©2020 PM AU FILM, LLC AND RIVER ROAD ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED

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 この映画について〈いま、世界で起きていることを表現したかった〉というバーンは、現在アメリカ(だけではないが)で起きている多くの社会問題に目を向けている。そして、観客にもまた、その問題を直視し、それについて考えてほしいとうながしていく。たとえば、バーン自身が英国のスコットランドからアメリカにやって来た移民であることを告げると、続けてアメリカには多くの移民がいて、自身の表現活動も移民がいなければ何もできない、というようなことを、力まずさらりと観客に語りかける。全編を通じて、バーンは曲間で観客に、いま世界で起きている問題について語りかける。その語り口はさらりとしていて、アジテーションのようにではなく、しかし、とても重い社会的課題についてふれていく。この作品が、インクルージョンをあらゆる面で実践しているということは、こうした語り口やメンバー構成からもあきらかだ。そのひとつが、2020年の大統領選挙に向けた有権者登録についてのコメントである(大事なことだから映画の最後にも画面に文字として現れる)。ローリー・アンダーソンは、「ストップ・メイキング・ センス」と同時期のコンサート映画である、85年の映画「ホーム・オブ・ザ・ブレイヴ」の中で、アメリカには、ナンバー・ワンになるという奇妙な強迫観念が存在している、とある意味では予言のように言った。バーンとアンダーソンの語り口には、どことなく共通する感覚がある。また、一転して、ジャネール・モネイのカヴァーである“Hell You Talmbout”では、エモーショナルなビートにのせて、人種差別の犠牲となった男性と女性の名前を呼ぼう、と全員で力強く歌う。原曲が発表されてから現在まで、さらに名前を呼ばなければならない犠牲者は増えている。

 ところで、英語のタイトルのユートピアの文字がさかさまにデザインされているのはなぜなのだろう。英国の小説家サミュエル・バトラーは〈どこでもない場所(Nowhere)〉を逆から読んで「Erehwon」という国を舞台にしたユートピア小説を書いた。最後の曲“ロード・トゥ・ノーホエア”は、まさに〈どこにもない場所〉への旅立ちが同時に、〈いま、世界(ここ)で起きていること〉に直面することである、ということを表明するものだろう。バーンはアメリカという(かつての)ユートピアを、たどり着けない〈どこでもない場所〉から、いまここ(Now Here)の問題として私たちに語りかける。それは、さかさまのユートピアに響く爽快で力強い抵抗の音楽だ。

 

公開日決定
新型コロナウイルスの感染拡大を受けた緊急事態宣言の発令に伴い示された方針等を鑑み、『アメリカン・ユートピア』は5月7日(金)に予定していた公開を延期しておりましたが、検討を重ねた結果、5月28日(金)より全国公開することを決定いたしました。 ⼀部劇場では公開日が異なる場合がございますので、予め各劇場、または公式HP劇場情報ページをご確認ください。 *intoxicate編集部

 


FILM INFORMATION
映画「アメリカン・ユートピア」
監督:スパイク・リー
振付:アニー・B・パーソン
出演ミュージシャン:デイヴィッド・バーン/ジャクリーン・アセヴェド/グスタヴォ・ディ・ダルヴァ/ダニエル・フリードマン/クリス・ジャルモ/ティム・ケイパー/テンダイ・クンバ/カール・マンスフィールド/マウロ・レフォスコ/ステファン・サンフアン/アンジー・スワン/ボビー・ウーテン・3世
原題:DAVID BYRNE’S AMERICAN UTOPIA
字幕監修:ピーター・バラカン
5月28日(金)より全国公開