バンドの名を爆発的に広めたあの曲を引き継ぐ新シングル! 多幸感溢れる仕掛けの端々からこぼれるのは、聴き手の人生に寄り添う絶対的な〈愛〉で……

 バンドの名を爆発的に広めた“青空のラプソディ”に続き、fhánaが「小林さんちのメイドラゴンS」のオープニング主題歌となるニュー・シングル“愛のシュプリーム!”を完成させた。賑々しいブラス/ストリングスを交えてグルーヴィーに場面転換するディスコ・ファンク上で、towana(ヴォーカル)とkevin mitsunaga(ラップ/サンプラー/グロッケン)のラップが軽快に躍るアップ・チューンだが、〈愛〉をテーマとするリリックはコロナ以降の困難を抱えた現在だからこその光をもたらすもの。約1年半ぶりのパッケージ・リリースとなる本作について、メンバー4人に話を訊いた。

fhána 『愛のシュプリーム!』 ランティス(2021)

 

愛こそはすべて

――今回はふたたび〈メイドラゴン〉の主題歌ですが、制作の取り掛かりはどんなところでした?

佐藤純一(ピアノ/コーラス/プログラミング)「まずラップにしよう、ってところが大きな決断でしたね。〈メイドラゴン〉の曲として、2019年の春頃にはワンコーラスのデモが出来ていて。それでOKが出たのでフルの制作を進めてたら、いろいろあって、一時はアニメの制作もどうなるかわからない状況になったんですが……。ちなみに、最初はこの曲とは別の、普通の歌モノを提出したんです。でもそれじゃないな、と。作品側からも〈もっと変わった曲で〉という話があったので、〈じゃあ、ラップがいいんじゃないか〉ということになりました。ちょうどその時期、kevin君のラッパー化計画みたいな話もよくしていて」

――“僕を見つけて”の取材時にそんなお話をされてましたね。ライヴでのラップの披露を経て書かれた“Unplugged”では、towanaさんと掛け合いをされていて。

佐藤「そうですね。その流れで、今回はついにアニメ・タイアップ曲もラップでいこうと(笑)。それも、スチャダラパーのANIとBOSEみたいな感じでメインを張るっていうね。……ANIはいないか。BOSE & BOSE & オザケン(小沢健二)みたいな感じかな(笑)」

――(笑)そのうえで、場面転換も音数も多いド派手な楽曲ですが、歌のテーマは明確に伝わってきます。

佐藤「やっぱり〈メイドラゴン〉の曲で、さらに“青空のラプソディ”に続く曲なので、林(英樹)君にはそのテーマ性を引き継ぎつつ書いてもらいました。“青空のラプソディ”ってすごく明るくて楽しい、はっちゃけた曲ですけど、同時に切ない儚さがあるというか、特に2番のサビではちょっと終わりを匂わせながら、だけど今はこの繋がりを大切にしたい、みたいなメッセージを伝える曲で。あとは当時、監督から物凄く長い、A4の紙がびっしり埋まるぐらいの〈メイドラゴンの第2期はこういうテーマなんです〉みたいな資料をもらっていて、それも参考にしました。すごい多幸感があるがゆえに泣ける曲になったと思います」

――それ、わかります。聴いてると泣きそうになります、この曲。

佐藤「それから、当時は林君とよく〈愛こそはすべて(“All You Need Is Love”)〉の話をしてました。ビートルズの曲は子どもの頃から知ってますけど、〈愛こそはすべて〉の歌詞について深く考えたことはなくて、〈愛〉ってよくある歌詞のテーマだな、ぐらいにしか思ってなかったんですけど、2019年のツアーを経て“僕を見つけて”を作ったあとぐらいに、突然〈やっぱ、愛だな〉と。〈愛が大事なんだな〉ってグサッときたんですよ。そんななか、ビートルズをモチーフにした『イエスタデイ』っていう映画を観たんです。現代が舞台なんですけど、主人公が事故に遭って目が覚めたらビートルズが存在しない世界になってて、でも自分だけビートルズのことを覚えていて。主人公は売れないシンガーなんですけど、ビートルズの大ファンで、ビートルズの曲を歌ったらどんどん評価されてって……っていう映画で、そのなかで〈愛こそはすべて〉が流れるんですね。ドームみたいな会場で、何万人の前で歌うシーンにグッときて。そんな話からこの歌詞になったってところはありますね。〈生きてるすべてのことがメッセージ/照らしていてよ 最後まで〉って歌詞がすごいなと思うんですよね。最後まで、消えてなくなるまで照らしていてくれと。そこに生と死を感じて、〈誰もがいつかは死ぬけど最後まで照らしてて〉〈この先どうなるかわかんないけど最後まで照らしていてよ〉みたいなところで泣きそうになります」

