新たな制作方法によって、より映像的なサウンドスケープを獲得した新作。そこで語られるのは、千年後の超未来から現在の東京へと帰結する〈別れと再会〉のサーガで──

千年間のアルバム

 昨年のMASS OF THE FERMENTING DREGSとのツアー中に書かれ、今年3月に配信で発表されたSuiseiNoboAz(以下、ボアズ)のニュー・アンセム“3020”。〈メーデー こちら2020年の東京 日増し強くなるドブの匂いに辟易している〉や〈出会えないまま別れていく人たちに いつか会いに行けたらうまく話せるかな〉といった歌詞は、困難多き2020年の空気を予言するかのようであった。

「当然ですけど、2020年がこんなことになるとはまったく予想だにしていなかったので、“3020”が何となく現実の状況にリンクしていっているんじゃないかという声をもらうようになったのはびっくりしました。自分にとっての作品は常にパーソナルなもので、大風呂敷を広げて世相を切り取るつもりもないし、自分の手の届く日常に対して、どれだけ嘘がないものが書けるかということしか考えていないので。ただ、ひたすら個人的な感覚に突っ走れば、もしかしたら逆に普遍的なものにタッチできるんじゃないかっていう想いはどこかにはあります」(石原正晴、ヴォーカル/ギター/サンプラー:以下同)。

SuiseiNoboAz 『3020』 SuiseiNorecoRd(2020)

 そんな“3020”をそのままタイトル曲に据えた約4年ぶりとなる5枚目のアルバム『3020』は、ボアズらしいSF的な世界観で、〈千年の別れと再会の物語〉を描く。

 「“3020”を軸にアルバムを作りたいと思ったときに、何となく青写真で思い描いていたのは、レイ・ブラッドベリの『火星年代記』だったような気がします。火星の歴史を俯瞰で見ながら、時代も登場人物もどんどん変わって、ひとつのサーガが描かれる、そういう千年間のアルバムなんだろうなって。じゃあ、千年後に何が起こるのかなって思ったときに……新宿に戻ってくるんじゃないかなって気がして(笑)。それで、最後の場面として“それから”を作りはじめて、“3020”で始まり、2020年に戻ってくるアルバムにしたんです」。

 THA BLUE HERB“未来は俺等の手の中”へのオマージュ的な側面があり、マレーシアの民謡をサンプリングしてビート・ミュージックに接近した“3020”が予告していたように、本作ではこれまでのハードコア的な側面が後退。ギターの分量が減った代わりに、ピアノ、シンセ、ヴォコーダーなどが用いられ、映像的なサウンドスケープを作り上げている。

 「うちはロック・バンドだし、自分はロックを作る人間だと思ってます。ただ、ジョー・ストラマーの〈Punk Is Attitude〉じゃないですけど、ジャンルとしてのロックはもうどうでもよくなっていて、〈ロック〉という矜持があればそれでいい。自分の作り方だとドラムとベースとヴォーカルである程度成立させちゃうんで、そこに必要な音を入れていったら、今回はギターが入る余地がなかったんです。なので、今回のレコーディングではギターはほとんど石原しか弾いていなくて……、スタジオにあったエレピを高野(メルドー。ギター/ピアノ)に弾かせてみたらハマったので、今回はこっちなんだなと」。

 楽器のチョイス以上に大きかったのが、制作方法の変化。新たなスタイルへの挑戦と、2020年の特殊な状況が重なった結果が、『3020』の完成度の高さへと繋がった。

 「これまでは一方通行というか、スタジオで曲を作って、プリプロをして、細部を詰めていく感じだったけど、今回はスタジオで作った曲を石原が持ち帰って、エディットをして、トラックとして追い込んで、それをまたスタジオに持ち込んでということをひたすら繰り返したんです。3~4か月ずっとプリプロをしてるような状態で、レコーディングも2回に分けてやったので、追い込みは今までの10倍くらいやってます。2020年はライヴがなくなってずっと制作をやることになったので、結果的にそれも作品に影響したと思います」。

 

超未来で鳴る音

 アルバムのオープニングを飾るのは、打ち寄せる波の音と、元NATURE DANGER GANGの福山タクによるサックスをフィーチャーしたインストゥルメンタル“千年後”。厳かな雰囲気から“3020”へと繋がり、壮大な物語が幕を開ける。

 「この話は現代の東京で終わるんですけど、その物語が語られるのは超未来だと思うので、その超未来で鳴ってる音が必要だと思って、イントロダクションになるトラックを作りました。ジャズって、テーマが鳴ってソロがあって、どこかでバチッとテーマに戻るところにカタルシスがあったりするじゃないですか? そういう構成美は一曲の中でも意識したし、アルバム全体でも意識してます」。

 SF的な世界観を象徴する“月面源流釣行記”は、扇動的なサンプリング、石原の片言の歌とヴォコーダー使いが奇妙な違和感を生みつつ、河野“Time Machine”岳人のベースがインパクト大な一曲。“TEMPEST”も流麗なピアノとベースのループが耳に残る仕上がりだ。

