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Unknown T “Goodums”

田中「続けて紹介するアンノウン・Tは、英ロンドンのホマートンを拠点に活動するドリルMC。2018年のシングル“Homerton B”がヒットしたライジング・スターです。UKドリルといえば、〈暴力的なミュージック・ビデオやリリックが犯罪を増長させているのでは……〉と警察が主張したこともあり、以前から議論の的になっていました。そんななか、アンノウン・Tは殺傷事件に関与した疑いで2018年に起訴されていて……。彼には無罪判決が出されたのですが、共に起訴された彼の友人2人は有罪になっています」

天野「アンノウン・Tは、〈ドリル・シーンは不当に攻撃されている。俺たちは世間のステレオタイプに当てはめられてジャッジされているんだ〉と語っています。この“Goodums”は、 7月30日(金)にリリースされる2作目のミックステープ『Adolescence』からのリード・シングル。ほぼ全編にわたってピアノのメランコリックなフレーズとビートのみが鳴り響く簡素なトラックですが、だからこそマシンガンのように矢継ぎ早に言葉を放つ彼のフロウを堪能できる曲ですね」

 

Magdalena Bay “Chaeri”

天野「マイカ・テネンバウム(Mica Tenenbaum)とマシュー・ルーイン(Matthew Lewin)によるエレクトロ・ポップ・デュオ、マグダレーナ・ベイ。LA出身の2人組が、新曲“Chaeri”をリリースしました。2020年のEP『A Little Rhythm And A Wicked Feeling』でインディー・リスナーから注目された彼女たち。昨年予定していたケロ・ケロ・ボニート、ユミ・ゾウマとのツアーは、全公演のチケットが完売していたんだとか。残念ながら、コロナ禍で中止になってしまいましたが……」

田中「本当に新型コロナが音楽シーンに与えた影響といったら……という感じですよね。特に、これから積極的に発信してブレイクするであろう新進アーティストは、かなり割を食ったと思います。とはいえ、この曲は強力なカムバック・ソングではないでしょうか。推進力にあふれたダンス・ビートが聴き手の高揚感を喚起しますし、中盤のシンセ・サウンドが〈星くずみたいに降ってくる〉ブレイクも圧巻。パンデミック下での孤立を踏まえた〈私たちが作らなければいけなかった壁、そして本物の繋がりを築くために壊すべき壁について〉という楽曲のモティーフも含めて、コロナ禍を乗り越えようとする力が生んだバンガーだと思います!」

 

WILLOW “Lipstick”

天野「今週最後の曲は、ウィローことウィロー・スミス(Willow Smith)の“Lipstick”。俳優ウィル・スミスの娘ですね。まだ20歳という若さですが、音楽家としてのキャリアはわりと長くて、2015年にファースト・アルバム『Ardipithecus』をリリースしています。現在までにアルバムを3作も発表。これまでの彼女の音楽はオルナタティヴR&Bと形容できるサウンドで、ドリーミーで温かい質感がよかったんですよね」

田中「そうでしたね。なので、この“Lipstick”にはたまげました。ブリンク182のトラヴィス・バーカー(Travis Barker)をフィーチャーした4月のシングル“t r a n s p a r e n t s o u l”しかり、ポップ・パンク/ラウド・ロック的なサウンドに舵を切っています。“Lipstick”については、アヴリル・ラヴィーンやマイ・ケミカル・ロマンス、パラモアからの影響を明言していますね。エモーショナルだけどホーリーなムードが漂う歌声とヘヴィーなロック・サウンドは、意外にもマッチしています。それにしても、先月ミート・ミー・アット・ジ・オルターを紹介した際も言いましたが、ポップ・パンク/エモのリヴァイヴァル、マジできていますね」