
YONA YONA WEEKENDERSがリリースした新EP『街を泳いで』。市井の人々の姿を映したシティ・ポップとでも言うべき同作について、先日Mikikiではフロントマンの〈磯野くん〉が語ったインタビューを公開しました。続いて今回は、磯野くん自身によるセルフ・ライナーノーツを掲載。『街を泳いで』に収録された5曲がいかに生まれたのかを、ペーソス溢れるタッチで綴った全曲解説になっています。これを読むと、『街を泳いで』がさらに愛おしくなること間違いなし! *Mikiki編集部

1. “遊泳”
背徳のビールが教えてくれた、日常の中のキラキラ
もう時効だと思うので白状するが、以前ただの一度だけ極上のビールを飲んだことがある。
当時、早々にその日のノルマを達成し、気が大きくなっていた私は、「ちょっと出てきま〜す」と何食わぬ顔で街に出て、前々から目をつけていたある老舗の天ぷら屋に向かった。行列必至の人気店で、通常の1時間のランチ休憩では到底ありつけない。
名物の天ぷらめしに舌鼓を打ちながら、「今日くらい良いよね……」と〈リトル磯野〉の了承を得て、またしても何食わぬ顔で瓶ビールを注文した。皆がせっせと仕事に励んでいる最中のビールは、背徳感も相まって極上の味わいで、なんとも表現し難い幸福感に包まれた。
酔い覚ましにと、いつもの道のりを少し迂回してみる。
誰に頼まれた訳でもないのだが、私は社会人の自分を〈磯野さん〉、それ以外を〈磯野くん〉として差別化している。天ぷら屋でビールをキメた時点でその日は早々に〈磯野くん〉になってしまった訳だが、磯野くんとして歩いたその道のりは心なしかいつもより鮮やかに感じた。
忙しなく行き交うオフィスワーカー達を尻目に、たまたま目に付いた神社に立ち寄ってみたり、家電量販店で買うつもりもないコーヒーメーカーを眺めたり。路地裏に美味しそうなラーメン屋を発見したり、スマホ片手にポケモン捕獲に勤しむじいちゃんばあちゃんたちを見付けて微笑ましい気持ちになったり……。そんなこんなで、ささやかながら優雅な昼下がりを満喫したのだった。
ちょっとした意識の変化で、世界はいつもと違った顔を見せてくれる。
“遊泳”は、ルーティン化した日々の息苦しさ、退屈さから解き放してくれる様な軽やかなナンバーだ。無論、勤務中の飲酒は許されるものではないが、たまには肩の力を抜いて、街を泳ぐような感覚で歩いてみると、日常の中にもキラキラしたものがそこかしこに転がっていることに気付くだろう。そのキラキラは、きっと私たちの人生をほんの少し彩ってくれるはずだ。
日本中の働く皆さん、今日もお仕事お疲れ様です。今夜もビールが美味い!
2. “So much fun”
普通のおっさんになれず、夢を見続ける
たまたま知人の結婚式が重なり、旧友と顔を合わす機会が多かった時期がある。その時に、円卓を囲んで繰り広げられる、家や車を買った話、子供のお受験の話、嫁がケチで小遣いが少ない話etc...に時の流れを感じ、めちゃくちゃエモい気持ちになったことがあった。
プロ野球選手になって女子アナを紹介すると約束してくれたあいつも、AVのモザイクを外す機械を開発するから投資してくれと言っていたあいつも、すっかりしょぼくれた普通のおっさんになってしまっていた。
普通であることを否定するつもりはないし、賃貸暮らしの身からすればマイホームなんて心底羨ましい話だ。けれど、当時の彼らはギラギラと輝いていて、妙にカッコよかったことを私は覚えている。
斯く言う私も、その頃ギラギラだったうちのひとりだ。「東京行って歌手になるけぇ」と地元を飛び出してから十数年。お前まだバンドやってんの?と笑われたこともあった。前のバンドも解散してしまったし、普通のおっさんに憧れたこともあった。
昨年、本っ当に色々な縁があって念願のファーストEPをリリースし、あれよあれよという間にセカンドEPが発売された。それでもまだまだ全然物足りないので、これからも私は夢を見続ける。
この曲は、そんな私の心の叫びなのだ。
3. “君はcrazy”
某ラーメン店への狂おしいほどの愛を乗せて
今回セカンドEPの制作にあたって、〈とある日の休日〉というテーマを掲げた。前作は〈夜〉ということで、酒で例えるならウイスキーや焼酎など、スモーキーな蒸留酒的イメージ。『街を泳いで』では、休日の昼間に飲む缶ビール的爽快感を随所に散りばめた。
