スコットランドのグラスゴーで誕生してから30年を経て、ティーンエイジ・ファンクラブに異変が起きた。結成メンバーであり、ノーマン・ブレイク&レイモンド・マッギンリーと共にフロントマン/ソングライターを務めてきたジェラルド・ラヴが脱退。代わりにギター/キーボードのデイヴ・マクゴワンがベースに移行し、元ゴーキーズ・ザイゴティック・マンキのエイロス・チャイルズをキーボード/ヴォーカルに迎えて再出発したのが、2018年末のこと。それから間もなく着手した10枚目のアルバム『Endless Arcade』がリリースされた。
そのリラックスしたヴァイブやいつになくサイケデリックなトーンには新体制のアイデンティティーが刻印されており、ケミストリーが着々と醸成されていることが分かるというもの。また本作には、喪失感と孤独感に苛まれているノーマンの曲と、オプティミスティックな眼差しで、山も谷もあるのが人生なのだと諭すレイモンドの曲を交互に配置。対話形式をとったかのような作品に仕上がっているのも特筆すべき点で、聴きどころに不足はない。
名人芸に磨きをかけるだけでなく、大きな変化を柔軟に受け止めて新しいチャプターを開くに至った経緯を、ノーマンとレイモンドに訊いた。

TEENAGE FANCLUB 『Endless Arcade』 PeMa/Pヴァイン(2021)
世に送り出す意味があるという確信を得なくちゃいけない
――パンデミックでリリースが延期されていた『Endless Arcade』ですが、レコーディングは2019年末には終えていたそうですね。
ノーマン・ブレイク「うん。いつもは締め切りに追われてギリギリ間に合わせることが多いんだけど、今回は随分前に作業が終わっていた。リリースを遅らせた分ミックスに長い時間をかけることができたから、サウンドについてはすごく満足しているよ。思いがけなく生まれた時間を役立てて、より良い作品にすることができたんじゃないかな」
レイモンド・マッギンリー「ちょうど1年と少し前に、最後の曲をレコーディングしたんだっけ? 今回はそもそも、合間にツアーを挿んでセッションを数回に分けて行なって、通常より余裕を持ってレコーディングをしたんだ。僕らには珍しいことなんだけど、結果的には良かったんじゃないかな。ツアーをすると、家でゴロゴロしている時よりもミュージシャンとして腕が上がるように思うし(笑)」
――少し時間を置いて聴き直した時、曲の印象が変わったりしました?
ノーマン「今聴いてもなかなかいいアルバムだと思う。〈あそこは改善の余地があるな〉と後悔するような箇所はないしね。
それよりもやっぱり、いつもなら今頃ライブでこれらの曲をプレイできていたのに、それが叶わなかったことにフラストレーションを感じていて、とにかくライブでどう聴こえるのか確認したいよ」
レイモンド「うん。今作については満足度が高くて、バンドの演奏もバッチリだし、アルバムとして始まりから終わりまでスムーズに流れる」
ノーマン「僕も色んな意味ですごく満足しているけど、とにかくソングライティングについて満足度が高いね。これまで扱ってこなかった題材を取り上げたからかもしれないし、自分の気持ちをこんな風に表現できたことに達成感があって、言いたかったことを言えた気がする。
それにアルバムの良し悪しって、作った時の状況も判断材料になるけど、今回は作りながらすごくいい手応えがあった。重要な作品を作っていると実感できたんだよ」
レイモンド「そうだね。僕らは惰性でアルバムを作っているわけじゃないんだ。聴く価値のある作品、〈いい仕事をしたな〉と感じられる作品でなければ、リリースしないで消えてしまったほうがいい。ファンが何でも受け入れてくれると思い込んでいてはいけないし、バンドの名前を掲げて世に送り出す意味があるという確信を得なくちゃいけない。そういう意味ではすごくハッピーだよ」
ジェラルド・ラヴ脱退を経て、TFCは新しいチャプターへ
――さて、前作『Here』(2016年)を5年前に発表してから色んなことがありましたよね。まず旧作のリイシューがあって、脱退したメンバーも交えたアルバム再現コンサートがあり……と回顧的プロジェクトが続き、その後メンバー交代を経て新たなスタートを切りました。バンド史上、どんなフェーズだったと言えるんでしょう?
