天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。今週の前半は、2月2日に行なわれたスーパーボウル・ハーフタイムショーでのジェニファー・ロペス&シャキーラのパフォーマンスが話題をかっさらいましたね」

田中亮太「いや~、最高でした。非常にアメリカ的、白人男性的なイベントに、ラティーナである2人の女性が主役として立った、という歴史的な意味合いもありますが、彼女たちのパフォーマンスがとにかくパワフルで。シャキーラは43歳、J. Loにいたっては50歳という年齢でのあのステージングは、〈何歳になっても好きな格好をして、セクシーでいていいんだ〉と多くの人に勇気を与えるものだったと思いますね」

天野「一方、訃報もありました。2月1日にギャング・オブ・フォーのギタリスト、アンディ・ギルが亡くなりました……。享年64。プロデューサーとしても活躍したギルですが、彼のザクザクとしたカッティング・ギターはポスト・パンクを定義したサウンドのひとつ。あのソリッドで刺々しい音をもう聴けないと思うと、悲しいですね」

田中「ええ。2000年代前半の〈ポスト・パンク・リヴァイヴァル〉時には、多くのフォロワーが登場しました。いまだ影響力の衰えない不世出のギタリストでしたよね。では、気持ちを切り替えて今週の5曲にいきましょう。まずは〈Song Of The Week〉から!」

 

1. Lido Pimienta “Eso Que Tu Haces”
Song Of The Week

田中「〈SOTW〉はリド・ピミエンタの “Eso Que Tu Haces”! このミュージック・ビデオ、ドローンを使った撮影とカラフルな衣装に目を奪われますね。彼女は、コロンビア生まれで現在はカナダのトロントを拠点に活動するシンガー・ソングライター。ここ1年くらいラテン・ポップへの関心を公言してきた天野くんも気になってた存在だとか」

天野「そうですね。主な興味はレゲトン/ラテン・トラップなので彼女はちょっとちがうのですが、ラテン性を感じる音楽全般に興味があります。で、ピミエンタは2016年にリリースしたアルバム『La Papessa』が高く評価され、カナダの権威ある賞〈Polaris Music Award〉を獲得しました。トラディショナルなコロンビア音楽と先鋭的なエレクトロニック・サウンドを融合した作品で、いま聴いてもめちゃくちゃフレッシュ。この新曲は同作の延長線上にありつつも、鍵盤やホーンが力強くて、ポップスとしてより洗練された印象です」

田中「〈Eso que tu haces(あなたがすること)〉と伸びやかに歌い上げるコーラスが耳に残りますね。ホーリーでシャーマニックな感じは、ビョークの“Joga”(97年)を想起しましたが。ローカルな音楽性とエクスペリメンタルなプロダクションを合わせて、エッジ―なポップを作り出す存在としては、ここ数年スペインのロザリアの活躍が目覚ましいですが、ピミエンタは肩を並べる存在になりそう。4月17日(金)にリリースされる新作『Miss Colombia』への期待も高まります」

 

2. Tory Lanez feat. Fivio Foreign “K Lo K”

天野「2位はトーリー・レインズ × ファイヴィオ・フォーリンの“K Lo K”です。フィーチャーされているファイヴィオ・フォーリンは、〈2020年期待の洋楽アーティスト50〉でご紹介したとおり、盛り上がりを見せるブルックリン・ドリルのラッパーですね。シーンを代表するポップ・スモークの素晴らしい新作『Meet The Woo 2』が本日2月7日にリリースされましたが、そこにも参加しています。リッチ・ザ・キッドとの新曲“Richer Than Ever”も話題で、いま注目のラッパーです!」

田中「主役のトーリー・レインズを差し置いて、だいぶ説明しましたね(笑)。トーリーは、カナダのトロント生まれ、米フロリダ州マイアミ育ちのラッパーです。10代からラップを始め、シングル“Say It”(2015年)“Luv”(2016年)で注目を集めました。最新作は2019年の『Chixtape 5』。彼の特徴は甘い歌声で、ラッパーというよりほとんどR&Bシンガーに近いですね」

天野「ジャンル横断的なセンスは、以前ビーフでやりあったドレイクっぽいですよね。この“K Lo K”はEC・フレスコ(EC Fresco)というトーリーの作品を手掛けるプロデューサーが作っていて、ドリルをかなり意識したビートです。2020年、アメリカではドリルが流行るかも? ビートに合わせてトーリーは甘い歌声を封印し、ハードでアグレッシヴなラップをしています。曲名の〈K Lo K(Que lo que?)〉はドミニカのスラングで〈What’s up?〉〈What’s happening?〉を意味するんだとか。トーリーはお母さんがキュラソー、お父さんがバルバドス出身なので、カリブ海のルーツを意識しているんでしょうか」

