本日休演『MOOD』のヨレて揺らぐロック・サウンドはどうやって生まれた?　岩出拓十郎が語るこだわり抜いた音作り

本日休演『MOOD』『LIVE 2015-2019』

フリーキーなサックスに北アフリカのリズム、『MOOD』の音楽的挑戦

――“ロンリネス”で客演しているサックスの安藤暁彦さんはgoatやpenoといったバンドで活躍されている方ですが、本日休演にサポートで参加したのは今回が初めてですか?

岩出「そうです。他のサポート・メンバーはこれまでも一緒にやったことがあるんですけど、安藤さんは初めてでした。もともとgoatが好きでライブを観に行ったりしていたんですが、安藤さんはpenoでメロウなラインを吹きつつフリーに差し掛かるようなプレイもしていて、それがとても良くて今回オファーしました。レコーディングのときはワンテイクで完璧に演奏していただいたんです。

アルバム・ヴァージョンの“アレルギー”ではアウトロにサックスでノイズ・ソロみたいな演奏をしているんですけど、それでもの凄く曲の幅が出たというか、サックスのノイズ・ソロのおかげでギターとベースとドラムのリズムもちゃんと聴けるようになりました」

goatの2015年のライブ映像。安藤暁彦がアルト・サックスで参加

――アルバムの中でも“ロンリネス”は異色の楽曲だと思いますが、その直前に収録されている“砂男のテーマ -Midnight Desert Surfin’-”もやはり特徴的な楽曲ですよね。

岩出「その曲は北アフリカのトゥアレグ族のリズムが元になっているんですけど、僕はニジェールのグループ・イネラネというバンドがすごく好きなんですよね。グナワの5連リズムを無理やりガレージ・ロックみたいにした感じでカッコよくて。

グループ・イネラネの2007年作『Guitars From Agadez (Music Of Niger)』収録曲“Ano Nagarus”

セカンド・アルバムの『けむをまけ』（2015年）からそういったリズムは取り入れていたんですけど、ワンループの中で同じ〈ヨレ〉をひたすら繰り返すリズムで、その経験があったからJ・ディラのヨレたビートもしっくりきたのかもしれないです。“砂男のテーマ -Midnight Desert Surfin’-”に関しては、そうしたリズムとサーフ・ロック的なサウンドを掛け合わせた楽曲ですね」

――ところで今作のタイトルはなぜ『MOOD』になったのでしょうか?

岩出「これ、実は特に意味はないんですよ（笑）。ローマ字の大文字で、あまり意味のない言葉がいいよねってメンバーと話していて、ベースの有泉（慧）がいくつか案を考えてきてくれたんです。その中に〈MOOD〉があって、ありきたりな言葉だけど含みもあるのでちょうどいいなと思って選びました。

ただ、アルバムが完成してから聴き返してみたら、個々の曲がバラバラなようでいて、薄っすらとまとまりがある作品でもあるなと思いました。それは音作りやミックスの要素もあるんですけど、歌詞もどこかボンヤリとした心情を表現するというのがどの楽曲にも通底していて。そう考えるとアルバム全体のムードに統一感があるのかなと」

消えたバンドのライブ盤、されどバンドの根本を捉えた『LIVE 2015-2019』

――今回『MOOD』と同時にライブ盤『LIVE 2015-2019』もリリースされます。この2枚のアルバムは本日休演というバンドにとってどのような位置づけになるのでしょうか?

Rock

岩出「ずっとライブ盤は出したいと思っていたんです。ライブでは身体的な演奏のヨレとかグルーヴがあるので、それをパッケージにしたかったというか。ただ、今回は中村さんにミックス／マスタリングをしていただけたので、音源がものすごくクリアで聴きやすく変化して、なおかつテープで歪んだような音、つまりブート盤っぽい良さも残っていて、すごく良くなりましたね。中村さんには事前にゆらゆら帝国の『な・ま・し・び・れ・な・ま・め・ま・い』（2003年）とか裸のラリーズやINUのブート盤を音のイメージとしてお伝えしていたんですけど、まさにそうしたサウンドになったと思います。

ライブ盤は全部過去の、4〜5人編成時代の音源なんですよ。いわば〈消えたバンド〉で、当然ですけど『MOOD』のライブ・ヴァージョンというわけではないんです。だからこの2枚のアルバムは対にはならないんですけど、ライブ盤には『MOOD』の制作が始まるまでの活動の蓄積が刻まれていますし、スリーピースになって消えたものの痕跡もある。