HAMILTON LEITHAUSER 『The Loves Of Your Life』 Glassnote(2020)

天野「ハミルトン・ライトハウザーの『The Loves Of Your Life』は、2020年もっとも過小評価されているアルバムのひとつだと思います! 活動休止中のバンド、ウォークメンのフロントマンである彼は、ロスタムとの『I Had A Dream That You Were Mine』(2016年)が高い評価を得ました。今回はセルフ・プロデュースで作り上げた渾身のアルバムで、ほとんどの楽器を自分で演奏。幼い娘たちのコーラスがまた最高で、彼女たちはロビン・ペックノールドに目をつけられてしまいました(笑)。なので、フリート・フォクシーズ『Shore』にフィーチャーされています。家族と演奏した〈Tiny Desk (Home) Concert〉も必見。実在の人々を歌った歌詞も、なかなかおもしろいです。詳しくはレビューを読んでいただければと思います」

 

RÓISÍN MURPHY 『Róisín Machine』 Skint(2020)

田中「最高のディスコ・アルバムが登場しました。ロイシン・マーフィーの『Róisín Machine』。彼女は、元モロコのヴォーカリストにして、長年にわたって多くのアーティストからフィーチャーされてきたエレクトロニック・ミュージック・シーンにおけるディーヴァ的存在です。このアルバムは、クルキッド・マンやDJパロットとしても知られる、80年代から活動する英シェフィールドのヴェテラン、リチャード・バラット(Richard Barratt)がプロデュース。彼とマーフィーは長年にわたって共作を続けてきたそうですが、ようやくこうして一枚のアルバムとして日の目を見ました。ひたすらに官能的で煌びやかなダンス・ミュージックを揃えた全10曲。マーフィーの歌声を含むひとつひとつの音がシルキーで、まるで桃源郷にいるかのような心地よさです。この世界に溺れていたい!」

 

天野「注目の才能、070(オー・セヴン・オー)・シェイクのファースト・アルバム『Modus Vivendi』。ドミニカ系で米ノースバーゲン出身の彼女は、カニエ・ウェストにフックアップされ、『Ye』(2018年)など一連のカニエ・プロデュース作に参加して注目されました。この作品では、彼女の持ち味である、浮遊感あふれるフューチャリスティックなオルタナティヴ・ヒップホップ・サウンドがこれでもかと詰め込まれています。“Rocketship”では冨田勲の“雪は踊っている”をサンプリングしてるのも納得。テイム・インパーラによる“Guilty Conscience”のリミックスもばっちりハマっていました」

 

OCTO OCTA,ERIS DREW 『fabric presents Octo Octa & Eris Drew』 Fabric(2020)

田中「ミックスCDを一枚選びました。エリス・ドリューとオクト・オクタ――彼らはお互いにパートナーで、2人ともトランスジェンダーであることを公言しています。この『fabric presents Octo Octa & Eris Drew』は、ロンドンの名門クラブ、ファブリックが新しく始めたミックス・ラインの最新作。ファブリックによる名シリーズ〈FabricLive〉は2018年に100作目で終了しましたが、今回の〈fabric presents〉では、ミックスCDと併せて、収録曲をミックスされていない状態でパッケージしたアナログ盤もリリース。世界的にヴァイナルのセールスが上がっていることをふまえた判断だと思いますが、最近では珍しく、ほぼレコードのみでDJをしているドリューとオクト・オクタが本シリーズの適役であることも重要。シカゴハウスやUKガラージ、レイヴ・テクノなどを、スクラッチやカットインを使い、〈これぞレコード・プレイ!〉と快哉を叫びたくなるスタイルでミックス。ジャッキンかつワイルド。聴いていると元気が出ます」

 

天野「『Send Them To Coventry』はアフロスウィング/アフロバッシュメントの新鋭、パ・サリュのミックステープです。グライムやロード・ラップを受け継いだストリートのにおいを感じるフロウとアンダーグラウンドなベース・サウンドが最高で、今年屈指の鮮烈なデビュー作だと思います。ちなみに、アルバム・タイトルは〈追放する〉を意味する慣用句。パ・サリュの拠点であるコヴェントリーは、ロンドンから離れたイングランド中部にあるんですよね。ロンドンとはちがう息吹を感じます」