フライング・ロータス

かつて16世紀の日本に実在したアフリカ出身の侍、弥助を題材にとったNetflixオリジナル・アニメ「YASUKE -ヤスケ-」。全6エピソードからなる本作は、史実に着想を得た時代劇……という範疇を超えてくるような、ロボットやビーム、異能力が乱れ飛ぶSF活劇だ。そのサウンドトラックを手掛けたのが、大のアニメ好きとしても知られるフライング・ロータス。主題歌や劇中音楽だけではなく、製作総指揮や脚本にも名前を連ね、作品に深く関わっているという。

そんな「YASUKE -ヤスケ-」のサウンドトラックがワープ・レコーズからリリースされた。ジャン=ミッシェル・ジャールやヴァンゲリス、冨田勲といったシンセサイザー音楽の先達にインスピレーションを得て、アナログ・シンセ(YAMAHA CS-60)に向き合って紡がれたサウンドは、フライローの作家性をにじませながらも、作品世界に寄り添った真摯さとストイックさを感じさせる。

一作ごとに表現世界を押し広げてきたユニークなアーティストであるのみならず、劇伴作家としての仕事人的な顔を見せてくれた本作。それを出発点に、今だからこそ見えるフライローの姿に迫ってみたいと思う。話を伺ったのは、ゲーム音楽の作曲やディレクションを手掛け、今夏放映のTVアニメ「迷宮ブラックカンパニー」の音楽も担当しているプロデューサーのTAKU INOUE。奇しくもフライローと同い年だというINOUEの言葉からは、リスペクトと共感があふれでていた。

FLYING LOTUS 『YASUKE』 Warp/BEAT(2021)

 

フライング・ロータス、すげぇ〈仕事〉してる!

――今回はフライング・ロータスの新作であり、同名アニメのサントラである『YASUKE』を出発点にいろいろとお話を伺いたいと思います。アニメはご覧になりましたか?

「観ました。面白かった。全話観ました。一気に観ちゃいましたね。最初は内容を全然知らなかったから、1話の後半でいきなりビームとか出てきて〈うぉお!〉みたいな(笑)」

「YASUKE -ヤスケ-」予告編

――サウンドトラックのほうは聴いてみていかがでしたか?

「意外にもめちゃくちゃ劇伴らしい仕事をしてるなと。もちろんフライローらしさはめちゃくちゃあるんですけど、ちゃんと物語が最初にあって、それを引き立てていこうみたいな意志がしっかり感じられる仕上がりになっていて、びっくりしました」

――一番〈意外〉だったポイントってどこでしょう。

「まずは、オープニング曲の“Black Gold”がめちゃくちゃポップで。そこからして驚いた。和モノの音をしっかり物語にあったかたちで使っていたりとか、いちいち〈すげぇ『仕事』してる!〉っていう感じで。でも無理してる感じはぜんぜんない。ここまで大人な立ち位置になれる人なんだ、と思いました」

『YASUKE』収録曲“Black Gold”

――ほかに気になった曲ってありますか?

「トラップっぽいビートに和太鼓のサンプリングが乗っている曲もありますよね(“Kurosaka Strikes!”など)。そもそもそういうビートを使うイメージがなかったんで、びっくりしましたね。それもかっこよくて。キックの低音感とか、全体が飽和して歪んでいる感じはフライング・ロータスのお家芸。そういう感じは残っているのに、ものすごくポップで聴きやすい。

日本的な要素もベタじゃないのがさすがで。ふつうの劇伴作家がつくると三味線とか尺八とか法螺貝が出てきそうなところで、そういったものを使わずに、自分のフィールドへサウンドを持っていったうえで仕事している」

『YASUKE』収録曲“Kurosaka Strikes!”