ティーンエイジ・ファンクラブ(以下:TFC)のドラマー、フランシス・マクドナルドが、絵画や彫刻など幅広い分野で活躍する芸術家、ハリー・パイとコラボレート。2013年に出会った2人は一緒に曲を書くようになり、2014年にシングル“Sympathy For Jean-Luc Godard”をリリース。そして、ついにファースト・アルバム『Bonjour』を完成させた。パステルズBMXバンディッツ、TFCなどさまざまなバンドを渡り歩いたフランシスの人懐っこいギター・ポップ・サウンド。そして、映画や音楽やアートを題材にしたハリーのウィットに富んだ歌詞が合体した同作は、スポークンワード(朗読)を3曲も織り込んだユニークなアルバムに仕上がっている。最近はインスト・アルバム『Music For String Quartet, Piano & Celeste』(2015年)を発表するなど〈ポップソングを書くことをやめていた〉というフランシスにとって、このアルバムはポップス回帰宣言なのか。TFCのツアーで来日中のフランシスに話を訊いた。

 

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アルバムは〈もう1回聴きたい〉と思う曲を集めておくのが大事

――今回どういった経緯でハリー・パイとコラボレートすることになったんですか?

「彼からメールをもらったんだ。それまで彼とは会ったことがなかったけど、ハリーはファンジンを作っていて、そこに載せるために〈お気に入りのエルヴィス・プレスリーの曲は何ですか?〉と訊いてきた。それが彼との付き合いの始まりさ。その後、〈自分で書いた曲があるんですけど送っていいですか?〉という連絡があってね。聴かせてもらったら結構良い曲だったのでそう伝えたら、今度は歌詞を送ってきて〈この歌詞をもとに一緒に曲を書きませんか〉と言ってきた(笑) 。僕は彼が何をやっている人なのか、よくわからなかったんだけど、おもしろい素材を送ってくるし、礼儀正しい。それで〈ちょっと一緒にやってみようかな〉と思ったんだ」

FRANCIS MACDONALD & HARRY PYE Bonjour Shoeshine/HOSTESS(2017)

――ハリーの歌詞に曲を付ける作業はスムースに行きました?

「最初に送られてきた歌詞を読んで、ギターを抱えたら、すぐに曲のアイデアが浮かんできた。それだけ良い歌詞だったんだと思うね。それで歌詞が届いてから20分後くらいに曲を書いて送ったんだ。ほかの曲も、そんなに苦労しないで書くことができた。アルバムから外す曲を選ぶのが困るくらい良い曲がたくさん出来たよ」

――それだけ創作意欲を刺激する歌詞なんですね。

「それまで僕はポップソングを書くことをずっとやめていたんだ。TFCには3人もソングライターがいるし、わざわざ僕が曲を書くこともないと思ってね。自分で書く曲はテレビ用の曲やクラシックの曲などインストが多かった。そこにハリーから歌詞が届けられたことで、ポップソングを書くことにまた興味を持ったんだ。ハリーの歌詞は力強いというか、テーマがちゃんとあって、言葉もしっかり選ばれているし、言い回しもおもしろい。言いたいことを素直に、かつユーモアを込めて書いているのが良いね。あと、僕が以前書いていたポップソングはラヴソングが多かったんだけど、ハリーの歌詞はアートのことやアーティストのことが題材になっているのがおもしろかった。あとは父親との関係とかね。ラヴソングじゃないってことが新鮮で興味を覚えたんだ」

2015年作『Music For String Quartet, Piano & Celeste』収録曲“20 Sep”
 

――『Bonjour』には、ハリーが語るスポークンワードにあなたが演奏を付けた曲が3曲ありますね(“I Made Him Smile”“Mondrian In Liverpool”“Cork In the Ocean”)。このユニークな構成は最初から考えていたことですか?

