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 YouTubeやサブスクリプション・サービスが浸透して以後、過去の音楽へのアクセスは誰にとっても容易になり、その接し方はよりオープンなものとなった。サンプリング・カルチャーに馴染みのあるDJやビートメイカーだけではなく、ミュージシャンもその恩恵に預かり、過去の音楽から新たなアイディアやインスピレーションを得ている。『Drunk』でサンダーキャットが見せたジャンルを横断し、時代を遡って多様な音楽やミュージシャンと繋がっていく姿勢には、そのことがよく顕れていた。ミュージシャンとして腕を磨き、やがてソロのリーダー作をリリースするという、従来のジャズ・ミュージシャンのステップアップとは異なったプロセスを歩み、自らプロデューサーとしての視点も持って、作品の全体像や人選を固めていったのが、サンダーキャットを特別なアーティストにした。

THUNDERCAT It Is What It Is Brainfeeder/BEAT(2020)

 『Drunk』以来の、3年振りとなる新譜『It Is What It Is』は、端的に言えば極めてパーソナルなアルバムだ。前半こそファンキーなムードだが、次第に落ち着いたムードも顕れて、内省的なモノローグのように感じる曲もある。プロデューサーを務めたフライング・ロータスとは『Drunk』以上に密にやり取りをして作られたアルバムだというが、そのことがサンダーキャットの個の部分をより際立たせることになったのだろう。一方で、スレイヴのスティーヴ・アーリントンとジ・インターネットのスティーヴ・レイシー、チャイルディッシュ・ガンビーノを出会わせたり、ヒップホップ・スターでシンガーでもあるタイ・ダラー・サインとカルト的な人気を得ているリル・Bを組み合わせるなど、プロデューサーとしてのセンスを発揮した楽曲もある。そんな中でもアルバム・タイトル曲は最も印象深い。ブラジル、ミナスの気鋭のギタリスト、ペドロ・マルチンスを招いて、このアルバムのラストを飾るに相応しい、ギターとベース、ヴォーカルが美しいアンサンブルを形成する。LAとミナスを繋ぐように表現されたこの曲からは、サンダーキャットの次なるヴィションを垣間見ることができるだろう。