社会・街・自然における〈音〉が持つ役割を再考
Ginza Sony Parkで展開されている〈Silence Park curated by Shuta Hasunuma〉は、世界各国のアーティストたちと蓮沼が各地の街や自然から採取した環境音によって作られた、新しいバックグラウンド・サウンド。旅行や移動が制限されている今、目の前にない環境の音に耳を傾け、世界を感じることもできる。本作品は〈パブリック〉をコンセプトに形を変え続けながら、Ginza Sony Parkが閉園する2021年9月までの期間、断続的に実施される。
「単なるBGMとして流す音楽ではなく、フィールドレコーディングで採集したパブリックな環境音を素材に、アーティストたちからいくつかのシークエンスを集めて90分のループで流しています。緊急事態宣言の翌日、渋谷で音を収録したんですが、人のいない街に広告のJ-Popが爆音でエコーを響かせていて、ひどい状況だったんです。本当にそこに音楽が要るのかどうかを見直す必要を感じました。並行して進めているのが、もう1つの〈都市と合奏〉というプロジェクトで、土地に根ざした音を取り戻すために、その場所の音を勝手に作って展開していく。草の根的な活動ですが、能動的に変えていかなきゃと。まずはできることから始めます」(蓮沼)
大学で環境学を専攻した蓮沼は、その後も一貫してフィールドレコーディングを実践している。インスタレーションなどの音響作品でも、音を作って出すだけではなく、既にそこにある音を、時間軸を変えずに独自の方法で整えていくアプローチで魅惑的な音空間をつくり出してきた。彼の創作活動の根底には、社会にとって音とは何か、人間とその制作物以外の声や音に耳を傾けてみよう、という音環境(ひいては都市や自然)への批評的な視点があるのだ。
誰もがこれまで経験したことのない新しい環境に順応しようとしている今、蓮沼執太と彼のオーケストラが私たちに提示するのは、個と個が心地よい距離を保ちながら、共生し、恊働する〈合奏〉の作品世界だ。「さあ、ここには共創と協奏がつまっています。元気に感応しながら生きよう」と彼は呼びかける。2020年の新しいプロポーザルに応え、音楽と共生をめぐる思考と感覚の旅に出てみたい。
蓮沼執太(はすぬま・しゅうた)
1983 年、東京都生まれ。蓮沼執太フィルを組織して国内外でのコンサート公演をはじめ、映画、演劇、ダンス、音楽プロデュースなどでの制作多数。近年では、作曲という手法を様々なメディアに応用し、映像、サウンド、立体、インスタレーションを発表している。主なアルバムに蓮沼執太フィル『時が奏でる』(2014)、主な個展に東京・資生堂ギャラリー〈 ~ ing〉(2018)など。第69回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。
寄稿者プロフィール
住吉智恵(すみよし・ちえ)
アートプロデューサー。1990年代より美術ジャーナリストとして活動。2003~2015年アートスペース&バーTRAUMARIS主宰を経て、現在アートオフィスとして現代美術やパフォーミングアーツの企画・プロデュースを手がける。2018年よりバイリンガルのカルチャーレビューサイト〈RealTokyo〉ディレクター。子育て世代のアーティストとオーディエンスを応援するプラットフォーム〈ダンス保育園!!実行委員会〉代表。