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©Terry Linke

ロス・フィルで指揮者デビュー、そしてボストン・ポップス音楽監督へ

 77年、当時公開されたばかりの「スター・ウォーズ」に感銘を受けたロス・フィル総監督アーネスト・フライシュマンが「スター・ウォーズ」をテーマにした演奏会を企画すると、ウィリアムズがロス・フィルのために書き下ろした“スター・ウォーズ組曲”を当時の音楽監督ズービン・メータがハリウッド・ボウルで指揮し、大変な成功を収めた(デッカ・レーベルもこの時は「2001年~」の失敗を繰り返すまいと、すかさず録音をリリースした)。翌78年も同様の演奏会が企画されたが、メータがすでに音楽監督を退任していたので、フライシュマンはウィリアムズ本人を指揮者として招聘。それまでスタジオでのサントラ録音しか常設交響楽団を指揮したことがなかったウィリアムズは、ロス・フィルでの指揮者デビューを大成功させ、それが80年のボストン・ポップス音楽監督就任に繋がった。

 93年まで彼が同団音楽監督を務めていた13年間は、ちょうど「スター・ウォーズ/帝国の逆襲」から「ジュラシック・パーク」までのスコアを手掛けていた〈傑作の森〉の時期でもある。この間、ウィリアムズはそれらを演奏会用組曲として譜面化し、ボストン・ポップスで世界初演することで、彼の音楽の〈フォース〉を広めていった。もし、そうした〈フォースの経典〉がなかったら、今頃は世界中のオーケストラが“銀河帝国”の操る〈ダークサイド〉に支配されたままだっただろう。

 最後にひとつ、思い出話を。

 僕がタワーレコード渋谷店でクラシック・バイヤーをしていた97年、ウィリアムズがLSOを指揮して“スター・ウォーズのテーマ”を録音したアルバム『ハリウッド・サウンド』をリリースした。それをフロアで流して、いい気分に浸っていると、アメリカ人の男性客が――当然のことながら英語で――話しかけてきた。

 「なぜ、クラシック・フロアでこれを流すのか?」

 「クラシック・レーベルが出しているCDですし、クラシックの一流オーケストラが演奏している。曲もシンフォニックな語法で書かれていますし、何が悪いのですか?」

 そのお客は、納得がいかないという表情をして、その場を立ち去っていった。

 それから20年以上が経過した今年、ウィリアムズがクラシックの〈銀河帝国〉の頂点に君臨する〈皇帝〉ことウィーン・フィルを指揮した歴史的記録『ライヴ・イン・ウィーン』のリリースを、果たして彼はどのように受け止めているだろうか?

 


ジョン・ウィリアムズ(John Williams)
1932年2月8日ニューヨーク州生まれ。アカデミー賞受賞5回、グラミー賞受賞25回、ゴールデン・グローブ賞受賞4回など、数多の受賞歴に輝く〈オールド・スクール〉と呼ばれるハリウッド映画音楽のレジェンドにして、コープランドやバーンスタインらのアメリカ音楽の伝統に連なる作曲家・指揮者・ピアニスト。1978年にロサンゼルス・フィルを指揮してコンサート指揮者デビュー。これまでにボストン響、ニューヨーク・フィル、シカゴ響をはじめとする全米主要オケのほぼすべてとロンドン響を指揮。

 


寄稿者プロフィール
前島秀国(Hidekuni Maejima)

『ジョン・ウィリアムズ ライヴ・イン・ウィーン』(2020年8月14日発売)国内盤解説執筆と、デラックス盤特典Blu-ray本編映像&インタヴュー映像(ジョン・ウィリアムズとアンネ=ゾフィー・ムターの対談)日本語字幕を監修。最近のCD解説執筆に久石譲『Symphonic Suite “Kiki’s Delivery Service”』(日本語・英語とも。2020年8月19日発売)、マックス・リヒター『ヴォイシズ』(2020年9月12日発売)など。その他の活動は各種SNSにて。