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エロはこの程度でいい

――そして、次は秦野さんが編曲された“真空回廊”ですね。電子音と鍵盤が入ってよりエレガントで深淵な雰囲気になりました。

桜井「作曲者不在(脱退した武井誠と桜井の共作)なので、まあ、うちらがいじるよりも、秦野さんにやってもらったほうがいいかなっていう。大サビは僕が作った場所だったから、そこは大きいリズムでって、それだけお願いしましたね」

――次は“原色エレガント”ですが……。

村井「完成形を聴いたとき、ギターは昔のものをそのまま使ったのかな、って思うぐらい変わってなくてびっくりしたんですよ。ベースは大人な感じで、全部変えて弾いたんですけど、ギターは少年のように幼い感じだったから。でも、弾き直してたみたい」

桜井「いや、秦野さんがその……へっぽこさ加減っていうんですか(笑)? きっちり弾くな、って」

石井「ギターのテーマみたいなのがすごい出てくるじゃん。イントロにも、サビの後ろにもいるから、どこか一個取っただけでも変なんですよね」

村井「あのギター・ソロって他の曲にも何回も登場するんですよ。“カラス”とか“歪んだ鏡”とか“誘蛾燈”とか。そこも変わってなかったですね、20年前と」

石井「あと、BPMは10ぐらい上げて。前はなんであのテンポに設定したのかがわからないぐらい難しかったから。10上げるってなかなかないでしょ? 10上げても全然あの感じなんですよ」

――それでもまったりしたグルーヴ感ですもんね。で、次は“さかしま”。これは石井さんの新曲ですけど、こういったノンビートの曲は以前にも“月白”がありましたね。

石井「そうですね。あれはノンビートって言ってもシンセが入ってるし、っていうのがあったんだけど、これは歌とギターしかないっていうところまで持ってこうかなと思って。俺、普段はブレスの音を切っちゃったりするんだけど、この曲はそういうものも活かして、なんかドキッとするような、エロティックで生々しい感じにしようかなと思ってたんです。で、ギターは12弦で弾いてほしいなと思って、開放弦が常に鳴ってるようなコード進行で作ったんですけど、12弦を用意する時間がなかったりで、結果的には想定と逆の、少しエフェクティヴで広がりがある仕上がりになってます。これはこれですごいカッコイイなと」

――歌詞も〈エロ〉というコンセプトに対してのアプローチを?

石井「そうですね。青さんの曲は“デリヘルボーイズ!デリヘルガールズ!”っていうタイトルだけがあって、曲調は明るくアップテンポでっていうのを聞いてたから、それと逆をいく感じに。まあ、エロティシズム的な文学で、いろいろと有名なやつがあるじゃないですか。」

桜井「『さかしま』は(ジョリス=カルル・)ユイスマンス」

石井「あとは、『サロメ』とか、『マダム・エドワルダ』とかもそうか。そういうものの印象的なフレーズとかをいくつか入れて」

桜井「僕は“さかしま”って見た瞬間に、〈ああ澁澤ね〉 って。ユイスマンスの『さかしま』を澁澤が日本語で訳しているから、ああ、石井さんはたぶん、自分が最初に〈このエロティシズムはジョルジュ・バタイユを澁澤が~〉 って話をしたのを覚えててくれたのかな、と。きっとそういう流れでこれを“さかしま”にしたんだろうなって」

石井「そうですよ。バタイユとか(ピエル・パオロ・)パゾリーニとかの話をいちばん最初にされたから」

桜井「ちょうどパゾリーニが何で死んだのかっていう『パゾリーニ・スキャンダル』が公開されてた頃だったんですよ。たぶん、それって『ブルーフィルム』への影響がデカイんですよね。クソみたいな映画だったけど(笑)、エロってこの程度でいいよねって」

――そんなに高尚なものじゃないと。

桜井「だって、『ソドムの市』とか……(自粛)。パゾリーニはタブーをひたすらやろうとしてた人で、それを、当時で言うパトロンたちが、わかりもしないくせに称賛してたわけじゃないですか。そういう変な縮図が『パゾリーニ・スキャンダル』にはパッケージングされてるんで、すごく影響を受けたんですよね。そのくだらなさに」

