2019年を象徴するブレイク・アーティストの一人となったリゾ(Lizzo)。最多ノミネートを記録したグラミーを迎える前に、その軌跡と魅力の本質を改めておさらいしておこう!

自分のジュースを誇るべき

 2019年最大のブレイク・アーティスト。リッキー・リードがアトランティック傘下に立ち上げたナイス・ライフと2016年3月に契約するも、2019年に入るまで知る人ぞ知る存在だったリゾは、その年を通じての活躍によって全米を越える世界的なスターとなった。まず、プラスサイズな体型をアピールしながら、自分のジュース(魅力)を誇るべきだと人々を鼓舞した“Juice”が年頭に発表され、その人気に乗じて“Truth Hearts”(2017年)がNetflixのラブコメ映画「サムワン・グレート 輝く人に」にて劇中使用されるなどして再ヒット。女性ソロ・ラップ曲では最長となる全米シングル・チャート7週間1位を記録した。また、第62回グラミー賞ノミネーションでは、〈最優秀楽曲賞〉〈最優秀レコード賞〉〈最優秀ポップ・ソロ・パフォーマンス賞〉の3部門に“Truth Hearts”が選出。加えて〈最優秀新人賞〉など主要4部門を含む計8部門に選出されたリゾは、ビリー・アイリッシュやリル・ナズ・Xの6部門を上回る最多ノミネートとなっている。

 稀に見るスピード出世とも言われそうだが、彼女のプロとしての音楽活動歴は10年近くに及ぶ。出身地デトロイトから移住したヒューストンにて組んだロック・バンドのエリプシーズでフルートを吹き、ミネアポリス移住後はポップ・デュオのリゾ&ザ・ラーヴァ・インク、ガールズR&Bグループのチャリスなどに在籍。2013年と2015年にはソロ・アルバムもリリースしている。ここまでの期間は、現在の状況からすれば〈不遇の時代〉とされるのかもしれないが、堂々としたパフォーマンス、アルバム『Cuz I Love You』における全方位的なポップネスは突然身についたものではなく、この10年間の集大成である。

LIZZO Cuz I Love You Nice Life/Atlantic/ワーナー(2019)

 2019年春にはコーチェラ・フェスティヴァルに出演。それ以前に2017年のエッセンス・フェスティヴァルに出演した際には〈Sworn To Positive Music〉というキャッチコピーを掲げてポジティヴ宣言をしていたが、リッキー・リードとネイト・マーセローが手掛けた80s風ポップ・ブギーな“Juice”はその宣言のストレートな体現で、本人が言うように「アルバム(『Cuz I Love You』)を象徴する曲」となった。〈Blame It On The Juice〉(きっと私のジュースのせい)というサビのリリックはリゾが客演したチャーリーXCX“Blame It On Your Love”でも用いており、2019年の名パンチラインと言えるかもしれない。また、ポップ&オークのオーク・フェルダーが手掛けた“Like A Girl”は、チャカ・カーンやローリン・ヒル、セリーナ・ウィリアムズの名前を出した女性讃歌でありながら〈女性の身体を持たないけど心は女性の人〉を勇気づけるLGBTQ側に立ったエンパワーメント・ソング。そんなメッセージが高圧的にならないのは、同時期に頭角を現したチャンス・ザ・ラッパーに通じるポップな曲調や人懐っこいヴォーカル/ラップのせいでもあるだろうし、セーラームーンの衣装を着てフルートを吹くコミカルな雰囲気も敷居を低くしているのだろう。