田中「彼は今日も新曲“Broke In A Minute”をリリースしましたね。そちらも硬派でシリアスな作風でかっこいいです。ビデオは8日(土)公開!」

 

3. Christine And The Queens “People, I’ve been sad”

田中「3位は、仏パリのエロイーズ・アデレード・ルティシエ(Héloïse Adelaïde Letissier)によるソロ・プロジェクトであるクリスティーヌ・アンド・ザ・クイーンズの”People, I’ve been sad”。上の動画は〈COLORS〉でのパフォーマンス映像です」

天野「2019年にはチャーリー・XCXとの共演が話題になりましたね。僕はファースト・アルバムのアメリカ版『Christine And The Queens』(2016年)でクリスの大ファンになったんです。彼女……という言い方は適切ではありませんが、クィアであることをオープンにしているクリスのことは、ジェンダーを越えた音楽家として尊敬しています。なんとなく、スウェーデンのロビンの姿を重ねてしまって。クリスの音楽性は、ロビンほどダンス・ミュージック寄りではないのですが」

田中「この曲はアルバム『Chris』(2018年)以来の新曲で、スロウなテンポのビートに乗せ、〈私は悲しかった〉〈道を見失っていた〉と切々と歌われますね」

天野「フランス語と英語が混ざった歌詞がクリスらしい。昨年4月に亡くなった母に捧げた楽曲と言う解釈もあるようですが、僕にはどうも社会の分断を歌っているように思えて。〈あなたが消えたら……〉〈ばらばらに壊れたら……〉といったラインが示唆的ですね」

 

4. Overcoats “Fire & Fury”

田中「4位はオーヴァーコーツの“Fire & Fury”。NYを拠点に活動する、ハナ・エリオン(Hana Elion)とJJ・ミッチェル(JJ Mitchell)の2人組です。2017年にアーツ&クラフツからファースト・アルバム『YOUNG』をリリースしました」

天野「アーツ&クラフツといえば、ブロークン・ソーシャル・シーンのケヴィン・ドリューが設立したレーベルですね。BSBやスターズなどの作品をリリースしていることで知られていて、オーヴァーコーツの浮遊感に溢れたエレクトロ・ポップ・サウンドは、すごくこのレーベルらしいなと感じます。この“Fire & Fury”は、インディー・ロックのポップ化が進んだ2010年代前半のサウンドに近い印象」

田中「確かに。オルタナティヴ・フォークから突如ダンス・ポップにイメチェンしたティーガン&サラやアイコナ・ポップを思い出しますね。田中はどちらも死ぬほど好きです! プロデューサーのジャスティン・ライセン(Justin Raisen)は、チャーリー・XCXやスカイ・フェレイラの諸作を手掛けてきた人なので、こういったサウンドはお手の物といったところ。〈炎があり 怒りがあり 空が落ちてくる だけど私たちは乗り越える〉という勇ましいコーラスも最高です。この曲を収録したアルバム『The Fight』は、3月6日(金)にリリース。タイトルもめっちゃ良い!」

 

5. Jockstrap “Acid”

天野「5位はジョックストラップの“Acid”です。ジョックストラップは英ロンドンで活動するジョージア・エレリー(Georgia Ellery)とテイラー・スカイ(Taylor Skye)のデュオ。このシングルのリリースと同時に、なんとワープと契約したことを発表しました」

田中「米アリゾナのヒップホップ・トリオ、インジャリー・リザーヴやディーン・ブラントといった変わり者たちとも交流があるようですし、不思議なバンドですよね。この“Acid”はストリングスと歪んだエレピ、スペーシ―なシンセサイザーのシーケンス、トラップ風のハイハットといったエレメントが混ざりあった、8分の6拍子のリズムの曲。大胆な編集やヴォーカルのエフェクトが効いていて、音の風景がどんどん変わっていきます」

天野「摩訶不思議で実験的、なのにユーモラスで親しみやすい。ちょっとレッツ・イート・グランマU.S.ガールズっぽい感じもありますね。ポテンシャルをかなり感じますし、制作中だというアルバムがめちゃくちゃ楽しみです!」