ノーマン「そうだな。僕らとしては常に未来を向いていたいんだけど、昔のアルバムが廃盤になって久しかったから、再発できたのはうれしかったね。
そして再発する以上はツアーを行なって、プロモーションしなくちゃいけない。そこで英国各地で3公演ずつ、クリエイション時代のアルバムを全編再現するショウを企画したんだ※。レコーディングに参加したメンバーを集めて。つまり、初期の作品に大きな貢献をしたブレンダン・オヘアと、その後の作品に参加したポール・クインがドラムを叩いてくれたのさ。
で、あれがジェラルドとの最後のツアーにもなった。当初からそうなると分かっていたから、ひとつの時代に幕を引くという意味で、いい企画だったと思う。
でもツアーが終わった瞬間、とにかく前に進みたかった。メンバー交代についてもすごくラッキーだったと思うよ。デイヴは本来ベーシストだからね。そもそもバンドって変化し続けるものだし、そんな中で、常にポジティヴな面に目を向けている必要がある。だから僕らは今回のメンバー交代を、フレッシュなことに挑むチャンスと見做した。これまでもティーンエイジ・ファンクラブの歴史には様々なチャプターがあったし、今また新しいチャプターに突入して、すごく楽しんでいるよ」
レイモンド「そうだね。ジェラルドがバンドを脱退したいと告げたのが3年くらい前だったかな。それから半年ほど彼と活動を続けて、アルバム再現ライブがあったわけだけど、ポールやブレンダンも交えてこれまでの歩みを振り返って、みんなでこの過渡的な時期を過ごすことができたのはうれしかったよ」
新メンバーとの実り豊かなコラボ
――エイロスはほかにも色んなプロジェクトを抱えていますが、バンドに誘った時、すぐにオーケーしてくれたんですか?
レイモンド「ノーマンがまず電話で話したんだったね」
ノーマン「ああ。〈エイロス? 元気?〉〈うん、元気だけど〉〈でさ、これから何本がライブがあって、良かったらキーボードを弾いて歌ってもらえないかな〉〈おー、いいね!〉っていうノリで話が進んだ。長年の友人だし(ノーマンとエイロスはジョニー(Jonny)というユニットでコラボしている)、いいヤツだし、ミュージシャンとしても極めて有能だし、彼は常に動いていたいタイプなんだ。そして『Endless Arcade』に大きく貢献してくれたよ。
曲作りは基本的に僕とレイモンドが担当しているけど、みんなに細かく指示を与えたわけじゃないんだ。特に今回は、まず僕とレイモンドがギターで曲を聴かせて、あとは各自、それぞれのパーソナリティーを反映させながら自分のパートを練っていった。
エイロスはユニークなサウンドをプラスしてくれたし、ヴォーカルも素晴らしい。言ってみれば家族の一員みたいな存在で、彼がいることが自然に思えて、すぐに息が合ったよ」
レイモンド「ライブ・パフォーマンスでの彼の集中力と熱さは半端じゃない。思わず見入ってしまうこともあるし、歌声にも圧倒される。クールなんだけど、中途半端なことはやらない。真摯で、常に全力で取り組む。そういう人とコラボするとすごくインスパイアされるよ。
デイヴも素晴らしくて、ミュージシャンとしての能力に関しては誰よりも抜きん出ているんじゃないかな」
全ては他者のクリエイティヴィティーを受け入れることから始まる
――アルバムの話に移りますが、何よりもまず構成が興味深いんですよね。ノーマンの曲は、これまでにあなたが書いたものの中で最もハートブレイキングな曲ばかりで、喪失感と向き合っていて、逆にレイモンドの曲は、そんなノーマンに優しく寄り添って励ましているようでもあります。