――それで、石井さんはそのあたりをちゃんと覚えていて歌詞に落とし込んだと。

石井「そこを覚えていたというか、青さんは知識としてそういうことを知ってる人なんだって、衝撃を受けたんですよ。変な話、当時はそういう会話をする友達もまだいなかったから。20代ぐらいでそんな人はいないだろうなっていうか、もっと偉そうに、そんなやつは俺だけだって思ってるわけですよ。そんなときにもっとすごい人が……本職がいた、みたいな(笑)。それですごいなあと思って。俺はアートとか、ファッションとか、そういうところからのエロティシズムというか、入り方にもいろいろあるじゃないですか。映画も、絵画も、今のパゾリーニの話とかもそうだし、ハンス・ベルメールみたいなのも俺はそっちから入ってるんで、青さんとは入り方が違うんですよね。でも、好きな世界観とか影響を受けてるものに共通するようなところがあって、だからずっと覚えてたんです」

――青さん、最初にいろいろ言ってみてよかったですね。

桜井「そうですね(笑)。そこからさらに遡ること10年前、通ってた建築学校の担当の先生の一人に、やたらバタイユを薦める先生がいて、その先生に感謝かなって。ル・コルビュジエとかもそうだったけれど、マッシモ・スコラーリっていう建築家がいて、その人が作る椅子っていうのが、まあ単純な話で言えば、エロと建築を結び付けるっていう、わかりやすいものを作ってて、それと併せてジョルジュ・バタイユを薦められて。〈澁澤龍彦も知らねえで、ヴィジュアル系とか聴いてんじゃねえ〉みたいな(笑)。まあ、その先生の影響もあるけど、その前からいろんなものを読んでいて、きっかけはそもそもがボードレールの『惡の華』でしたからね。二十歳前後の頃って、とりあえずそういうものの知ったかになりたがるんですよ。すべて知ったかから始まって、次に繋がっていくっていう。その流れで自分にボードレールは向かねえわって思ったし、ボードレールよりは中原中也とか江戸川乱歩だし。それがまさか10年後、石井さんを繋ぎ留めるネタになるとは思わなかった(笑)」

――20年前の出会いがここで歌詞に結実するというのも感慨深いものがありますね。そして、最後は“ブルーフィルム”です。

桜井「これはテンポが劇的に速くなってますね。ライブに近い感じです」

――改めて、“ブルーフィルム”はいい曲だなって。私の個人的な感触だと、“青春狂騒曲”や“最後の宿題”と同じラインの青さがあるなあと。

石井「“青春狂騒曲”とかもいい曲だけど、“ブルーフィルム”はサウンドのオリジナリティーがダントツですよね。初めて聴いたとき、びっくりしましたから。音楽のジャンルがわからないでしょ? ドンドコドコドンドコドコってイントロからトライバルな曲が始まるのかな?って思ったら、急にギター・ソロが西海岸みたいになるし(笑)」

桜井「そこは研次郎君に言われたから」

――何かモチーフがあったんですか?

村井「ヴァン・ヘイレン。たまたまその日に聴いてたんですよ。“Jump”かな?」

石井「最初のタム回しみたいなのは何?」

桜井「あれは、何か回ってるイメージ。曲的にはほんとに難しくて、ドラムをどう持ってったらいいんだろう?って考えてああなったんですけど、よく聴いたらBUCK-TICKの“Hyper Love”じゃないかって(笑)」

――(笑)。そんなわけで通して振り返りましたが、秋にはツアーもあって。配信もされて、〈自称関係者席〉〈あなたのプロンプター席〉〈スペーシーギター席〉〈ベースキッズ席〉……と、関係者になりきったり、各メンバーに接近したりと普段は観られない目線でライブを楽しめるようですが。

石井「この間テストで録画してみたんだけど、自称関係者席とか研次郎君の手元のやつとか、おもしろそうでしたね」

桜井「単に配信するだけってのも、そろそろ皆さん食傷気味じゃないかなって。『ブルーフィルム』自体はコンセプト・アルバムですけど、+αでおもしろいことができないかなと。他にも加えられるパーツはいくらでもあるので、そこはお楽しみにって感じですね」

cali≠gari の近作。

 

cali≠gari メンバーの別プロジェクトの作品。