©Kris Tofjan

ハープとモジュラー・シンセを操ってアンビエント・ジャズを奏でる注目の才能が至上の『Endlessness』を完成。この優美さに永遠に癒されたくて……

 ワープが惚れ込んだ新しい才能という触れ込みで、2021年の『Space 1.8』によって鮮烈なアルバム・デビューを飾ったナラ・シネフロ。もっとも、それ以前からガーディアン紙では〈2020年の注目すべきアーティスト〉の一人に選ばれていたし、ロンドン・コンテンポラリー・オーケストラの芸術監督であるロバート・エイムズやスチーム・ダウンとの共演、NTSラジオを通じて早耳な人は注目していたに違いない。それでも当時22歳の彼女が作曲や演奏、さらにエンジニアリング、録音、ミキシングまでを手掛けた音は多くのメディアで絶賛を浴び、ここ日本でも話題となった。

 ハープとモジュラー・シンセが奏でる瞑想的な音作りを特徴に、ジャズの感性にフォークやアンビエントを融合させた世界観で注目されてきた彼女は、ロンドンを拠点に活動するカリブ系ベルギー人の作曲家でミュージシャン。サックス奏者のヌバイア・ガルシアやジェイムズ・モリソン(エズラ・コレクティヴ)ら新世代UKジャズの顔役たちを迎えた『Space 1.8』に前後して、ヌバイアの“Together Is A Beautiful Place To Be”をリミックスしてもいる。そんな彼女が実に3年ぶりとなる待望の2作目『Endlessness』をついに完成させた。

NALA SINEPHRO 『Endlessness』 Warp/BEAT(2024)

 〈終わりがないこと〉という表題の直訳からもわかるように、〈輪廻〉の概念を深く掘り下げた一枚だという。曲名がすべて〈連続体〉を意味する〈Continuum〉として1から10までナンバリングされている通り、およそ45分に及ぶアルバム全編が音空間の中でひと繋がりの楽曲を構成している。前作の曲名も1~8でナンバリングされた〈Space〉というシンプルさでコンセプトを示していたが、今回はより意識的に生命の循環と再生を描く壮大な内容になっているのだ。

 アルバムに助力した顔ぶれも引き続き豪華。先述のヌバイアとジェイムズ・モリソン、さらにゴールデン・ミーンのライル・バートン(ピアノ)、オニパのウォンキー・ロジックことドウェイン・キルヴィントン(ベース)、サンズ・オブ・ケメットのエディ・ヒックスことナシェット・ワキリ(ドラムス)は前作に続いての参加。ドウェインとナシェットは2021年の配信ライヴ音源『Live At Real World Studios』でのトリオ演奏でもお馴染みだろう。初顔合わせの面々としては、ココロコのシーラ・モーリス・グレイ(トランペット/フリューゲルホルン)、ブラック・ミディのモーガン・シンプソン(ドラムス)が登場。さらに若手音楽家から成るオーケストレート所属の弦楽器奏者21名が参加している。

 7分超えのオープニング曲“Continuum 1”ではそのモーガンとジェイムズ・モリソンが演奏。今回のナラはより確信的にシンセサイザー/モジュラー・シンセ主体のサウンドを緻密に構築していて、ハープ演奏のクレジットがあるのは“Continuum 2”と“Continuum 3”のみ。実は前作でもハープの演奏は半数だったのだが、登場時のキャッチーなイメージに縛られることなく創造性の赴くままに曲作りを推進したのだろう。

 その“Continuum 2”はシーラとヌバイアの管を伴ってオーガニックに展開し、“Continuum 3”はより簡素にハープの優雅な音色を照らしたトラックとなる。ナラ自身でピアノを弾く“Continuum 4”、ヌバイアのソロを主役にした小品“Continuum 5”と穏やかな流れを経て、ヌバイアの優美な演奏にナシェットのドラミングが入り込んでくるリズミックな“Continuum 6”、ライル・バートンのシンセを交えた壮大な“Continuum 7”、ドウェインのシンセ・ベースとナシェットのドラムが効いた神秘的でリズミックな“Continuum 8”、ふわふわした電子の海にジェイムズ・モリソンのサックスが再登場する“Continuum 9”、ドウェインとナシェットのアグレッシヴなパートから穏やかなピアノの波にさらわれる“Continuum 10”……と、揺らめく光のようなシンセサイザーの音色がサウンド全体の構築美に直結した、ナラのさらなる才能の進化を伝える大傑作だ。

 なお、彼女は11月にはいよいよ初来日公演の開催も決定したそう。もともと昨年の来日予定がキャンセルとなっていただけに待望の公演だが、そうでないリスナーも『Endlessness』の美しい流れに浸ってみて、時が果てるまで癒されてほしい。

左から、ナラ・シネフロの2021年作『Space 1.8』(Warp)、ロバート・エイムズの2021年作『Change Ringing』(Modern)、ヌバイア・ガルシアの2021年作『SOURCE ⧺ WE MOVE』(Concord)

参加ミュージシャンの関連作を紹介。
左から、ココロコの2022年作『Could We Be More』(Brownswood)、9月27日にリリースされるエズラ・コレクティヴのニュー・アルバム『Dance, No Ones Watching』(Partisan)、ゴールデン・ミーンの2023年作『Oumuamua』(Jazz Re:Freshed)、オニパの2023年作『Off The Grid』(Real World)、サンズ・オブ・ケメットの2021年作『Black To The Future』(Impulse!)、ブラック・ミディの2022年作『Hellfire』(Rough Trade)