ノーマン「意図してそうなったわけじゃないんだよ。僕らは自分たちの人生を元に曲を書く。日々の体験だったり、物事の捉え方だったり。
で、僕の曲は、書いた当時パーソナルな面で直面していたことを題材にして、人間関係にまつわる気持ちを整理して言葉にしていた。それに応えるような曲をレイモンドが書いたのは、全くの偶然なんだ。彼は彼で、世界で起きていることに対する自分の見解を曲に反映させていたわけだしね。そうだろう?」
レイモンド「うん。ほかにも色んな人に、〈ふたりが会話をしているように聴こえる〉と指摘されたんだけど、たまたまお互いが書いてきた曲を並べてみたら、そうなっていたんだよね。
曲を書いている時はぶっちゃけ、バンドのことを考えているわけでもなくて、非常に利己的なプロセスなんだよ。自分の心の中に深く潜って、何かを取り出す。価値のある曲を作り上げるには、自分の想いをそこに投影する必要があると思うんだ。意図的にせよ、無意識にせよ」
ノーマン「事前に打ち合わせるってことはまずないからね。曲を書いて持ってきて、レコーディングしただけ。落ち込んでいたからバンドで集団療法をするとか、そういうつもりは全然なかったよ(笑)。でも自分の感情を率直に表現しているから、曲を書いて演奏するという行為そのものがセラピーになったところはあるんだろうね」
レイモンド「僕らの中でひとつ確立されていることがあって、それは〈物事をありのままの状態で受け入れる〉ってことなんだ。お互いの曲を批評しない。〈僕はこの曲が好きだな〉とか〈この曲は僕には理解できない〉とか、そういう話は一切しない。批評家ぶらない。そのまま受け入れて、最高の形に仕上げる方法を考えるんだ。全ては、他者のクリエイティヴィティーを100%受け入れることから始まり、それを伸ばすことに専念するのさ」
誠実な気持ちに根差していたら普遍的なメッセージが備わる
――さらに、パンデミックというフィルターを通してこれらの曲を聴くと、新たなレイヤーが加わりますよね。あなたたちが歌っている絶望と再起、喪失と再生のプロセスはパンデミック下の世界にもシンクロします。
ノーマン「そこも指摘されたよ。パンデミックについて書いた曲みたいに聴こえる、とね。これも全くの偶然なんだけど」
レイモンド「音楽ってそういうものなんだと思うよ。僕ら自身もそうだし、曲が生まれた背景とは全く別の文脈で、聴き手がそれぞれに解釈して、そこから色んなことを感じ取る。どんな曲だろうと、誠実な気持ちに根差していたら、普遍的なメッセージが備わるんだ」
――収録曲のひとつに因んだタイトルも内容と見事に一致していますが、ティーンエイジ・ファンクラブのアルバムには、通常は表題曲はないですよね。
レイモンド「うん。曲名をアルバム・タイトルにしたのは、デビュー・アルバムの『A Catholic Education』(90年)以来だね」
ノーマン「そりゃすごい。今初めて知ったよ(笑)。『Endless Arcade』をタイトルに推薦したのは僕なんだ。レイモンドの曲だけど、〈人生という終わりのないアーケイド〉というフレーズの響きに惚れてね。これらの曲を総括しているように感じたんだよ」
今でも人生で初めてスタジオに入った時と同じ気持ちになる
――『A Catholic Education』と言えば、あのアルバムからのシングル“Everything Flows”で、〈君は毎年、年を取っていく/でも君は変わらない/もしくは、僕が気付いていないのかも〉と歌っていました。実際に年を取った今、このフレーズについてどう感じますか?
