USインディー・ロックを代表するヴェテラン・バンド、ヨ・ラ・テンゴ。彼らの90~2000年代における4つの傑作――『Electr-O-Pura』(95年)、『I Can Hear The Heart Beating As One』(97年)、『And Then Nothing Turned Itself Inside-Out』(2000年)、『Summer Sun』(2003年)――が、2020年12月11日(金)にリイシューされる。いずれもメンバー監修のもと、ボーナス・トラックを多数収録した豪華仕様でよみがえる。
この再発に際して、Mikikiはヨ・ラ・テンゴを愛するミュージシャンやライター、バイヤーなどにお気に入りのアルバム3作の選盤と、それについてのコメントを依頼した。第1弾の〈アーティスト編〉に続いて、今回は〈ライター/バイヤー編〉を掲載する。
協力してもらったのは次の7人。タワーレコード新宿店洋楽バイヤーの阿部圭介、音楽評論家/TURN編集長の岡村詩野、音楽ディレクター/ライターの柴崎祐二、ディスクユニオン新宿インディ・オルタナティヴロック館の澤田裕介、音楽ライター/Sweet Dreams Press主宰の福田教雄、音楽ライター/Call And Response Records主宰のイアン・F・マーティン、音楽ライター/リズム&ペンシルの松永良平。それぞれの視点からヨ・ラ・テンゴへの熱い思いを綴ってくれた。 *Mikiki編集部
阿部圭介(タワーレコード新宿店洋楽バイヤー)の3枚
『I Can Hear The Heart Beating As One』(1997年)
ヨ・ラ・テンゴの名盤といえばまずこの一枚を挙げる人が多いのではないだろうか。
97年発表の代表作。オルタナ、シューゲイザー、フォーク、サイケ、音響系など様々な要素をアルバム毎に取り入れてきた彼等だが、このアルバムはすべての要素を絶妙にブレンドした集大成的な作品のように感じる。アルバムの頭から、ヨ・ラ・テンゴらしい心地よいノイズのインストではじまり、2曲目はベースがブイブイ言わす重たいナンバー、そして3曲でアルバムのハイライトとも言える疾走感あふれる“Sugarcube”。重たい2曲目から突然振り切ったように疾走する。この流れがアルバムとして凄く気持ちいい。疾走したかと思えば6曲目の“Shadows”ではジョージア・ハブレイの温かなヴォーカルで脱力。10曲目の“Green Arrow”は虫の鳴き声が入る秋の夜にはぴったりなインストで、緩急がついた展開によってアルバム一枚を通して飽きずに聴ける。
都会的な景色が見えたかと思えば突然夏の夜空が浮かんできたり、一枚のアルバムの中で色んな場所へトリップしてしまうようなそんな作品。
『And Then Nothing Turned Itself Inside-Out』(2000年)
2000年リリースの通算10作目。
激しいメロディーの起伏はないが、全偏を通して漂うダウンテンポなビート、そして優しいウィスパー・ヴォイスがゆっくり心に沁みこむ。今までにあったようなオルタナ要素は影をひそめた分、日常に馴染んでいくような味わい深い作品となった。ダウンテンポがメインにもかかわらず、不思議とじわじわ溢れ出てくるような多幸感が何度もこのアルバムを再生させる。最後に収録されている“Night Falls On Hoboken”はなんと約18分にも及ぶ超大作。名盤を締めくくるにふさわしいラスト。聴き終えるとまるで一本の映画を観終えたような感覚。このアルバムの雰囲気にぴったりのジャケットも素晴らしい。
飽きることなく長く付き合っていける名盤。
『There’s A Riot Going On』(2018年)
2018年にリリースされた、前作から5年ぶりとなった通算15枚目のアルバム。
まずアルバムのタイトルを聞いて、暴動!?って思ったのをよく憶えている。やっぱり〈暴動〉と聞くとスライのあのアルバムを思い出す。内容的には激しいサウンドであったり、直接的な政治的メッセージがあったりするわけではなく、むしろ反対で、今までの彼らの作品の中で最も浮遊感を感じるサウンドが特徴的でとても優しい印象をを受けた。代名詞であるノイズは健在だが、包み込むような優しいノイズ。特に2、3、4曲目の流れはたまらなくドリーミーで美しく優しい。後半のジャジーな展開も面白い。ヨ・ラ・テンゴらしいノイズを優しいメロディーに上手く乗っけたヨ・ラ・テンゴ版ドリーム・ポップ・アルバム。ドリーム・ポップ好きにもぜひ聴いてほしい。
ヨ・ラ・テンゴのサウンドを語る上で、欠かせないのはやはり〈ノイズ〉。ノイズを含む音楽をイメージすると、激しいパンクやオルタナ的なサウンドであったり、あるいはアヴァンギャルドなサウンドであったりがまず頭に浮かぶ。でも、ヨ・ラ・テンゴはそのイメージとは違う。むしろ聴き心地が良い。優しいノイズ。
アルバム毎、曲毎に非常に多彩な彼らだが、作品を通して一貫して感じるのはその〈優しさ〉。そして、インディーならではのいい意味での〈ゆるさ〉みたいなものを非常に強く感じる。本当にどの作品もそれぞれに色がある名盤ばかりで、この〈優しさ〉と〈ゆるさ〉を感じたくなり何度もCDを再生してしまう。
今回のリイシューは数ある名盤の中でも特に黄金期の名盤が4タイトル。一般発売されていないコンピレーション作品に収録されていたインスト曲“Last Train To Oviedo”も収録されるということでマニア向けの作品としても楽しみだし、これからヨ・ラ・テンゴを聴くという人にとってもこの4作品から聴いて間違いないと思う。
コロナが収まったら来日してくれないかなぁ。スタジオ録音もいいが、やはり生のノイズを身体に浴びたい。