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みんなでまたひとつになれるかしら

またリリシストとしては、「いい曲を書いてそれをディスコの世界に置くこと」だけにこだわって、その時々の気分を歌詞に綴ったという彼女。ダンス・カルチャーにまつわるヴォキャブラリーをちりばめて、踊ることの解放感や高揚感を恋するハートの高鳴りに重ね、ひたすらハッピーで甘美なラヴソングを歌うことに専念している。この軽やかさも、前作とは対照的だ。というのも50代突入を前に制作した『Golden』は、ずばり年を取ることの現実と向き合うアルバムでもあり、パーソナルな言葉に満たされていた。そんな内省的志向への反動も、本作はいくらか含んでいる。

「そうね。『Golden』は言うなれば、自分の感情を整理して分類するようなアルバムであり、自分自身を取り戻して立ち直るためのアルバムだった。それを完遂するために、通常よりも自分の心の内をさらけ出したというか、自らそうすることを選んだ。でも『Disco』での私は間違いなくハッピーなの。ハッピーな場所に辿り着くために、辛いことを乗り越えなければならなかったのなら、それが実現した時にはちゃんとお祝いをするべき(笑)。それが今回の私の気分ね」。

残念ながら、コロナ禍で世界中の多くのクラブの戸が閉ざされており、本作に相応しい華々しいセレブレーションは当分お預け。「今となっては誰もディスコになんか行けないわけだから、皮肉な話ではあるけど、ディスコという概念そのものがファンタジーに浸らせてくれたり、現実から逃避させてくれたりするのよね」とカイリーはアルバムの意義を語る。しかも先行シングル“Say Something”には、まるでこういう事態が起きることを予期していたかのようなフレーズがあった。〈Because love is love, it never ends/Can we all be as one again?(なぜならラヴはラヴであって、終わりはない/みんなでまたひとつになれるかしら?)〉と。

「今はみんなひとつの希望にすがって生きているからこそ、すごくしっくりとくるのよね。その希望というのは、人恋しい気持ちに終止符が打たれて、自分の家族と自由に会ったり、ディスコに踊りに行ったり、子供たちを学校に通わせられたらいいなという希望。これまでずっとノーマルだったことが、何もかもできなくなっているから。果たしてこのクエスチョンに対する回答がどんなものなるのか、私にはわからないけど、いい回答が得られたらなと願っているわ」。

『Disco』収録曲“Say Something”