ノーマン「すごく真実味を帯びてきたと思うよ。僕は、年を取ってもみんな内面は若い頃と変らないような気がしている。外見は変わるんだけど、精神面は同じなんだ。特に長年バンドをやっていると、アルバムを発表するたびに自分が変化していくのを実感するわけじゃない。音楽的に連続性を保っているし、今も昔も同じ人たちが鳴らしているように聴こえる。実際、今でもスタジオに行く時は、人生で初めてスタジオに入った時と同じ気持ちになる。もちろん昔より知識は豊富だけど(笑)、同等にエキサイティングだし、そのエキサイトメントを感じられなくなったら辞めるべき時が来たってことなんじゃないかな」
レイモンド「変化ってものは長い時間をかけて少しずつ起きる。昔の写真を見ると随分年を取ったなって実感するわけだけど(笑)、今も中身は同じ人間だと思うし、『A Catholic Education』も『Endless Arcade』もアプローチは全く同じだよ。スタジオに行って、自分たちが正しいと感じることをやるだけ。
そして自分たちの直感を疑わないよう心がけているんだ。〈前作ではこうだったから今回は……〉という考え方はしない。その時々にやりたいことを全力でやり遂げる。もちろん、アプローチが変わらなくても、結果として生まれる音楽は違ってくるんだけどね」
ノーマン「ほら、バンドを結成したばかりの頃は、ほかのアーティストの影響が強く表れるものだよね。好きなアーティストの色んな要素を寄せ集めて、独自のサウンドを作り出そうとするわけだから。
でも徐々に自分たちが得意とすることが見えてきて、そこに力を注ぐようになる。僕らの場合はそれがヴォーカル・ハーモニーだったんだろう。その一方でギター・サウンドはあまり変わっていなくて、僕とレイモンドのギターのバランスは『A Catholic Education』の時に確立されていた気がする。
つまり経験を積むことで、各メンバーが得意なこと、バンドとして得意なことが浮き彫りになって、そこを重点的に伸ばす努力を重ねるんだよ。僕らはまさにそうしてきた。でもレイモンドが言う通り、余計なことを考えないで、とにかくみんなで集まってプレイして、曲を作り上げていく。すごく単純なことだよ」
TFCの新作はすぐに届けられる?
――そういえば、すでに次のアルバムに着手したとも報じられています。真相のほどは?
レイモンド「まだ作業は始めていないけど、やろうっていう話はしているよ。こんな状況でツアーをいつスタートできるか分からないから、時間を有効に使いたいと思ってね」
ノーマン「ミュージシャンとして僕らは、常にレコーディングしているか、でなければツアーをしていたい。それが僕らの仕事であって、今後はアルバムとアルバムの間に長い空白を空けたくないんだ。こうして活動を続けられる恵まれた立場にあって、レコーディングやライブ・パフォーマンスから大きな喜びを得ている。可能な限りそれを実践するべきだと感じるようになったんだよ」
RELEASE INFORMATION

TEENAGE FANCLUB 『Endless Arcade』 PeMa/Pヴァイン(2021)
リリース日:2021年4月30日(金)
■日本盤CD
品番:PCD-25317
定価:2,750円(税込)
解説・歌詞対訳付

■限定CD+Tシャツ・セット
品番:PCD-25317TS/PCD-25317TM/PCD-25317TL/PCD-25317TXL
定価:6,600円(税込)(全サイズ共通)
Tシャツ・サイズ:S/M/L/XL(ボディ:United Athle)
ボディ・カラー:ブラック
完全受注生産限定
※CDはPCD-25317と同一商品です

■限定帯付きカラーLP
品番:PLP-7127
定価:4,950円(税込)
クリア・グリーン・ヴァイナル仕様(海外直輸入盤)
日本限定帯付き仕様
完全初回生産限定
TRACKLIST
1. Home
2. Endless Arcade
3. Warm Embrace
4. Everything Is Falling Apart
5. The Sun Won’t Shine On Me
6. Come With Me
7. In Our Dreams
8. I’m More Inclined
9. Back In The Day
10. The Future
11. Living With You
12. Silent Song


