親子で続くアメリカーナの旅

 ミュージシャンの子供は物心ついたころから気負わずに音楽にふれて育ちやすい。とはいえ、たとえば親がキッスのメンバーだったらどうか、となると想像しにくい気もするが、ヨアヒム・クーダーの場合は幸いなことに親がライ・クーダーで、日ごろから家で生楽器を演奏してうたってくれる人だった。

 「あるとき息子と娘を連れて両親を訪ねたら、父が子供たちにバンジョーでアンクル・デイヴ・メイコンの“モーニング・ブルース”を演奏してくれた。ぼくが子供のころも父はよくバンジョーを弾いてくれたんだけど、その曲が大好きだった記憶がよみがえって、一緒に演奏したら、子供たちも大喜びだった。それで他の曲も楽しみで練習してみたのがはじまりだった。父とはとてもカジュアルな音楽的関係にある。今作も録音中にひょっこり顔をのぞかせては『私だったらロングネック・マンドリンを試してみるね』みたいな助言をして家に戻っていくんだ。それから、ぼくの妻がハーモニーをうたう間、赤ん坊の面倒も見てくれた(笑)」

 とヨアヒムが語るのは、20世紀前半のバンジョーの名人の曲に取り組んだアルバム『オーヴァー・ザット・ロード・アイム・バウンド』誕生のきっかけだ。ただし彼はバンジョーではなくアフリカの親指ピアノをエレクトリック化したアレイ・ムビラを主に使っている。

JOACHIM COODER 『Over That Road I'm Bound 』 Nonesuch(2020)

 「20年近くムビラを使っていたけど、楽器職人のビル・ウェズレーが作ってくれたエレクトリック・ヴァージョンですべてが変わった。伝統的な親指ピアノの宇宙船ヴァーションみたいな楽器で、立ち上がってギター・アンプを通して演奏することもできる。おかげで曲を作ってうたえるようになったし、演奏するとトランス状態にも入れて、いい感じだよ」

 忘れ去られつつあった19世紀の伝統音楽や流行歌をアンクル・デイヴ・メイコンがカントリー音楽に変換して20世紀前半の聞き手に伝えたのと同じようなことを、ライ・クーダーは20世紀後半のロックの時代に行なった。ヨアヒムはその伝統を21世紀に橋渡ししようとしているように見える。

 「彼の歌がとにかく好きなんだ。それがすべて。時代を超越していて、思いがけなく現代に通じる感覚もあるんだよ」

 穏やかな温故知新のアルバムだが、中には“ハートエイク・ブルース”のような先鋭な音響解釈があり、ヴュー・ファルカ・トゥーレらも参加した曲での音楽地図はアフリカの沙漠のブルースにまで広がっている。アメリカーナの旅は終わることを知らないようだ。