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男女ツイン・ボーカルのおもしろさ

――浪岡さんと大島さんが惹かれる最近のボーカリストはどなたですか?

浪岡「日本では、ヒゲダン(Official髭男dism)の藤原聡さんがものすごく上手いと思います。ああは歌えないなと」

PenthouseによるOfficial髭男dism“I LOVE...”のカバー

大島「私は、歌声そのものが圧倒的で人を魅了できるパワフルなボーカリストに憧れます。Superflyさんや、洋楽ではリヴ・ワーフィールドさん。同い年のニッキー・ヤノフスキーさんも尊敬していて、彼女の“Take The ‘A’ Train”を聴いたときは自信をなくしました(笑)。

それと、私はパフォーマンスもすごく大切にしています。ライブで観たときに音源よりも魅了される――たとえば、デュア・リパさんはライブで踊りはじめたらダンサー顔負けのステージングを見せるので、すごいと思いますね」

――浪岡さんと大島さん、歌い手2人の個性のちがいがPenthouseの魅力になっていますよね。ここまで色が異なる男女のツイン・ボーカル・バンドは、いまどき珍しいと思います。

小渕「PenthouseのYouTubeチャンネルで観たマーヴィン・ゲイ&タミー・テレルの“Ain’t No Mountain High Enough”とブルーノ・マーズ“Treasure”のマッシュアップ・カバー、あれはすごくハマっていましたね。浪岡さんたちがツイン・ボーカルで参考にしているのは?」

Penthouseによるマーヴィン・ゲイ&タミー・テレル“Ain’t No Mountain High Enough”とブルーノ・マーズ“Treasure”のマッシュアップ・カバー

浪岡「最近よく聴いているのはローレンス(Lawrence)です。それぞれがメインで歌う曲もあれば2人で歌う曲もあって、聴いていて飽きません。YouTubeでは視聴維持率が重要なので、途中で離脱されないような構成は最近の音楽の特徴だと思います」

ローレンスの2016年作『Breakfast』収録曲“Do You Wanna Do Nothing With Me?”

大島「ローレンスさんは女性が特徴のある強い歌声で、男性はそれを包み込むような歌声なので、バランスが素晴らしいんです。Penthouseでは浪岡の声がパワフルなので、私が下から支えるようなボーカリゼーションを意識しています」

小渕「ツイン・ボーカルならでのソングライティングやアレンジはありますか?」

浪岡「出来上がったものの歌い分けを考える場合と、歌い分けるつもりで書く場合の両方があります。僕は1番と2番のAメロでちがうことをやりたいので、1番のAメロは僕が歌って2番は真帆さんが歌うとか、そういうことは多いですね。ツイン・ボーカルはそれぞれの音域もあるので一種の制限ではあるのですが、それによって新しいことができるとも思います」

 

新世代のリズム感覚

――では、ドラマー・平井さんの音楽的なバックグラウンドを教えてもらえますか?

平井「僕は宇多田ヒカルさんが大好きで、そこから派生していろいろ聴いていきました。それと、ディアンジェロやエリカ・バドゥのようなネオ・ソウルはサークル内で流行っていたこともあって聴いていましたね」

Penthouseによるクイーン“Another One Bites The Dust”のネオ・ソウル・カバー

――ドラム・プレイの面でも影響を受けましたか?

平井「ドラムについては、昔から好きなファンクのビートを参考にすることが多いんです。タワー・オブ・パワーのドラマー(デヴィッド・ガリバルディ)が大好きで、レタスのドラマー(アダム・ダイチ)も好きです。

最近は、ヒップホップ的なヨレるビートを取り入れようと浪岡に提案することもあります。そういったことをすごく吸収してくれるんですよね」

小渕「みなさんの世代は、リズム感も僕らの世代とちがうんですよね。普通に8ビートを演奏しても、そこには16や32ビートを理解している感覚がある。ブラック・ミュージックを模倣する時代が終わって、それが世界的に浸透し、その先で新しい音楽を作っていると思います」

平井「その点、King Gnuはすごいなと思います。“白日”はめちゃくちゃ売れた曲ですが、あのビートのおもしろさを考えると、もっと評価されてもいいくらい。

ドラマーでは石若駿さんも尊敬しています。石若さんは米津玄師さんの“感電”でも叩いていますし、CRCK/LCKSでのプレイなど、新しいビートをポップスに融合させているのがすごい」

PenthouseによるOfficial髭男dism“Pretender”とKing Gnu“白日”のマッシュアップ・カバー

PenthouseとALLOWLによる2020年のヒット・ソングのメドレー。カバーしている楽曲は米津玄師“感電”、BTS“Dynamite”など

 

シティ・ソウルの絶妙なBPM

――リズムといえば、小渕さんはディスクガイドの選盤やコンピの選曲でBPMを重要視しています。

小渕「“Fireplace”もBPMが絶妙ですよね。僕は『bmr』でヒップホップを担当していたので、20年間ずっとヒップホップばかりを聴いていました。ヒップホップは音数が少ない音楽なので、大事なのは音色とBPM。その2つの微妙なちがいで勝負するヒップホップ以降の音楽において、BPMはすごく重要になっているんです。

なので、たとえばシェリル・リンは“Got To Be Real”(78年)がいちばん有名ですが、シティ・ソウルではもうちょっとBPMが遅い曲、”Come In From The Rain”などをおすすめに選んでいます。〈いま心地よく聴けるのはこのBPMの曲なんじゃないか〉という観点から選んでいて、いまの若い世代の人たちはその感覚を暗黙のうちに理解していると思いますね」

シェリル・リンの78年作『Cheryl Lynn』収録曲”Come In From The Rain”

――この10年間、メインストリームの楽曲のBPMは遅くなってきていますよね。

小渕「EDMはBPM 125~130の曲が多かったので、その反動も大きいのでしょう。『シティ・ソウル ディスクガイド2』に掲載したインタビューでドラマーの神保彰さんがおっしゃっていたのは、〈最近の音楽はBPMが下がっているけどテンポをダブルやトリプルで取れるから、BPM 90でも180のノリで楽しめる〉ということでした」