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【鈴木英之介】

羊文学 “砂漠のきみへ”

先日メジャー・デビューを発表したバンドによる、配信シングルの1曲目。ホーリーなコーラスワークや空間的な広がりを意識させるギターの音作りからは、ソングライティングを手掛ける塩塚モエカが好きだという北欧の音楽からの影響も感じられる。そして人が置かれたギリギリの心境とあふれそうになる涙を〈砂漠と貴重な水〉に喩えた物語的な歌詞が、幻想的な音世界と調和している。

 

田中ヤコブ “LOVE SONG”

はっぴいえんどから脈々と続く〈日本のフォーク・ロック〉の伝統に新たな名曲が加わった。ロックバンドの家主でも活躍する、注目の宅録シンガー・ソングライターによる新曲だ。〈言った通りに動く機械になれたのに中途半端に伝えようとして本当にすみません〉など暗いフレーズが随所に出てくるものの不思議と悲壮感が感じられず、ほのぼのとした雰囲気が漂うのは、明朗なメロディーと飄然とした歌声による効果だろうか。

 

石橋英子 “Founding 開闢 ─かいびゃく─”

前衛的な作風で知られ、あのジム・オルークとも度々共演している音楽家が手掛けた、アニメ「無限の住人-IMMORTAL-」のサントラ冒頭を飾る一曲。アフロ・パーカッションの合奏を思わせる打楽器の響きに、尺八のような管楽器と琴にも似た弦楽器が重なり、なんともオリエンタルな雰囲気が漂う。そして弦楽器が和風のメロウな旋律を奏でだすと、アルバム『red curb』の頃のRei Harakamiのようなニュアンスも帯び始めるから、いよいよ掴みどころがなくなってくる。しかし全体としては恐ろしいほどに均整がとれていて、聴き心地も抜群。このアーティスト、やはり一筋縄ではいかない……。

 

Nakanoまる “海岸沿いにて”

先日解散を発表したシャムキャッツの菅原慎一がプロデュースを手掛ける一曲。静かなギターの爪弾きに不規則的なビートを叩き出すドラムの絡むイントロが、聴き手をファンキーなグルーヴの世界へ連れていく。そしてそのグルーヴ感あふれる演奏に、まるで自由を体現するかのように伸びやかなヴォーカルを乗せる、Nakanoまる。何も考えずにただ音に身を委ねれば、たちまち開放的な気分になるだろう。

 

坂口恭平 “松ばやし”

建築、文筆、絵画、そして音楽。多方面にわたって才能を発揮するマルチで掴みどころのない男、坂口恭平。これは、そんな彼が2020年9月9日(水)にリリースするニューアルバム『永遠に頭上に』の収録曲だ。寺尾紗穂や厚海義朗、菅沼雄太といった豪華メンバーに支えられて紡ぐのは、アコースティックな質感を活かした、リズミカルで跳ねるような音楽。その独特のリズム感覚からはアフリカン・ポップスなどの匂いもほのかに薫ってくるような……。この人は音楽に関してもやはり越境者なのだろうか?

 

【小峯崇嗣】

MÖSHI “Back And Forth(FUJI ROCK FESTIVAL’20 “ROOKIE A GO-GO”)”

先週末、〈フジロック〉のライブが配信されました。その3日間で、新人の登竜門と言われている今年の〈ROOKIE A GO-GO〉の配信、アーカイヴが期間限定で公開されました。今年は、LIQUIDROOMで撮影したライブを配信。6組のなかには、TOWER DOORSで紹介したアーティストが3組も含まれています。

MÖSHIは、TOWER DOORSが〈POWER PUSH〉したコレクティヴ、Laastc所属のアーティスト。今回が彼の初ライブだったとのことですが、そのことを感じさせないたたずまいと、圧倒的なパフォーマンスでした。

 

Bearwear “I Think(FUJI ROCK FESTIVAL’20 “ROOKIE A GO-GO”)”

Bearwearは、Kazuma(ヴォーカル)とIshimaru(ベース)の2人を中心に2016年に結成されたバンドです。彼らが今年リリースしたセカンド・ミニ・アルバム『:LIVING IN THE ECHO CHAMBER』から、”I Think”をパフォーマンス。ライブにライブを重ねた素晴らしいバンド演奏と、ヴォーカルのKazumaのエモーショナルな歌声が心に突き刺さります。

 

SARM “Muscari(FUJI ROCK FESTIVAL’20 “ROOKIE A GO-GO”)”

ジャズやブルース、ソウルなどから影響を受けたシンガー・ソングライターのSARMが、今年リリースしたデビューEP『I donʼt wanna do』から”Muscari”を披露。新人アーティストとは思えない成熟されたソウルフルな歌声、そして渋い音楽性に驚きを隠せません。

 

kycoh “Life-size”

東京で活動する4人組バンド、kycoh。オートチューンを使用しファルセットを駆使した歌やポスト・ロックや電子音楽などを織り交ぜたサウンドを、彼ら独特のオルタナティヴで鮮やかなポップ・サウンドに昇華した一曲。〈静〉と〈動〉を使い分けた劇的な曲構成に胸を打たれます。彼らはメール・インタビュー〈6つの質問〉に答えてくれています。こちらもぜひお見逃しなく。

 

Bababa Boy “NICHIJO”

福岡出身のシンガー・ソングライター、Bababa Boyのデビュー・シングル。スムースでポップなサウンドと、ソウルフルかつ淡く鮮やかな歌声が絡み合った、絶妙なソングライティングのセンスに驚愕する一曲。小袋成彬とSIRUPを掛け合わせたような驚くべき才能を持っていると感じます。

 

Calli Stephus “NEW BEST FRIENDS”

続いて紹介するのも福岡出身のシンガー・Calli Stephusが、週末CITY PLAY BOYZのメンバーによる全面的にバックアップを得たデビュー作品『FRIENDS』をリリース。この“NEW BEST FRIENDS”は同作からの楽曲。メロウなギターのイントロから、トロピカルで弾けるようなビートに乗った中毒性のある甘美で透明感溢れる歌声によって紡がれる、ポップでリズミカルなメロディーがたまらない一曲です。

 

【田中亮太】

tofubeats “I CAN'T DO IT ALONE”

tofubeatsが新曲“I CAN'T DO IT ALONE”をアナログ盤12インチとデジタル・シングルとしてリリース。といってもこの曲は、彼が2018年のトーフの日(10月2日)にフリー・ダウンロードで発表したもの。タイリー・クーパーがTCクルーとして92年にドロップしたハウス・クラシックを、彼特有の変声と疾走感溢れるリズムでよりジャッキンにカヴァーしています。それにしてもtofubeatsが歌う〈1人じゃできやしない〉に帯びるロマンティシズムの蒼さといったら!

 

DJ TASAKA 『Goodie Bag』 Teaser Mix

新曲↑最高な〈電気〉との仕事でも知られるTASAKAが10月9日(金)にニュー・アルバム『Goodie Bag』をリリース! ノンストップ・ミックス仕様で13曲を収録した同作より10分ティーザーが公開されました。彼ならではのファットなエレクトロを軸にラテンやアフロの隠し味が効いています。いまもっともほしい〈余裕〉の香るダンス・ミュージック。

 

RHYMW SO “HOT”

RHYME SOは、MONDO GROSSOこと大沢伸一が、詩人/アーティスト/DJ/モデルのRHYMEと結成したデュオ。アシッド・ジャズでもラテン・ハウスでもエレクトロでもないトラップ以降のビート・ミュージック……ながら中盤の“Les Fleurs”的展開で昇天しました。