写真手前が磯野くん
 

YONA YONA WEEKENDERSがリリースした新EP『街を泳いで』。市井の人々の姿を映したシティ・ポップとでも言うべき同作について、先日Mikikiではフロントマンの〈磯野くん〉が語ったインタビューを公開しました。続いて今回は、磯野くん自身によるセルフ・ライナーノーツを掲載。『街を泳いで』に収録された5曲がいかに生まれたのかを、ペーソス溢れるタッチで綴った全曲解説になっています。これを読むと、『街を泳いで』がさらに愛おしくなること間違いなし! *Mikiki編集部

YONA YONA WEEKENDERS 『街を泳いで』 para de casa(2020)

1. “遊泳”
背徳のビールが教えてくれた、日常の中のキラキラ

もう時効だと思うので白状するが、以前ただの一度だけ極上のビールを飲んだことがある。

当時、早々にその日のノルマを達成し、気が大きくなっていた私は、「ちょっと出てきま〜す」と何食わぬ顔で街に出て、前々から目をつけていたある老舗の天ぷら屋に向かった。行列必至の人気店で、通常の1時間のランチ休憩では到底ありつけない。

名物の天ぷらめしに舌鼓を打ちながら、「今日くらい良いよね……」と〈リトル磯野〉の了承を得て、またしても何食わぬ顔で瓶ビールを注文した。皆がせっせと仕事に励んでいる最中のビールは、背徳感も相まって極上の味わいで、なんとも表現し難い幸福感に包まれた。

酔い覚ましにと、いつもの道のりを少し迂回してみる。

誰に頼まれた訳でもないのだが、私は社会人の自分を〈磯野さん〉、それ以外を〈磯野くん〉として差別化している。天ぷら屋でビールをキメた時点でその日は早々に〈磯野くん〉になってしまった訳だが、磯野くんとして歩いたその道のりは心なしかいつもより鮮やかに感じた。

忙しなく行き交うオフィスワーカー達を尻目に、たまたま目に付いた神社に立ち寄ってみたり、家電量販店で買うつもりもないコーヒーメーカーを眺めたり。路地裏に美味しそうなラーメン屋を発見したり、スマホ片手にポケモン捕獲に勤しむじいちゃんばあちゃんたちを見付けて微笑ましい気持ちになったり……。そんなこんなで、ささやかながら優雅な昼下がりを満喫したのだった。

ちょっとした意識の変化で、世界はいつもと違った顔を見せてくれる。

“遊泳”は、ルーティン化した日々の息苦しさ、退屈さから解き放してくれる様な軽やかなナンバーだ。無論、勤務中の飲酒は許されるものではないが、たまには肩の力を抜いて、街を泳ぐような感覚で歩いてみると、日常の中にもキラキラしたものがそこかしこに転がっていることに気付くだろう。そのキラキラは、きっと私たちの人生をほんの少し彩ってくれるはずだ。

日本中の働く皆さん、今日もお仕事お疲れ様です。今夜もビールが美味い!

 

2. “So much fun”
普通のおっさんになれず、夢を見続ける

たまたま知人の結婚式が重なり、旧友と顔を合わす機会が多かった時期がある。その時に、円卓を囲んで繰り広げられる、家や車を買った話、子供のお受験の話、嫁がケチで小遣いが少ない話etc...に時の流れを感じ、めちゃくちゃエモい気持ちになったことがあった。

プロ野球選手になって女子アナを紹介すると約束してくれたあいつも、AVのモザイクを外す機械を開発するから投資してくれと言っていたあいつも、すっかりしょぼくれた普通のおっさんになってしまっていた。

普通であることを否定するつもりはないし、賃貸暮らしの身からすればマイホームなんて心底羨ましい話だ。けれど、当時の彼らはギラギラと輝いていて、妙にカッコよかったことを私は覚えている。

斯く言う私も、その頃ギラギラだったうちのひとりだ。「東京行って歌手になるけぇ」と地元を飛び出してから十数年。お前まだバンドやってんの?と笑われたこともあった。前のバンドも解散してしまったし、普通のおっさんに憧れたこともあった。

昨年、本っ当に色々な縁があって念願のファーストEPをリリースし、あれよあれよという間にセカンドEPが発売された。それでもまだまだ全然物足りないので、これからも私は夢を見続ける。

この曲は、そんな私の心の叫びなのだ。