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ウェイン・ショーターのメロディーを歌う

村井「『Blue Note Re:imagined』は、主にUKの若手ミュージシャンがブルーノートの楽曲を好きにやる、という感じのアルバムですが、全体をお聴きになっての感想はいかがでしょうか」

Sano「自由度が高いというか、原曲をそのままやる、という人がほとんどいなくて、みんな再解釈・再構築ですね。新たに歌詞を書いたり、メロディーを作り直したりする人もいますし、だから元の曲を知らなくても楽しめるアルバムになっていると思います」

村井「今回、僕がおもしろいなと思ったのは、まず曲の選び方なんですよ。今までブルーノートのトリビュート作ってけっこうあったと思うんですけど、今度のはいわゆる〈新主流派〉のハービー・ハンコックやウェイン・ショーター以降、そして70年代に集中していて、アート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズとかリー・モーガンとかのハード・バップがまったく入っていない。そこがとても新鮮に思えました」

Sano「ショーターとかハービーとかの60年代後半のジャズって、今僕らがやっている音楽のハーモニーとかに直接繋がっているんですよね。だから納得の選曲、というか、今につながる部分があるんですよ。実は僕もショーターの曲にしようか、とも思ったんです」

村井「5曲も採り上げられているウェイン・ショーターの曲なんですが、エズラ・コレクティヴの“Footprints”以外は、みんな歌詞を付けてヴォーカル入りなんですよね。スチーム・ダウンの“Etcetera”も、フィアの“Armageddon”も、エマ=ジーン・サックレイの“Speak No Evil / Night Dreamer”も、歌詞を付けて歌っています。ショーターの曲を歌う、という発想がこんなに多いことにびっくりしたんですけど、そのあたりはどう思われますか?」

『Blue Note Re:imagined』収録曲、スチーム・ダウン“Etcetera”

ウェイン・ショーターの80年作『Etcetera』収録曲“Etcetera”。録音は65年

Sano「うん、それはショーターの曲のメロディーがすばらしいからですよ。僕も10代の頃、“Night Dreamer”(64年)にめちゃめちゃはまりました。ショーターのアドリブはすごすぎてよくわからなかったんですが(笑)、とにかくメロディーがよくって。自分で曲を書いたり、ジャズ理論を学んだりすると、ますますショーターの曲のすごさがわかるようになりました。

それと、みんなクラブ・カルチャー的というか、曲をサンプリングしてあたらしい何かを作る、ということが当たり前の感覚になっている、ということもあるんじゃないですか」

ウェイン・ショーターの64年作『Night Dreamer』収録曲“Night Dreamer”

村井「たしかに、今までのジャズ・ミュージシャンが他人の曲をカヴァーする、というのとは違う何かを感じますね。それで僕は“Etcetera”を聴いて、ショーターの曲がこんなにシンプルかつポップなメロディーを持っているんだ、ということに改めて気づきました。もしSanoさんがショーターをやるとしたらどんな曲がいいですか?」

Sano「うーんそうですね……“Night Dreamer”はやってみたかったかなあ。あと、ミルトン・ナシメントとやった『Native Dancer』(75年)も大好きなんですよ。あ、あれはブルーノートじゃないですね(笑)」

 

UKジャズの自由でフレッシュなセンス

村井「今回、ある程度オリジナル・ヴァージョンのイメージを残しているものと、まったく解体・構築しているものがありますよね。Sanoさんのトラックはオリジナルの雰囲気を残していますし、やはりドナルド・バードを採り上げたジョーダン・ラカイの“Wind Parade”もそうですね」

『Blue Note Re:imagined』収録曲、ジョーダン・ラカイ“Wind Parade”

ドナルド・バードの75年作『Places And Spaces』収録曲“Wind Parade”

Sano「ジョーダン・ラカイは注目しているミュージシャンなんです。面識はないんですけど、真面目な人というか、時としてパット・メセニー・グループ的な匂いがしますね。音楽的バックグラウンドがしっかりしていて、アレンジも丁寧にやっている感じがします。今回の彼のトラックについては、声のすごさというか、歌が入ることで世界ががらっと変わる、という感じがしました」

村井「ジョーダン・ラカイのトラックは、ドラムスがハーヴィー・メイソンを強力に意識しているなあと思ったんですけど、70年代の16ビートって、今のミュージシャンがやっている音楽と地続きという感じがします。ボビー・ハッチャーソンのカヴァーにも同じことを感じますが、どうなんでしょうね」

Sano「僕の経験で言うと、2000年代に入ったあたりに、ネオ・ソウルの流れで、70年代の音楽をもう1回見直すということがありました。今もう1回その流れが来ているところがあるので、〈元の元〉というか、70年代ソウルにいくんでしょうね」

村井「なるほど。あと驚いたのは、ポピー・アジュダがハンコックの“Watermelon Man”をやっていて、原曲のメロディーはどこにあるんだ?という(笑)」

『Blue Note Re:imagined』収録曲、ポピー・アジュダ“Watermelon Man”

『Blue Note Re:imagined』収録曲、ポピー・アジュダ“Watermelon Man”

Sano「(笑)。あれはびっくりしましたね。『Head Hunters』(73年)でリメイクしたヴァージョンのイントロのフレーズをちょっと入れてますけど、そこだけですよね」

村井「あれでハービー・ハンコックに印税がいくのかな、とか(笑)」

Sano「ほんとにそうですよね(笑)。あれはカヴァーというよりサンプリングして新しい曲を作っちゃったということですよね。僕はロンドンのジャズ・シーンって体験していないんですけど、そういう自由さがあるところがいいですよね」