レッツ・ゲット・フィジカル! 若き新メンバーが加わってアンサンブルはより強靭かつ自由に。デジタルと肉体がせめぎ合う音像のなかには霊魂が宿っていて――

 SuiseiNoboAzが6枚目のフル・アルバムにして、2021年の年明けに新しいドラマーとして松田タツロウが加入してから初めての作品となる『GHOST IN THE MACHINE DRUM』を完成させた。松田は中心メンバーの石原正晴より10歳年下。もともとバンドのファンであり、個人的にボアズの楽曲をカヴァーするなどしていたという。

 「このバンドを15年続けていて、初期はイケイケのフィジカルなバンドだったけど、音楽的に前進していこうと思ったときに、フィジカル一辺倒だと行き詰まることが多くて。それで同期や鍵盤を取り入れたり、いろんな変化をしてきたんですけど、最近はどうしてもデスクで音楽と向き合う割合が増えてきた。でも今回若くて元気のいいタツロウが入って、もう一度バンドにフィジカルなムードが戻った感じがあります。トニー・ウィリアムスがマイルス・バンドに入ったときに〈なぜもっと練習しないんですか?〉と言ったらしいんですけど、それに近いというか、すごくいい感じなんです」(石原正晴、ヴォーカル/ギター/サンプラー:以下同)。

 松田にとっての初ライヴとなり、映像化もされた2021年4月のTSUTAYA O-EAST(現Spotify O-EAST)でのワンマン後すぐに制作に入り、一年間じっくりと作り上げられた今回の新作も、やはり〈フィジカル〉がキーワードになっている。

 「自分の中にもある、ロックをやる人間の固定観念みたいなものをいかに外していくかっていうのは『liquid rainbow』(2017年)くらいからずっとテーマで。『3020』(2020年)のときはサンプリングを取り入れたりしたんですけど、今回はもっと直接的で、ロックというものを脱構築して新しいものに向かうということにフィジカルでトライした。コード進行、ビート、歌、そういうものに立ち返って、もう一度構築し直すようなイメージでした」。

SuiseiNoboAz 『GHOST IN THE MACHINE DRUM』 SuiseiNorecoRd(2022)

 スタジオでのセッションを石原が自宅に持ち帰り、デスク上でトラックとして追い込み、それをもう一度スタジオに戻して、さらにまた自宅で修正して……そんな作業を繰り返して磨き上げられた楽曲の数々。なかでも、タイトル・トラックは、松田の叩き出すビートはもちろん、河野岳人のテクニカルなベースラインと、高野メルドーが弾くフェンダーローズの音色も加わり、本作における挑戦を象徴する一曲になっている。

 「トップのテーマは単純なマイナーペンタトニックなんですけど、それを支えるコードを今までと違う考え方で作ろうと思って。ハービー・ハンコックがマイルスに言われた〈バター・ノートを弾くんじゃねえ〉って言葉があるらしくて、ハービーは〈トーストの上のバターのようなベタベタしたありきたりのコードを弾くな〉と解釈したそうなんですけど、この曲も簡単に気分を特定されない、もっと自由にさすらってるコードにしたくて。こういう曲で一番大変なのはベースで、ある意味ロックの作り方とは真逆なんですよね。ロックは先に背骨を決めて、それに脚色していくけど、これは背骨がグニャグニャ変化していく。楽器と楽器の構造的な関わり合いが相対的に曲を作っていくイメージ」。

 アルバムは自宅機材の電源を入れる音で始まり、〈俺にはゴーストがついている〉と口にする“GHOST”をイントロダクションに、上記のタイトル・トラックで本編がスタート。石原は本作を指して〈出来上がったのは音楽を作ることについての音楽だった〉とコメントしている。

 「もともとこのタイトルのアルバムを作りたいと思ってたんです。ポリスの『Ghost In The Machine』、『攻殻機動隊:GHOST IN THE SHELL』、〈MACHINEDRUM〉っていうドラムマシーンも実際にあるし、かっこいいなと思っていて。で、このタイトルの意味を考えたときに、デジタル機器の中にも実は霊魂がいて、それがいるからこそ、音楽にマジックが起こるということなんじゃないかと。音楽は芸術であると同時に自然科学でもあって、ある意味では厳密なルールに基づいて作られるものだけど、そこにも霊魂がいて、自分をはじめとした音楽を作らずにいられない人たちには、それが見えてるんじゃないかなって」。

 〈音楽を作ることについての音楽〉になった理由として、昨年息子が誕生したことも非常に大きかったという。想像以上に大変な子育てのなかで時間配分をしながら、自宅で曲を作り、仲間とスタジオに入る。そんな生活が作品となった結果、アルバムには“THE RIDER”や“群青”のように、子どもについて歌った曲も自然と収録された。

 「クロエ・ジャオ監督の『ザ・ライダー』というロデオ・ライダーを扱った映画を観たんです。内容ももちろん素晴らしいんですが、同時にタイトルが笑っちゃうくらい潔くてかっこいいなと思って。このタイトルで自分が曲を作るとしたらどういう曲になるだろうかと考えたときに、〈親子ソングだな〉と思ったんですよね。子どもは抱っこしてあげないとどこにも行けないわけで、親はまるで子どもの乗り物みたいだなと思ったんです。これは乗り物がライダーに想いを馳せてる歌なんじゃないかって」。