「自然発生的にできたアルバムだから、特に最初の段階で考えていたプランはなかった。ハリーがいろいろ素材を送ってきたなかで、彼がスポークンワードを録音したものがあって、それに僕が音楽を付けてみたんだ。2人で何ができるのか、いろいろ模索している頃にね。僕はハリーとのパートナーシップを大切にしたいと思っていたから、それをぜひアルバムに入れたいと思った。彼はミュージシャンじゃないけど、スポークンワードという形で彼がパフォーマンスしてくれていることが嬉しいんだ。それにポップスのアルバムにスポークンワードが収録されているのは珍しいし、だからこそ気に入っている。最近、音楽の聴き方は多様化しているから、アルバムの流れってそんなに意識しないでいいと思うんだ。曲の流れより、〈もう1回聴きたい〉と思う曲を集めておくほうが大事なのかなって。スポークンワードの曲もそう。同じストーリーだけど、何度聴いても楽しめると思う」

――“Sympathy For Jean-Luc Godard”という映画監督のジャン=リュック・ゴダールに捧げた曲がありますが、実際にハリーはゴダールのファンなんですか?

「ハリーがゴダールのファンだというわけじゃなくて、ハリーの友達に熱烈なゴダール・ファンがいて、その人物の視点で書かれた曲なんだ。よくいるだろ? 自分の好きなアーティストをどんどん人に押し付けてくる熱烈なファンが。ボブ・ディランが好きで、何でもかんでもディランを引き合いに出すような(笑)」

――いますね(笑)。ちなみに、あなたはゴダールを好き?

「実はあの歌詞を通じて初めてゴダールを知ったんだよ。それもハリーの歌詞の魅力で、彼は僕に新しい情報を与えてくれるんだ。この曲のミュージック・ビデオでは、ハリーのアイデアで、2人してポストカードにゴダールに関する絵をたくさん描いたんだ。僕は絵描きじゃないからムリだって断ったんだけど、〈なんでもいいから描いて!〉ってハリーが大量のポストカードを送ってきて。仕方ないから描いているうちにだんだん楽しくなってきた(笑)。ビデオで使われている絵の6割くらいはハリーの絵で、残りは僕が描いたものなんだ。ハリーは歌詞だけじゃなくて、そういったおもしろいアイデアも出してくれるんだ」

――そういえば、アルバムの歌詞では、苦手な映画監督のひとりにスパイク・リーを挙げていますが、ビデオではガイ・リッチーに替わっていますね。

※ガイ・リッチ―のくだりは3分29秒頃から
 

「ハリーがそうしたんだけど、そこは僕も同感だね(笑)。ハリーは歳をとってから絵を描きはじめたんだけど、彼の〈年齢なんて関係ない、やりたいからやるだけさ!〉っていう姿勢はすごく共感できるよ。僕がクラシックの音楽を書きはじめたことと通じるものがあるからね。ちょっと待って、君に見てほしいものがあるんだ。まずはこの写真(といってiPhoneの画像を見せる)」

 

Me and Mike Nesmith sharing a right good laugh.

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「僕がマイク・ネスミスモンキーズのメンバー)と一緒に撮った写真なんだけど、僕は嬉しそうなのにマイクは疲れ果てた顔をしている。この写真をハリーに送ったら、ハリーがこんなふうに絵に描いてくれたんだ」

 

A painting - by Beswick & Pye - inspired by a photo of me meeting Mick Nesmith.

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――あはは、すごく良い絵ですね! 温かみがあってユーモラスで。

「ね、いいだろ? 僕はハッピーだけど、マイクはアンハッピー(笑)。いま、この絵をキッチンに飾っているんだ。ピカソゴッホみたいな有名な画家の絵じゃないけど、写真を撮ったときの感覚が甦ってくる素敵な絵だと思う」

――そういえば、あなたは小さな息子さんのために自家製の絵本を作ったそうですね。あなたが絵を描いて。

「ああ、一冊だけね。息子が朝からずっとグズって機嫌が悪い時期があったんだ。息子の名はヒューっていうんだけど、〈ヒュー・マクドナルド、起きてグズる〉みたいなタイトルを付けた。それを息子に読んでやったら機嫌が良くなるかと思ったけど、上手くいかなかったよ(笑)」

――でも、きっと息子さんにとっては宝物ですよ。話を楽曲に戻すと、 “Sympathy For Jean-Luc Godard”の曲作りのときは、ゴダールのことを何か意識しました?