 「“月面源流釣行記”を歌ってるやつが人類なのかロボットなのかわからないけど、もう人ならざるものになっちゃってるというか……月面にいるやつはきっとこんな感じだろうなと(笑)。歌詞はマジックリアリズムというか、現実にはありえない事柄を細部まで論理的に描写する、みたいなことを考えて書きました。ベースはものすごいスピードで動いてて、弦跳びもしまくってるんですけど、他の楽器との兼ね合いとか、楽曲のことをちゃんと考えてくれてると思います。“TEMPEST”を書いていたときは台湾の友達のことを考えていた気がする。コーラスはTAMTAMのKuroちゃんが参加してくれました。台湾ということでエニグマの“Return To Innocence”を意識していまして(笑)。あいう旅情感を感じられるようにしたかったんです」。

 

本当にそれは起こる

 シンセと重たいリズムの組み合わせがメランコリックな曲調を盛り上げる“SHORES”、アルバムの中ではもっとも穏やかな曲調ながら、トリッキーなリズムで聴かせる“YOU ARE MY RAINBOW”も素晴らしい。

 「“SHORES”は結構前に書いた曲で、当時はやりたいことができ切ってなかったんですけど、今回改めて取り組んで、すごくいい仕上がりになりました。“YOU ARE MY RAINBOW”は石原が長いこと温めていた曲で、基本的には4/4で理解できるけど、各パートの解釈のズレや表と裏の入り方で変拍子に聴こえる。これが一番パーソナルな内容を歌っているんですけど、パーソナルなものほど歪だと思う。みんなが共通理解をもって同じことをやることのほうがよほど異常で、人は誰でも相当歪だと思う。この曲はすごく愛情に溢れた歌で、肌感覚に近い部分で穏やかな想いを歌ってるんですが、そうするとこういう歪な形になった。でも、なぜかすごく歌いやすいし、ビートがずれていく感じも気持ちにフィットする」。

 代名詞のファズ・ギターが炸裂する本作唯一と言ってもいいハードコア・ナンバー“SUPER BLOOM”を経て、アルバムのエピローグとなるのが“3020”の後日談的な雰囲気の“それから”。“千年後”同様にサックスをフィーチャーし、物語を優美に締め括る。

 「僕が2000年前後のヒップホップの音が一番好きで、音の奥行き、キックの張り出し方、隙間の感じが好きなんですけど……、“3020”や“それから”はその時代へのオマージュなのかもしれない。J・ディラのビート感を参考に、アリトくん(ヤノアリト、ドラムス)にはスウィングのタイム感をすごく意識してもらったり……。我々はロック・バンドなので、それに人力でどこまで迫れるかだったり、逆にあえて部分的にサンプリングにしたり、そのバランスを考えるのも楽しかったです」。

 現体制となってからは2作目となる充実の作品を作り上げたボアズだが、12月27日の配信ライヴをもってヤノアリトが脱退。〈別れと再会の物語〉は、もうひとつの意味合いを含むこととなった。

 「前作の“liquid rainbow”と、“3020”“それから”の3曲でひとつの話が完結するイメージがあって、“liquid rainbow”で何となく再会を夢見ていて、“それから”ではより明確に再会のときを迎えようとしているというか。ちょっとスピッたことを言うと、真面目に、嘘なく、ちゃんと自分の気持ちを入れて作品を作れたら、本当にそれが起こる気がしていて。再会を確信しているというか……、“それから”はそういう気持ちで作りました」。

文中に登場したアーティストの作品。

 

過去作で振り返るSuiseiNoboAzのオリジナルな歩み

SuiseiNoboAz 『SuiseiNoboAz』 SuiseiNorecoRd(2010)

武骨なアンサンブルで繰り出す換骨奪胎のファンクやヘヴィーなオルタナ・チューンといったサウンド面の個性のみならず、〈ジーザスった〉などふいに耳を捉える特有の言語感覚もこの初作ですでに開花。全体に通底するハードボイルドなロマンティシズムに、石原とプロデュースを担った向井秀徳との共通点が。

 

SuiseiNoboAz 『THE (OVERUSED) END OF THE WORLD and I MISS YOU MUH-FUH』 SuiseiNorecoRd(2011)

ミニマルなリフとリズミックなメロという特性は伸ばしつつ、メンバー同士の火花散るプレイが目に浮かぶような太いアンサンブルが強烈な2作目。アルバム全体を覆うゴリゴリのドライヴ感とダイナミズムが抜けの良い空気を呼び、哀愁と熱量の入り混じる歌がストレートに聴き手へ届く。

 

メジャーからのリリースとなった3作目は、それまでにない柔和さを湛えたオープニングにいきなり驚愕。従来のアグレッシヴなハードコア気質が鎌首をもたげるカオス・チューンも要所に置きながら、ピアノやシンセを交えたエフェクティヴな音作りがこのバンドの〈サイケ感〉に新たな表情を与えている。

 

SuiseiNoboAz 『liquid rainbow』 SuiseiNorecoRd(2017)

メンバーの脱退により一時はソロ・プロジェクトとなったのち、新たな4人組として再出発しての4作目。ヒップホップ色を強めた表題曲の他、ファズ・ギターや変則ビートが交錯する楽曲の数々は〈らしさ〉がフレッシュにアップデートされたことを告げている。その一方で、開放的なメロの楽曲が増えた点も印象的だ。