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虚無と諦観の時代にスパークするロック・バンド

このアルバムを聴いたとき、〈うわ、曽我部恵一がロックしてる!〉という感想が自然と口から洩れた。閃光のごとく眩いギター、地を這うベース、焦燥感を抱えたドラムス――この3人組が演奏しているのは、まぎれもなくロックだ。

今年の1月末に、新ドラマーとして大工原幹雄が加入したサニーデイ・サービス。そのステートメントで、曽我部は〈今また、バンドを始めたばかりの頃のような気分です〉と綴っている。不動のメンバーであった丸山晴茂を亡くし、約1年の休止期間にその不在を噛み締めたうえで、曽我部と田中貴は、また歩みはじめた。新たに旅路に加わった仲間とともに。

曽我部恵一のロック・バンドといえば、文字通り曽我部恵一BANDが最初に頭に浮かぶ人も多いだろう。確かに、瑞々しい初期衝動を鳴らしているという点で、ソカバンのファースト・アルバム『キラキラ!』(2008年)と、この『いいね!』は隣り合っているようにも思える。

だが、これはほかの何物でもなく新しいサニーデイ・サービスなのだ。音楽的には、サニーデイの諸作も含めた曽我部のディスコグラフィーのなかで、ポスト・パンクのサブジャンルという意味でのネオアコに、もっとも接近した作品だろう。なにせ1曲目から“心に雲を持つ少年”だ。しかもこの曲で、曽我部はジョニー・マーばりのリリカルなギターを奏でている。あげくに終盤では、〈ずっと消えない太陽がある〉と繰り返す。英語に訳すなら〈There Is A Sun That Never Goes Out〉といったところだろうか。

また、さりげなくレゲエを採り入れた“ぼくらが光っていられない夜に”はモノクローム・セット風。“コンビニのコーヒー”はソフト・ボーイズのジャンクなサイケ・ポップを思わせる。そして、疾走感に溢れた“センチメンタル”はペイル・ファウンテンズ(のセカンド)とあわせて聴きたくなった。

80年代のポスト・パンク・バンドたちの多くがそうであったように、『いいね!』はロック・バンド然としたサウンドながらも、どこか冷めた質感を貫いている。そこには、いまを生きるうえで感じずにはいられない諦観や虚無を反映している面もあるだろう。そして、その内向的な表情こそが、このアルバムを2020年の音楽たらしめていることは間違いない。

それでもなお、弦を切りそうなくらいに荒々しくギターを弾きながら〈春はとっくに終わったのにね〉と叫ぶ曽我部の顔は、キラキラ(あるいはギラギラ)と輝いている。バンドで向き合い、〈1234〉というカウントのあと、一斉に腕をふりおろす。その何かがスパークする瞬間を、サニーデイはふたたびとらえたのだと思う。

〈始めたころのような気分〉を何度でも繰り返すこと。『いいね!』は、思春期にかかった熱病にいまだ浮かされ続ける誰かのためのレコードだ。ともすれば、その執着は曇天の時代において、一抹の光を放つための、抵抗のひとつでもある。 *田中亮太