「うーん。作曲はナチュラルで自発的な作業だから説明するのは難しいね。ポール・マッカートニーのドキュメンタリー映像を観たとき、彼は〈ピアノに座って何か降りて来るのを待つ。何も降りて来ないこともある〉と言っていたけど、僕も同じさ。“Sympathy For Jean-Luc Godard”の歌詞を読んだとき、あのメロディーが頭の中から溢れるように出てきたんだ。あとは流れに身を任せるような感じだった。プロダクションやアレンジは〈ここで手拍子を入れよう〉とか〈ハーモニーはこうしよう〉とか頭で考える作業なんだけど、最初のメロディー・ラインが出てくるかどうかは、頭でいくら考えても仕方ない。力強いメロディーが出て来るのをただ待つしかないんだ。ほんと直感的なものなんだよ、作曲って」

――イメージを膨らませるためにゴダールの映画を観たりはしなかったんですか?

「観なかった。そのうち観るかもね(笑)。今回おもしろかったのは、ハリーは僕に歌詞を送って〈パンクな曲になるんじゃないか〉と思っていたら、僕からジェントルな曲が送られて来たりして驚いたらしい。彼が抱いていたイメージと僕が書いた曲の雰囲気が違うときは、2人で話し合ってハリーの思い込みを変えてもらったりしたんだ」

先日開催された、ティーンエイジ・ファンクラブの来日公演より(以下、同)
 
 

 

作り手の思惑とは関係なく、曲は曲として存在していい

――ゴダール以外にもタイトルに人物が登場する曲がありますね。“Mike Love Fan Club”についてですが、ハリーはマイク・ラヴビーチ・ボーイズのメンバー)のファンなのですか?

「ときどき、ハリーが本気で言っているのか、別のキャラクターになりきっているのかわからないことがあるんだ。マイク・ラヴに関しては良くない話もいろいろ聞いている。イジメっ子だとかね。だからハリーがマイクのことを好きなのか、あるいは皮肉なのか、ちょっとわからない。でも、曲は曲として、作り手の思惑とは関係なく存在してもいいんじゃないかと思うんだ」

――確かに。歌詞はともかく、曲からはビーチ・ボーイズに対するオマージュを感じました。

「ビーチ・ボーイスは大好きだよ! 音楽も好きだし、バンドとしても好き。でも、バンドっていろんな人がいるからこそおもしろいわけで……(なんだか言いにくそう)。ビーチ・ボーイズのメンバーそれぞれがどういう人なのかは知らないけど、知らなくても彼らの音楽が好きだったらそれで良いと思うんだ」

――僕もビーチ・ボーイズやブライアン・ウィルソンが大好きなので、あなたのマイクに対する複雑な感情はよくわかります。

「ほんと、何と言うか……興味深い問題だよ(苦笑)」

――今回、久し振りにポップソングを書いてみていかがでした?

「このアルバムは自信作だよ。みんなが気に入ってくれれば良いなと思うし、励ましの言葉をもらえれば、もっと曲を書きたくなると思う。でも、誰も気に入ってくれなくて、励ましの言葉もなければこれで終わりかもしれない(笑)」

――ファンはみんな〈フランシスが帰って来た!〉と思っていますよ。ぜひ、ソロ・ユニットのナイス・マンを再始動させてください。

「ドモアリガトウ! アイム・バック(笑)!!」

ナイス・マンの2002年作『Sauchiehall & Hope (A Pop Opera) 』収録曲“Fallin In Luv”
 

――この調子でTFCでも曲を書いてほしいです。

「TFCには3人もソングライターがいて、僕が頼まれているのはドラムを叩くことだからね(笑)。それにソングライターが3人もいるから、アルバムを作るのに凄く時間がかかるんだ。そこにさらに1人増えたら、台所にコックがたくさんいる状態で、やたら混み合っているだけで、結局、何も出来上がらないと思う。だから、おとなしくドラムを叩いているよ。でも、彼らの最新作『Here』(2016年)は素晴らしい作品だし、参加できてとてもハッピーだね!」