既存のジャンルを超え、ロンドンシーンの才能が生んだ輪廻の音楽

 既存のカテゴライズからの解放感。どこか懐かしくも新しいオーガニックな感触。自由さの中に感じる凛とした感性。2021年のデビュー作 『Space 1.8』に続いてWarpからリリースされた、カリブ系ベルギー人アーティスト、ナラ・シネフロの新作『Endlessness』は、各々の楽器が自らの個性をミクロな部分で発揮しながらも、マクロな全体へと有機的に絡み合い広がっていくような、輪廻をテーマとする壮大な作品となっている。

NALA SINEPHRO 『Endlessness』 Warp/BEAT(2024)

 しばしば自然界のリズムや宇宙の振動と調和していると言われる、432Hzにチューニングされたナラのシンセサイザー。そのシンセのアルペジオを基調として、ブラック・ミディのモーガン・シンプソンによるドラム、エズラ・コレクティヴのジェームス・モリソンやヌバイア・ガルシアのサックス、ココロコのシーラ・モーリス=グレイのトランペット/フリューゲルホーン、ライル・バートンのシンセなど、今のUKを代表する若い個性が光る。

 10曲のトラックは、それぞれ日本語で連続体を意味する〈Continuum〉と題され番号付けされている。これらは、機械的反復の中で斉一的な世界を構築していくタイプのミニマリズムとも異なるし、またささやかなアンビエント的音風景とも、近いようで異なっている。ジャズ、ロック、電子音楽といったバックグラウンドをくぐり抜けてきた、奏者たち。彼らの音はそれぞれ個性を失うことなく、作品の世界を尊重しつつ、絡み合い、溶け込んでいる。そこには楽器演奏の即興的なセッションの感覚や、揺らぎのあるアナログ的な電子音の感覚があって、その音世界は生命的な熱量を帯びている。

 少女時代からフィドルやバグパイプ、そしてハープといったどこか古めかしくも神秘的な楽器を好み、またバークリー音楽院の体系化された教育環境を拒むとロンドンのジャズシーンに辿り着き、自分のうちにある音楽を信頼する仲間と作り出した。その才能は今作でさらに深まり、プロデュースとエンジニアリングの繊細さという面でも花開いている。

 


LIVE INFORMATION
NALA SINEPHRO TOKYO

2024年11月25日(月)東京・めぐろパーシモンホール 大ホール
開場/開演:18:00/19:00
https://beatink.zaiko.io/e/nalasinephro