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この度、ビルボードライブ横浜、大阪、東京を回るツアーとして開催された〈TOSHIKI KADOMATSU Performance 2020 “Kadomatsu Plays The Guitar vol. 4” ~歌もうたうよ~〉は、そんな角松敏生のギター演奏家/バンド・リーダーとしての卓越ぶりを十二分に味わえる絶好の現場だった。これまで数年に一度のペースで開催されてきた同企画だが、ようやく念願叶い、10月27日にビルボードライブ東京にて行われたファースト・セット公演に触れることができた。

演奏メンバーは、角松自身に加え、山本真央樹(ドラムス)、山内薫(ベース)、鈴木英俊(ギター)、森俊之(キーボード)、本田雅人(サックス)という盤石の編成。このコロナ禍に際して様々な検討を経て開催までこぎつけたこと、そして、先日逝去したキーボーディストであり長年の盟友・小林信吾への哀悼を、久々に彼のステージに触れる人たちも多いであろうオーディエンスの前で語っていく。あえてウェットさを避けるような明るい語り口からは、かえって彼の思慮深さと揺るぎないショーマンシップを垣間見るようで、演奏開始前から深く感じ入ってしまうのだった。

オープニング2曲は、名フュージョン・サックス奏者トム・スコットのカヴァーで、“ROCK ISLAND ROCKET”と“STREET BEAT”。ファンク色強いリズムとポップなリフがきらびやかなショーの幕開けを宣言する。続いては、上述の『SEA IS A LADY』から一際人気の高いキラー・チューン“SEA LINE”。オリジナル版からぐっとムーディーかつラグジュアリーにアレンジされ、角松自身のギター・プレイもギブソン・レスポールのまろやかな音色を活かしたもの。こうしたアレンジ違いヴァージョンを堪能できるのもこのコンサートの醍醐味だろう。

続いては、本公演のサブ・タイトルにもある〈歌もうたうよ〉宣言の通り、ヴォーカル曲を交えていく。「自分が未来に向けて残していきたい曲を歌っている」というMCに続いて披露されたのは、2003年のアルバム『Summer 4 Rhythm』から“YU-NAGI”、91年の『ALL IS VANITY』が初出で今年リリースの最新のリメイク・アルバム『EARPLAY 〜REBIRTH 2〜』にも収録された“DISTANCE”、そして、活動凍結後初のアルバムとなった『TIME TUNNEL』から“時計”の3曲。どれもミディアム〜スロウのしっとりとした曲調で、安定感抜群の演奏の中、改めて角松のヴォーカリストとしての凄みが際立つ。

再びインスト・セットに戻り、『SEA IS A LADY』から“MIDSUMMER DRIVIN‘”が披露される。ハード・フュージョン調の演奏の切れ味もさることながら、角松のギター・プレイも快調そのもの(MCで冗談めかして口にしていたが、どうやらこの日のファースト・セット中は時折足が攣ってしまっていたらしい。もちろん、演奏からはそんなことを全く察させない)。稀代の名手に対して今更こんなことを言うのは憚られるが、バッキング陣含め、こんなにも圧倒的な演奏を聴かされると、どうしたって興奮してしまう。

大きな拍手に迎えられ、快くアンコールに応えるバンドが奏で出したのは、なんとヴァン・マッコイによるディスコ名曲“The Hustle”。キャッチーなリフに乗せられ、会場はすっかり祝祭感に包まれる。ラストはやはり『SEA IS A LADY』から“OSHI-TAO-SHITAI”。ジャズ色強いアレンジにのってソロ回しも披露し、大団円のうちにコンサートは終了となった。

そういえばショーの中ほどのMCで「未発表のインスト曲が結構あるんだけど、アルバム化してもいいかなって。でもインストは売れないからな〜」と言っていたが、〈いやいや、そんなことはないでしょう!〉と心の中でひとりごちてしまった。リラックスしつつも攻めるところは攻めまくる上質極まりないこの日の演奏を浴びてしまえば、誰しもがそう思うのではないだろうか。