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アジアにも広がるシティ・ソウル

――「シティ・ソウル ディスクガイド」の掲載作品で、Penthouseのみなさんが気になるものはありますか?

平井J・ラモッタ・すずめさんのアルバム(2019年作『Suzume』)はよく聴いていました。エリカ・バドゥが好きなので、雰囲気がすごく似ているなと。最近は音を重ねて複雑なグルーヴを生み出す音楽が多いのですが、J・ラモッタ・すずめさんの曲は全体的に音数が少なめなので、そこがよかったですね」

J・ラモッタ・すずめの2019年作『Suzume』収録曲“If You Wanna”

大島「私は古い音楽が好きで、幼い頃からナイル・ロジャーズとシック、シスター・スレッジなどを聴いていました。シックの音楽ってリズミカルでグルーヴィーなので、誰が聴いても踊れるところが素晴らしいんですよね。自分の音楽的なルーツです」

シスター・スレッジの79年作『We Are Family』収録曲“Thinking Of You”

小渕「コンピでおもしろい曲はありました?」

浪岡「マンドゥの“Another One”が好きですね」

『City Soul:Sparkle – Today’s Soul, AOR & Blue Eyed Soul』収録曲“Another One”

小渕「マンドゥはフランス人ですが、西海岸ロックのフリークで、わざわざLAに留学して音楽を勉強した人なんですよね。ちょっと浪岡さんに近い感覚を持っているかもしれません」

大島「父親にコンピを聴かせたら〈えっ、なんでこの流れでPenthouseの曲が!?〉って驚いていました(笑)」

小渕「わかる人にはわかる流れにしています(笑)。1曲目のアンソニー・ストロング“You To Me Are Everything”はリアル・シングのカバーで、山下達郎さんが敬愛するイギリス人のケン・ゴールドが書いた曲です。

『City Soul:Sparkle – Today’s Soul, AOR & Blue Eyed Soul』収録曲“You To Me Are Everything”

イギリスの音楽には日本の歌謡曲に似ているところがあって、アメリカのソウルをそのまま持ち込んでも聴いてもらえないので、技巧的でキャッチ―なメロディーが特徴なんですよね。

そういったクロスオーバー・ポップスはアジアも得意とするところで、最近は台湾や韓国、インドネシア、タイなどからすごくいいシティ・ソウル系バンドがたくさん出てきている。だからPenthouseは大変ですよ、ライバルが増えて」

YONLAPAの2020年作『First Trip』収録曲“Sweetest Cure”。YONLAPAはタイ・チェンマイ出身のバンド

――小渕さんがおっしゃる〈クロスオーバー・ポップス〉は、Penthouseというバンドの魅力でもありますよね。

浪岡「そうですね。〈こういう音楽をやるからこのメンバーを集めよう〉という意図はなく、バンドを続けていけるような人間関係のメンバーを集めたのが本当のところです(笑)。なので、音楽の趣味はバラバラですが、それが良く作用して自然とクロスオーバーしているのであればいいなと思います」

 

ユーミン方式で作曲したPenthouseの新曲

――最後に、Penthouseの2021年の予定や展望を教えてください。コロナ禍で計画を立てにくい状況だとは思いますが……。

大島「私は今後、ストリングスやホーン・セクションをバンドに入れていきたいなというのは考えていますね」

浪岡「オリジナル曲が溜まってきたので、それをたくさん出していこうと思っています」

大島「ちょうど今日(1月16日)、新曲“26時10分”をリリースします」

Penthouseの2021年のシングル“26時10分”

浪岡「“26時10分”は曲作りが特殊で、僕が作ったメロディーだけをピアノのCateen(角野隼斗)に渡して、コードを新しく当て直してもらって作った曲なんです。メジャー・キーのつもりで書いたのに、マイナー・キーの曲になりました(笑)」

小渕「そのやり方、ユーミン(松任谷由実)と同じです。ユーミンって、曲を書いたらメロディーだけを(松任谷)正隆さんに渡すらしいんです。それで、コードを正隆さんが全部付け直しているという」

――すごい偶然の一致ですね。新曲がたくさんリリースされるということで、2021年はPenthouseの活動が楽しみです。今回のコンピからバンドを知る方も多いでしょうし。

