さまざまな出来事とさまざまな思いに覆われた2020年を、あなたはどんな年として記憶していくことになるのでしょうか? そう、例えばボン・ジョヴィにとっては……
歴史の証人として突き動かされた
2020年代という、新たなディケイドの幕開けとなった年。ボン・ジョヴィの届けるニュー・アルバムのタイトルはズバリ『2020』。明確なヴィジョンを伴って時代に向き合う彼らは、まぎれもないボン・ジョヴィ節の熱いナンバーをアップデートしながら、現在の世界を形成するさまざまな出来事を曲中に刻み付けている。

もはや彼らを従来的なアリーナ・ロックの範疇だけで捉えている人もいないだろうし、いわゆる〈ボーイ/ガール・ソング〉だけを望みはしないはずだ。リーマンショック以降の不景気を描きつつ、支持するオバマ政権の誕生に希望を託した『The Circle』(09年)はシリアスな眼差しと共にバンドの表現が転機を迎えた一作だったが、それ以降のボン・ジョヴィはより明確なメッセージを発信する存在になった。そうでなくても〈2020〉という数字が今回のアメリカ大統領選挙を強く意識しているのは言うまでもないだろう。サングラスをかけたジョン・ボン・ジョヴィが裁判所の前に立つジャケは、テキサス州で聴衆に向かって演説を行う前、じっくり考え込んでいるケネディ大統領のイメージから着想を得たそうだ。ジョンはこう説明する。
「これは政治的なアルバムじゃない。でも、2020年は自分の記憶にあるどの年とも違う。歴史の証人としてこれらの曲を書かねばと突き動かされたんだ。アーティストが授かった最大の才能とは、心を動かすさまざまな問題について声を上げて語れる能力のことだと信じている」。
レコーディングは全米No.1を記録した前作『This House Is Not For Sale』(2016年)にまで至るここ数作の布陣を基本的に踏襲し、ジョンと共同プロデュースを担うのは『Have A Nice Day』(05年)以来の長い付き合いになっている盟友ジョン・シャンクスだ。長年のメンバーであるデヴィッド・ブライアン(キーボード)とティコ・トーレス(ドラムス)、前作から正式加入したヒュー・マクドナルド(ベース)とフィル・X(ギター)はもちろん、ツアー・メンバーのエヴェレット・ブラッドリー(パーカッション)も参加。ソングライターには『Crush』(00年)以降の全作に関わるビリー・ファルコンも名を連ねるが、多くの曲をジョンが単独で書いている点からも、今回はポップソングとしてのコマーシャルな佇まいより個人的なメッセージを優先したであろうことが窺える。
できることをやる
もともと2020年のアルバム発表は昨年から伝えられており、年頭に先行シングルとして“Limitless”が配信された当初のアナウンスでは今年5月のリリースで確定していた。その“Limitless”は、不透明な時代であろうと〈何とか溺れずに生き延びよう〉〈人生に限界はない〉と前向きに鼓舞するアンセムだったが、そんな矢先に起こったのが今回のパンデミックだ。コロナ禍が広がるなかでメンバーのデヴィッドやエヴェレットの感染も発表され、完成していたアルバムも延期を余儀なくされたのだった。
が、この延期は幸か不幸か『2020』という作品にタイトル通りのさらなる今日性をもたらした。4月時点の曲目と最終のトラックリストを比べれば、“Shine”と“Luv Can”が外れ(日本盤デラックス・エディションには収録)、新たに“Do What You Can”と“American Reckoning”が収録。この新たな2曲こそが作品のキーになっているのは間違いない。
まず、4月に地元ニュージャージーのベネフィット・コンサートでいち早く披露された“Do What You Can”は、3月にジョンが自身の運営するコミュニティ・レストラン〈JBJソウル・キッチン〉で皿洗いする様子を妻のドロシアが撮影し、それをInstagramにアップする際に付けたキャプション〈いつも通りのことがやれない時は、いま自分にできることをやろう〉から生まれたというもの。共にパンデミックに立ち向かう人々への思いを努めて明るく響かせたカントリー調のナンバーだ。
一方、7月に配信された“American Reckoning”は自粛期間に起こったジョージ・フロイド氏殺害に衝撃を受けたジョンが書き下ろした曲。後述する通りアルバムにはもともと人種差別に抗議するニュアンスの楽曲も収録されていたのだが、ここではより直接的にリスナーに行動を呼び掛けつつ、声を張り上げることなく重々しい歌い口で事態の深刻さを訴えている。
時代に対する感情
それ以外の楽曲は〈かつての日常〉から生まれた楽曲ということになるが、つまりはここに並ぶ問題意識が普遍的なものだということでもある。もともと2018年に書かれた曲だという、美しいストリングスを備えたアーシーなロック・ナンバー“Blood In The Water”が〈俺は新体制の代弁者/『アナーキー・トゥデイ』のスター/俺はページの一番下に表示されて人々が読み続けるコメント/俺が握っているのは実権/俺は愛国者/俺の本業はロシアのハッカー〉と皮肉めかして歌いかける意味は説明するまでもないか。他にも描かれるのはアメリカの諸問題――PTSDに苛まれる退役軍人たちを取り上げたドキュメンタリー映画「To Be Of Service」のために書かれた“Unbroken”も然り、銃乱射による無差別殺人事件をテーマにした“Lower The Flag”も然り。シンプルなギターの弾き語りで披露される後者では、オハイオ州デイトン、ネバダ州ラスヴェガス、サンディフック小学校、フロリダ州オーランド、コロンバイン……と痛ましい事件に巻き込まれた都市の名が暗唱されるアウトロも強烈だ。
さらに、ストーンズっぽいシンプルなリフが印象的なロック・ナンバー“Brothers In Arms”は元NFL選手のコリン・キャパニックがテーマ。2016年にアフリカ系アメリカンへの警察暴力に抗議して国歌斉唱時に膝をついて起立を拒否したキャパニックは、数年に渡ってNFLチームと契約のない状況にある(BLM運動の広がった今年6月にNFLは謝罪)。ともすれば抗議の在り方そのものが賛否を呼んでさらなる分断が推進されかねない状況だが、ジョンはそれぞれの異なる見解を尊重しつつ、互いの違いについて公平な議論が行われるよう問いかけている。
愛について歌うオルタナ調の“Beautiful Drug”などもありつつ、いつものボン・ジョヴィと比べれば重苦しい雰囲気のアルバムなのは疑いない。ただ、そうした作品全体のトーンを清らかに象徴する“Let It Rain”が〈いつか偏見の目がなくなって/眠るベッドや祈る神/あるいは肌の色によって/判断されなくなる日が訪れるかもしれない〉と歌いかけるように、ジョンは転機を迎えつつある自国の未来を諦めたくないということなのだろう。その意味でも『2020』は、いまの時代に対する自分たちの感情を素直に反映し、いまのボン・ジョヴィを体現する作品なのだ。
『2020』に臨む前に……2010年代のボン・ジョヴィ
すっかり大御所になった2010年代にあっても、ジョンを中心にバンド外での仕事はいくつか残されている。まず、同じマネジメントに属していたミート・ローフの『Hang Cool Teddy Bear』(2010年)にはジョンがビリー・ファルコン×デズモンド・チャイルドと共作したドラマティックな“Elvis In Vegas”を提供。ジョンはビーチ・ボーイズの復活作『That's Why God Made The Radio』にて“Summer's Gone”の作詞にも関与した。らしさの強いコラボとしては先鋭的なカントリー・デュオのビッグ&リッチによる『Hillbilly Jedi』(2012年)にてジョン&リッチーが“Born Again”を共作/客演し、“Can't Be Satisfied”を提供しているので一聴を勧めたい。
一方でデヴィッド・ブライアンはブロードウェイ・ミュージカル「Memphis」(2009年)の音楽を手掛け、翌年のトニー賞で最優秀楽曲と最優秀編曲を含む4部門で受賞。日本でも上演されるヒット作となった(UK版はビヴァリー・ナイトらキャストの歌うサントラも出た)。なお、バンド脱退前の2012年にソロ作『Aftermath Of The Lowdown』も残したリッチー・サンボラが、近年オリアンティとのコンビ=RSOで80年代テイストなアルバム『Radio Free America』を発表していることも付け加えておこう。

