できることをやる
もともと2020年のアルバム発表は昨年から伝えられており、年頭に先行シングルとして“Limitless”が配信された当初のアナウンスでは今年5月のリリースで確定していた。その“Limitless”は、不透明な時代であろうと〈何とか溺れずに生き延びよう〉〈人生に限界はない〉と前向きに鼓舞するアンセムだったが、そんな矢先に起こったのが今回のパンデミックだ。コロナ禍が広がるなかでメンバーのデヴィッドやエヴェレットの感染も発表され、完成していたアルバムも延期を余儀なくされたのだった。
が、この延期は幸か不幸か『2020』という作品にタイトル通りのさらなる今日性をもたらした。4月時点の曲目と最終のトラックリストを比べれば、“Shine”と“Luv Can”が外れ(日本盤デラックス・エディションには収録)、新たに“Do What You Can”と“American Reckoning”が収録。この新たな2曲こそが作品のキーになっているのは間違いない。
まず、4月に地元ニュージャージーのベネフィット・コンサートでいち早く披露された“Do What You Can”は、3月にジョンが自身の運営するコミュニティ・レストラン〈JBJソウル・キッチン〉で皿洗いする様子を妻のドロシアが撮影し、それをInstagramにアップする際に付けたキャプション〈いつも通りのことがやれない時は、いま自分にできることをやろう〉から生まれたというもの。共にパンデミックに立ち向かう人々への思いを努めて明るく響かせたカントリー調のナンバーだ。
一方、7月に配信された“American Reckoning”は自粛期間に起こったジョージ・フロイド氏殺害に衝撃を受けたジョンが書き下ろした曲。後述する通りアルバムにはもともと人種差別に抗議するニュアンスの楽曲も収録されていたのだが、ここではより直接的にリスナーに行動を呼び掛けつつ、声を張り上げることなく重々しい歌い口で事態の深刻さを訴えている。