大島「私たちのファンがここから新しい音楽に出会ってくれて、好きなシティ・ソウルを見つけてもらえたらうれしいですね」

小渕「これだけ違和感なく並んでいたら、〈洋楽っていいな〉と思ってくれるPenthouseのファンの方もきっといらっしゃると思います」

 


RELEASE INFORMATION

VARIOUS ARTISTS 『City Soul:Sparkle – Today’s Soul, AOR & Blue Eyed Soul』 Pヴァイン(2020)

■CD
リリース日:2020年12月23日
品番:PCD-20433
定価:2,000円(税別)

TRACKLIST
1. Anthony Strong “You To Me Are Everything”
2. Randy Goodrum “Lose June”
3. Mandoo “Another One”
4. Young Gun Silver Fox “Whatcha Gonna Do For Me?”
5. Penthouse “Fireplace”
6. Tim Treffers “Where We Go Tonight”
7. Ivan Ave  “On The Very Low”
8. Caleb Hawley “High On A Heartbreak”
9. Ginger Root “Call It Home”
10. Julia Wu “1/7(10*9)”
11. Matt Johnson “Goddess”
12. Smooth Reunion “BMPD”
13. Filippo Perbellini “Something To Smile About”
14. Ali Thomson “Black Comedy”
15. Workshy “You’ll Never Get To Heaven”
16. The California Honeydrops “Live Learn”
17. Isla De Caras “Despacio”
18. 9m88 “Aim High”
19. Jak Lizard “Cauliflower”

■デジタル
リリース日:2020年12月23日
品番:DGP-889
配信リンク:https://smarturl.it/CitySoul_Sparkle

TRACKLIST
1. Anthony Strong “You To Me Are Everything”
2. Randy Goodrum “Lose June”
3. Mandoo “Another One”
4. Young Gun Silver Fox “Whatcha Gonna Do For Me?”
5. Penthouse “Fireplace”
6. Tim Treffers “Where We Go Tonight”
7. Ivan Ave  “On The Very Low”
8. Caleb Hawley “High On A Heartbreak”
9. Ginger Root “Call It Home”
10. Matt Johnson “Goddess”
11.Three Little Words “213”
12. Smooth Reunion “BMPD”
13. Filippo Perbellini “Something To Smile About”
14. Ali Thomson “Black Comedy”
15. Workshy “You’ll Never Get To Heaven”
16. The California Honeydrops “Live Learn”
17. Isla De Caras “Despacio”
18. 9m88 “Aim High”
19. Jak Lizard “Cauliflower”

 

小渕晃 『シティ・ソウル ディスクガイド2 シティ・ポップと楽しむ ソウル、AOR & ブルー・アイド・ソウル』 DU BOOKS(2020)

■目次
ゲスト・インタヴュー1
鳥山雄司+神保彰+和泉弘隆=PYRAMID
日本を代表するミュージシャン/プロデューサー3人に聞く「クロスオーヴァー」と「洗練」。

Part 1 1970sシティ・ソウルのはじまり ~ クロスオーヴァーと洗練の時代

コラム 音質・音響から考えるシティ・ソウル by チェスター・ビーティー

Part 2 1980 - 1983 シティ・ソウルの最初の黄金時代

ゲスト・インタヴュー 2
佐藤竹善
30年周期で訪れるクロスオーヴァーの波。偶然の積み重ねが用意したその時代時代にしか生まれ得ない音楽を愛する。

Part 3 1984 - 1991 音楽のデジタル化と、クロスオーヴァーの深化

Part 4 1992 - 2014 ヒップホップと、EDMの時代のシティ・ソウル

ゲスト・インタヴュー 3
KASHIF
ポップス、クラブ・シーンを自在に行き来し、今を代表するギタリストのひとりが語る「僕を形づくった名曲、名演」

Part 5 2015 - 2020 2度目のクロスオーヴァーの時代 ~ 国境や人種を越えるソウル × ポップスのムーヴメント

ゲスト・インタヴュー 4
Dorian
コンピューターならではの音楽を追い求めて。注目のつくり手が語る、いま音楽を、ポップスをつくるということ。