていきましたね」

――高野さんが寄稿したライナーによれば、この日のコンセプトは〈テクノとは違う形でYMOの遺伝子を受け継いだアーティストを中心に据えたYMOトリビュートコンサート〉だったそうですね。

網守「もし第2弾が実現するなら、次は違うコンセプトでやってみたいですね。それこそ、僕のようにSKETCH SHOWとかから入ったファンが考えるYMCとか。3人全員ラップトップの前で、オブジェクト指向プログラミングを実行しながらライブをやる、みたいな時期もあったわけじゃないですか。YMOの、そういう側面のほうが実はいま、忘却されているんじゃないかと僕はずっと考えているんですよね。その遺伝子を引き継いだYMOチルドレン、グランド・チルドレンによるYMCも観てみたいです」

――確かに〈YMOは単なるテクノ・バンドではない〉という認識はかなり広く浸透した気はしますけど、逆に、テクノロジーを駆使しまくった集団という側面が薄まってきている気はします。両軸あってこそのYMOですからね。

網守「僕がファースト・アルバム『SONASILE』(2016年)を出したPROGRESSIVE FOrMというレーベルが、2000年代に出していたカタログは、CDの帯文などでこの3人からコメントをもらっていたりして。当時、青山CAYあたりでかなりアヴァンギャルドなイベントが多く、そこにキュレーターや出演者として3人が関わっていたり、それこそ佐々木敦さんなども関わったりしていたことを、僕は後追いで知って。当時のあの3人は、YMOとは無関係にテクノロジーを媒介にして新しい世代と一緒に音楽を作っていました。それも僕はリアルタイムで観ていないのですごく憧れがあるんですよ。

いまおっしゃったように、YMO自体、当時の最新テクノロジーに対する一つの提案としてああいう音楽をやったわけですよね。で、その後にも彼らはSKETCH SHOWなどでその試みをやり続けてきているのに、それが忘れられているのはもったいないと思うんです。当の本人たちが、その頃のことをあまり語らないからなかなか難しいところがあるんですけど」

――そのミッシングリンクを見出し提示していくことも、YMOの遺伝子を引き継いだ者の役割かも知れないですね。

網守「そう思います。それだけいろんなレイヤーがあるところが、YMOの凄さですしね」

 


INFORMATION

Yellow Magic Children=YMCは、早くも第二弾のライブを準備中……!
そこで、次の公演で演奏してほしい曲、演奏してほしいアーティストをTwitter上で大募集しています!!
投稿の際はタグ「 #YMC02 」を記載のうえ、YMOにまつわるご自身のエピソードも一言を添えて、ツイートしてください!!!

 


LIVE INFORMATION

★網守将平と大井一彌が出演!
〈DAOKO「二〇二〇 御伽の三都市 tour」〉

2020年2月3日(月)愛知・名古屋CLUB QUATTRO
開場/開演:18:30/19:30
問い合わせ:JAIL HOUSE 052-936-6041

2020年2月4日(火)大阪・梅⽥CLUB QUATTRO
開場/開演:18:30/19:30
問い合わせ:清⽔⾳泉 06-6357-3666

2020年2月10日(月)東京・恵比寿リキッドルーム
開場/開演:18:30/19:30
問い合わせ:ホットスタッフプロモーション 03-5720-9999

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