“君はcrazy”もそんな缶ビールソングの一つだ。いや、曲が纏っている雰囲気でいうと、スパークリングワインの方が近いかもしれない。それも手頃な価格で、下手したらラッパ飲みしちゃう様なやつ。
サウンド面では私の愛してやまない70年代のシティ・ポップ要素をふんだんに取り入れ、今作の中では飛び抜けて明るく、酒飲みリーマンバンドのイメージからは一線を画している。歌詞については、一見すると頰も赤らむ様な王道のラブソングだが、実は某有名ラーメン店への狂おしいほどの愛を乗せ込んでいるという緻密な作品だ(自分で言うな)。
缶ビールやらラーメンやら何がなんだかわからなくなってしまったが、とにかく爽やかでいてcrazyな愛の歌である。
4. “東京ミッドナイトクルージングクラブ”
レペゼン田舎者視点で描かれた東京の夜
この曲はYONA YONA WEEKENDERS結成当初、シティ・ポップを謳うにあたり何か都会をテーマにした曲が必要だと思い立ち作曲したものである。
というのも、我々は〈シティ〉には無縁の集まりだ。私は岡山県南部の港町、ギターのキイチは東京の下町代表葛飾区、ベースのシンゴは伊豆諸島の神津島、ドラムスのビーソルは岩手の山奥でそれぞれ青春時代を過ごした。中目黒で結成!とぶち上げたのには、田舎へのコンプレックスが半分くらいはあったかもしれない。
さて、都会的ってなんだろう?と考えた時に、真っ先に思い浮かんだのがクラブだった。私は初めてクラブに行った時の衝撃を今でも覚えている。ノリノリのDJ、畝る重低音、踊り狂う若者たち、VIP ROOMへと消える男女、そしてやたら高いハイネケン……映画やドラマでしか見たことのない世界がそこには広がっていた。
東京タワーや雷門を観に行った時よりも、新宿駅で迷子になった時よりも、吉祥寺駅で楳図かずおを1日に2回観た時よりも、何よりも私は初めてのクラブに〈東京〉を感じたのであった。
今では随分と身近な場所になってしまったが、クラブで過ごす時間は終わりがあるからこそ楽しい。薄暗い空間に、音楽とアルコール。調子の良い兄ちゃんに酒を奢ってもらったり、イケてる姉ちゃんに声を掛けたり、きっともう会うこともないけど、なんだか寂しいような気もするけど、その儚さがなんだか都会っぽくて私は好きだ。
そんなレペゼン田舎者視点で描かれた東京の夜の曲も、あって良いのではないでしょうか。
5. “SUNRISE”
母のアドバイスから生まれたYONA YONA流応援歌
今年の正月実家に帰省した際、前作『夜とアルバム』を聞いた私の母親から、
「なんかもっと誰かを応援するみたいな曲作ったらええんじゃないん? KANの“愛は勝つ”みたいな〜」という的確且つありがたいアドバイスを頂戴した。田舎のおばちゃんには、都会の夜や酒を歌った曲は響かなかったらしい。
とは言え、応援歌というのは目から鱗だった。
前作にも収録されている”明るい未来”。この曲はタイトルとは裏腹に、当時薄給&エヴリデイ残業&休日出勤上等!の絵に描いた様なブラック企業に勤めていた私の会社に対する愚痴をただひたすらに綴ったものだ。そもそもYONA YONA WEEKENDERSの結成も、このブラック企業に就職をして精神を病んでしまった私のストレス解消というところに端を発している。
そこから今日に到るまで数々の曲を生み出して来たわけだが、やれアルプスへGOだの、やれ今夜は無礼講だの、しまいには誰もいない海にまで行ってしまい、無意識のうちに現実世界のしがらみからガッツリ目を背けてしまっている有様である。
仕事なんて自分で選べば良いし、無理してブラック企業で働く必要もない。しかしながら、そうも言っていられない現実があることも理解しているつもりだ。だとすれば、ただ愚痴をこぼすよりもそんな人たちに寄り添い、背中を押してあげられた方が建設的ではないか!と、母のアドバイスから思い立ったわけである。母ちゃんありがとう。
〈All you need is sunrise〉
明日なんて来なけりゃいいのに……と思う日もあるだろう。
でも陽が昇れば、そんな憂鬱を一杯のコーヒーとこの曲で打ち破って欲しい。ちなみに二日酔いの人は経口補水液オーエスワンが効果覿面です。
