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エレクトリック・マイルスとの共通点

カンのカタログを順番に聴いていくと、『Monster Movie』(69年)、『Soundtracks』(70年)の最初期に関してはフレーズから、リズムから、情感から、ブルース・ロックの延長上と言った感じでジャズとはほぼ無縁。ただ、『Tago Mago』、『Ege Bamyasi』(72年)からはサウンドの傾向が大きく変わり、エレクトリックなサウンドになってからのマイルス・デイヴィスとの共通点が多く現れてくる。エレクトリックなギターやシンセサイザーの重ね方には『In A Silent Way』(69年)を感じるし、パーカッションや電子音でアクセントをつけて立体感を作る手法には『On The Corner』(72年)や『Agharta』(75年)、『Pangea』(76年)を感じる。

そもそも『Ege Bamyasi』には“Pinch”のようにかなり『On The Corner』的なファンキーな楽曲もあるし、マイルスのバンドでのジョン・マクラフリンの歪んでいない音色のロング・トーンをゆったりと鳴らすギターのサウンドだったり、ムトゥーメやアイアート・モレイラが、リズム・パターンを叩くというよりは打楽器だけでなくホイッスルやパーカッションを使って様々な音色と響きを飛ばすように鳴らすことで生み出していた効果だったりは、そのまま『Tago Mago』と『Ege Bamyasi』にある。とはいえ、マイルス的ではあっても、ジャズ的かというと違う気はするのだが。

72年作『Ege Bamyasi』収録曲“Pinch”

マイルス・デイヴィスの72年作『On The Corner』収録曲“On The Corner / New York Girl / Thinkin’ One Thing And Doin’ Another / Vote For Miles”

ちなみにそのマイルスにも通じる奥行きや空間の広がりを生み出すサウンドは次の『Future Days』(73年)でマイルスと比較にならないほど過激に推し進められるかたちで完成に向かう。

 

親しみやすさと実験性が同居した驚異的な『Future Days』

『Future Days』に関して重要なのは、個々の楽器がクリアなトーンで鳴り、揺れや歪みで変化を加えていなくてもその音の配置の妙によりサイケデリックな感覚を感じられるようになったことだろう。その中でヤキ・リーベツァイトのドラミングは音量もアタックも控えめで繊細さが増し、ロック的なビートを避けるようになり、例外的にジャズにも接近している。ここにはそういった音色や音像もあり、シカゴのトータスやアルゼンチンのモノ・フォンタナ、フアナ・モリーナなどの90年代末から2000年ごろのポスト・ロック/音響派と呼ばれるような作品群そのもののような雰囲気がある。ロックでもなければ、プログレでもジャズでもなく、エクスペリメンタルでさえない。穏やかさと過激さが、親しみやすさと実験性が同居している。改めて聴いてみると『Future Days』は今でも全く古びることがなく、驚異的だ。

73年作『Future Days』収録曲“Bel Air”

『Future Days』でその路線を完成させてしまったのか、その後は『Soon Over Babaluma』(74年)、『Landed』(75年)でエフェクト満載のエレクトロニックなシンセを多用し、また別の路線を推し進め、その成果は『Flow Motion』(76年)に結実するといった感じだろうか。そして、再びジャズの気配はほぼ消えている。そういった感じで、カンのカタログを見てみると意外にもジャズはほとんど聴こえてこないし、フリー・ジャズはほぼゼロに近いと僕は思っている。