“夢で逢えたら”だけじゃない『FLAPPER』の奥深さ
今回の再発盤について、全体的な印象を訊いてみました。
「お化粧された感じで、シャッキリしていて、音をつぶさに聴けますね。『FLAPPER』のレコードを持っておきたい方にとっては定価で買えるので、入門しやすい確実な一枚。状態の良い『FLAPPER』の中古盤はいま、探さないと買えないので」(松本さん)。「音に艶がありますね。オリジナル盤のリリースから時間が経ち、より良くしたいポイントを見つけて、別の完成形を作った印象です。オリジナル盤を持っていても楽しめます」(村越さん)。「オリジナル盤を持っている人のほうが楽しめるかもしれませんね」(松本さん)。

そこから、『FLAPPER』というアルバムの作品性や音楽性に話が及びました。
「これ以降、美奈子さんはファンクやゴスペルを志向して、コンテンポラリーな音楽性になっていく。なので『FLAPPER』は、それ以前とその後の分水嶺です。シティ・ポップの文脈ではこの後の“TOWN”(『MONSTERS IN TOWN』収録曲)などが評価されていますが、美奈子さんの本質はもっと芸術家的で、ハードコアかつシリアス。ファースト(『扉の冬』)が特にそう。良い意味でポップではないから、『FLAPPER』ではそれをポップスとして成立させるためにアレンジャーたちがあれこれやっている印象です」(田中さん)。「『FLAPPER』は〈シティ・ポップ〉じゃなくて、〈日本のポップス〉って感じがしますよね」(村越さん)。
それでは最後の質問。『FLAPPER』で好きな曲は?
「“ラムはお好き?”。僕の両親が山下達郎さんのレコードを聴いていて、めちゃくちゃ音楽に厳しくて怖い人だと幼心に思っていたんです。でも、“ラムはお好き?”のアウトロの〈ワン・モア・コカ・コーラ?〉を聴いて、楽しくて遊び心がある人なんだってイメージが覆ったんです(笑)」(松本さん)。「僕が最初に好きになったのは“朝は君に”ですね。あと、“チョッカイ”。2曲とも佐藤博さんの曲なので、僕はとにかく佐藤さんの音楽が好きなんだと気づきました」(田中さん)。「“ケッペキにいさん”ですね。初めて聴いたとき、衝撃的でした。一回聴いて覚えられる。メロディーを歌うのではなくて、リズムのヴォーカルであそこまで歌える人は他にいないですよ。〈美奈子節〉ですね」(村越さん)。
そんななか、「誰も有名な“夢で逢えたら”を挙げないんですね(笑)!」と松本さんが指摘。「たしかに(笑)。極論すると、“夢で逢えたら”が入っていなくても良いアルバムですね」と田中さん。
吉田美奈子『FLAPPER』談義はまだまだ尽きないので、このあたりで……。
これを読んで興味を持たれた方は、TOWER VINYLで『FLAPPER』の再発盤を手に取ってみてはいかがでしょうか? また、タワーレコード オンラインの特設ページでは今回の4作について田中さんが解説をしているので、そちらもぜひご覧ください!

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TOWER VINYL SHINJUKU
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