ジブリ作品 「風の谷のナウシカ」「もののけ姫」に描かれる人類の愚かな選択と帰結

 自然界では生産者と消費者の関係から発生した有害なものを細菌やキノコのような分解者や、苔や藻や土が無害化し浄化するという循環関係が成り立っている。人間の社会でも同様に祭りや藝能など社会に発生した淀みを無害化し浄化する機能が大事な位置を占めていたのが、いつしか生産と消費の関係だけを重要視する思考が登場し、分解の機能がどんどん隅に追いやられていくことになる。こうした全体性をわかりやすい絵として表現に託したのが「もののけ姫」に代表されるジブリ作品であり、そこに登場する苔むす老木や妖精のような〈精〉たちなのだと思う。この抑圧関係が始まったのがまさに「もののけ姫」で描かれた中世の終わり頃、世界が決定的な転換を始めた時代なのだ。人類が火を手にしてから7度のエネルギー革命の過程で〈火薬〉が生み出され、人類は爆発的なエネルギーを自らの手で作り出すことが出来るようになった。このことが蒸気機関や内燃機関、電気や原子力にまでつながっていく。人類が人工的に爆発を作り出せるようになった時、経済の分野でも爆発的な結合と反応による拡大が始まった。信用を貨幣化し大きな資本を管理して経営する資本主義の萌芽がこの頃から発生し、世界規模の交易が火薬の実用化と共に始まっている。そしてこの世界交易の負の副産物こそが〈ペスト〉をはじめとするパンデミックなのだ。そして人類は原子力からエネルギーを取り出す地点にたどり着くまで、分解者の存在をどんどん追いやりながら交易圏を拡張し生産と消費だけの人工的な世界を作り出そうと突き進んでいた。その当然の帰結として戦争や大飢饉や疫病を繰り返してきたのだ。このことはクラブやライヴハウスや音楽にまつわるものを社会に〈不要〉なものとして切り捨てようとする人々の思考とまっすぐつながっている。その人類の愚かな帰結を神話的に描いたのが「風の谷のナウシカ」だとすれば、「もののけ姫」はそのはじまりを描いているとも言える。

 「もののけ姫」の時代の後、日本は戦国の戦乱を迎える。意外に思われるかもしれないが、ここから江戸時代にかけて日本の森林は危機的な状態にあったとされている。京都の東山にもほとんど木がなかったことは江戸初期の旅行書の挿絵のまばらな木の描かれ方でもわかる。そんな森林の危機も「もののけ姫」の数世代後の話と考えれば歴史はまた全く違った文脈を見せてくれることになる。