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ピーター・バラカンが思う〈ジャズが印象的な映画〉

――ところで、ジャズがサウンドトラックに使われていて、印象に残っている映画は何ですか?

「このあいだ日本で4Kでのリヴァイヴァル上映があった『真夏の夜のジャズ』(59年)。あれはジャズ・フェスの記録映画ですから、〈サウンドトラックとして使われている〉というのとは少し違いますけど。

あと、僕が子どもの頃に観た『Blow-up』(67年)、日本の題は『欲望』でしたっけ。あれはハービー・ハンコックが音楽を担当していました。あの頃は彼の存在を意識していなかったんだけど、ロンドンを舞台にした映画で、僕が通っていた学校のすぐ近くが出てくるので、〈あー、ここ知ってる!〉ってなりました(笑)」

――あの作品はミケランジェロ・アントニオーニ監督でしたね。

「内容は、あまりジャズを意識した映画ではなかったですよね。でもハンコックの音楽を使ったという。あとは『バード』(88年)とか『ラウンド・ミッドナイト』(86年)とか、ジャズがテーマの映画かな」

――あと、フランス映画の……。

「あ、『死刑台のエレベーター』(58年)ね。あれはマイルズ・デイヴィスが映画のラッシュを観ながら即興で演奏したんですね。おそらく監督のルイ・マルが、もともとマイルズのサウンドをクールに感じていたんでしょうね。あれは久しく観ていないけど、また観たいですね。

映画「死刑台のエレベーター」予告編
 

あと、『恐怖のメロディ』(71年)。クリント・イーストウッドが初めて監督した作品で、深夜ラジオのDJの役で出演もしていましたね」

――クリント・イーストウッドは、先ほどおっしゃっていた「バード」も監督していて、熱心なジャズ・ファンですもんね。ところで、アメリカ映画ではルイ・アームストロング、ベニー・グッドマン、ビリー・ホリデイなんかが出ている作品は昔ありましたけど、ある時期まではモダン・ジャズを使った映画が少ないですね。

「使いにくいんでしょうね。ジャズの派手な即興演奏を映画音楽として使うと邪魔になりそうです。

ビリー・ホリデイといえば、彼女のドキュメンタリーが完成したんですよ(2020年の映画『Billie』)。昨日オンラインで観ました。ある女性がビリー・ホリデイの本を書こうと思って、10年ぐらいかけてビリーの関係者にインタビューしていたんですが、書き上げる前に死んじゃったらしいんですよ。そのインタビュー・テープを整理している中でドキュメンタリーの映像を作ることになったということで、作中では実際のインタビュー音声が流れたりします。この映画には、今まで見たことのないビリーの映像が、少なくとも2つはありましたね」

映画「Billie」予告編
 

――ビリー・ホリデイの映像って、少ないんですよね。

「そうなんですよね。その映画にはビリーが“Strange Fruit(奇妙な果実)”を歌う映像が出てきて、あれは貴重ですね」

――ジャズをテーマにした映画に限ると、バラカンさんがいちばんお好きなものは何でしょう?

「劇映画ではないけど、セロニアス・マンクのドキュメンタリーの『ストレート・ノー・チェイサー』(88年)は好きですね。もともとマンクの音楽がとても好きなので、それが大きいかもしれない。でも、ひとつ選ぶなら『真夏の夜のジャズ』かな。いろいろなジャズが出てくるから」

映画「真夏の夜のジャズ 4K」予告編