クレイロやハイムのヴィジョンを具現化するための手助け
──クレイロのデビュー・アルバム『Immunity』のプロデュースについても訊かせてください。彼女との制作のなかで考えていたことがあれば、詳しく教えてもらえますか?
「僕が目指したのは、彼女のヴィジョンを具現化するということ。彼女が僕のところに曲を持ってきたときはいつも〈どんな曲にしたい?〉って彼女に訊いていたんだ。例えば“Bags”という曲は、〈きみが思う、この曲の最高のヴァージョンってどんなの?〉ってまず尋ねてみた(笑)。とにかく彼女にハッピーになってもらいたかったからね。そのうえで、僕が考えていたレディオヘッドやストロークスのようなサウンドにするというアイデアを提案したんだ。そうしたら彼女も気に入ってくれて、その方向で進めることになったんだよ」
──なるほど、アーティストのヴィジョンに対して最適なアイデアを提供する、というのがあなたのプロデュースのやり方なのですね。先ほども挙がった、ハイムの『Women In Music Pt. III』のプロデュースについては?
「収録曲の半分はアイデアの段階から一緒にスタジオで作り上げていったんだ。残りの半分は、彼女たちがみずから作ってきたもの。だから、半分はヴィジョンを一緒に描いて、半分は彼女たちのヴィジョンを実現できるように力を貸したという感じかな」
──さらに振り返ってみると、2016年にはソランジュ『A Seat At The Table』やフランク・オーシャン『Blonde』という大きな作品に参加されていましたよね。そうしたソロ・ワーク以外での仕事において、特に転機になったことがあれば教えてください。
「やっぱりヴァンパイア・ウィークエンドを脱退したのは大きな転機だったかな。僕は彼らの最初の3作をプロデュースしたけど、そのときはバンドのメンバーでもあったから、誰も僕のことをきちんとしたアイデンティティーを持ったプロデューサーとしては見てくれていなかったんだ。
それがバンドを抜けてからは、いろんな人たちと仕事をするようになった。特にソランジュをはじめとした女性アーティストとね。そこからみんなが僕のことを(ヴァンパイア・ウィークエンドのメンバーとしてではなく)プロデューサーとして認めはじめてくれたから、僕にとっては大切なターニング・ポイントだったよ」
ヴァンパイア・ウィークエンドとは疎遠になったり近づいたりする友達みたいな関係かな
──ヴァンパイア・ウィークエンド脱退後も、彼らの作品に関わっていると思うのですが、脱退後のアルバム『Father Of The Bride』(2019年)の制作にはどう携わったのでしょう? 今は、彼らとはどういう関係なのでしょうか?
「そのアルバムで実際に制作に携わったのは“We Belong Together”って曲のプロデュースだけだね。“Harmony Hall”のプロダクションにも少しだけ参加したけど。今の彼らとの関係はおもしろいよ……。今までの人生のなかで、全く連絡もとったり会ったりしてなかったのに、突然また一緒に過ごしはじめる、みたいな関係の友達がたくさんいたんだけど、彼らとの関係性もそんな感じ。特にこのパンデミックのなかでは、全然近くに住んでなくて連絡もとってなかった友達とまた連絡を取り合うみたいなことってあるよね」
──ええ、まさに。最後にひとつ、訊かせてください。バイデン大統領の就任式で詩人のアマンダ・ゴーマンが読み上げた詩に、あなたは音楽を付けて発表していました。彼女の詩のどんなところに感銘を受けたのでしょうか? また、3パターンの音楽をつけたのだと聞きましたが、公開されているパターン以外の音楽はどのようなものだったのでしょう?
「彼女の話すリズム、言葉の選び方とかがすごく好きだったんだんだよ。公開されているもの以外の音楽は……そうだな、公開されているものと似ているけど、それほど良くなかったってだけさ(笑)」