BON JOVI 『Greatest Hits (The Ultimate Collection)』 Mercury(2010)
25年分のシングル・ヒットを集大成したベスト盤。4番打者揃いの強力打線という感じだが、さらに社会派の前年作『The Circle』に合わなかったものも含む新曲を追加し、なかでも初めてハワード・ベンソンのプロデュースで臨んだ“What Do You Got?”は強力だ。

BON JOVI 『What About Now』 Mercury(2013)
10年代で最初のオリジナル・アルバムは引き続きジョン・シャンクスのプロデュース。ポジティヴなリード曲“Because We Can”などアンセミックでスケールの大きい曲が揃う。本作のツアー中に離脱したリッチー・サンボラにとってはフル参加した最後の作品となった。

BON JOVI 『Burning Bridges』 Mercury/ユニバーサル(2015)
コンセプトなしに過去の録音と新曲が混在した変則的な成り立ちの一枚で、リッチーは共作者にのみ名を連ねる一方、デズモンド・チャイルドも30年ぶりに不参加。ギターでも活躍するジョン・シャンクス色が濃いなか、レーベルへの不信感を吐き捨てた表題曲が異彩を放つ。

BON JOVI 『This House Is Not For Sale』 Island/ユニバーサル(2016)
ヒュー・マクドナルドとフィル・Xが正式加入した5人組での初作。スプリングスティーン色の濃いナンバーを中心にジョン・シャンクスが全面制作にあたり、ビリー・ファルコンの共作曲も増加した。オリジナル作としては『Lost Highway』(07年)から4枚連続で全米1位を獲得。

VARIOUS ARTISTS 『Stand Up Guys』 Lakeshore(2013)
アル・パチーノとクリストファー・ウォーケン、アラン・アーキンが顔を揃えた映画「ミッドナイト・ガイズ」のサントラ。ソウル系の楽曲が並ぶなか、ジョンがソロで2曲を渋く歌唱し、そのうち“Not Running Anymore”はゴールデングローブ賞の主題歌賞にノミネートされた。

VARIOUS ARTISTS 『Finding Neverland The Album』 Republic(2015)
2015年にブロードウェイ進出したミュージカル「ファインディング・ネバーランド」の劇中曲を、カイザやパロマ・フェイス、エリー・ゴールディング、ジェニファー・ロペスら多彩な豪華メンツが披露したアルバム。ジョンがソロで“Beautiful Day”を歌唱している。