――そして、サウンドやMVに関しては、50~60年代のミュージカルやディスコ・ファンクあたりが背景にあるのかなと。

佐藤「そうですね。ブラスとストリングスがたくさん入ってるソウル・テイストの曲……『LIFE』とか、“強い気持ち・強い愛”の頃のオザケンが相当好きなんで。リヴァーブがかかっていないドライな感じで、すごく音が太くて、グルーヴがあって、弦とブラスがいっぱいあって、ハープとかも入ってて、ゴージャスで甘美で……みたいな、そういうものを作りたいというのはありますね。今回については、2サビ以降の〈さあ歌おう!〉からどう仕掛けるか、かなり悩みました。というのも、“青空のラプソディ”もライヴでは中間部が盛り上がるので。〈ほんの小さな傷を~♪〉のパートからディスコ・ゾーンがあって、そこからギター・ソロ……かつ、ギターががんばってるのに、kevinがずっと横で〈Hey! Hey!〉って言ってるっていうね(笑)」

yuxuki waga(ギター)「誰もギターを観てない(笑)」

佐藤「あの一連の流れはお客さんたちとの一体感もあって、何度やっても多幸感があるんです。で、今回もそういうドカンとした何かが必要だなと」

――それぞれの見せ場と、全員で息を合わせてキメていくところと、メリハリがすごくありますよね。明快な曲なんですけど、全体的に難しいことやられてるなあって。

yuxuki「fhánaの曲で、“ワンダーステラ”は〈ジェットコースターみたいな曲〉ってよく言われますけど、これも別な意味でジェットコースターだなって」

――ギターに関しては、基本的にデモをそのままですか?

yuxuki「そうですね。リフも決め打ちだったんで、基本的には再現ですね。曲が速いし、しかもかなりタイトな演奏が必要だったから、普通に弾くだけでも大変でした。ギターの人が考えるフレーズじゃないっていうのもあって、Dメロのリフとかはホントがんばって弾いてて(笑)」

――ラップのお二人はいかがです?

kevin「メロディーの仮の打ち込みはあるんですけど、ラップの発音のニュアンスはデモではわからないんです。だから、もっと音程の上がり下がりが欲しいとか、こういうリズム感でいきたいとか、そういうのを現場でめちゃくちゃ緻密にやりながら、ゆっくりゆっくりレコーディングしていったっていう感じでしたね。語尾の伸ばし方ひとつとっても、サクッと言い終わるのか、伸ばして言うのか試行錯誤したり。すごく勉強になりました」

――towanaさんは、レコーディングで印象に残ってることはありますか?

towana「覚えてるんですけど、レコーディングは去年の4月1日にやって、10時間ぐらいかかったんですよね。でも、そのぐらいの時期に緊急事態宣言が出て……いまはそれが普通になっちゃったけど、当時はそんななかでレコーディングなんかしてていいのかな?って不安な気持ちがあって。本当に、この曲が世に出る日がくるのかな、って……。この曲を聴くと、明るい曲なのに泣きそうになるってさっきおっしゃってましたけど、私もそうなんですね。それって、個人的につらかったこと――1年前の春頃って、自分の歌う場所はもうなくなっちゃうのかな、みたいに絶望的な気持ちで生きてたので、そういう苦しさが個人的にあったから泣きそうになるのかなって思ってたんですけど、でも、それはこの曲自体の強度があるからなんだなって。いま話を聞いてて思いました」

――この曲は、コロナ以降の困難をどう乗り越えていくかということに対する、fhánaとしての回答のような曲でもあるのかなって思いました。

佐藤「ワンコーラスは2019年前半に出来てたんですけど、2番以降のフルサイズを作ったのは2020年に入ってからなんで、Dメロの〈さあ歌おう!讃美歌を どんな試練でもあきらめない〉〈涙は代償なんかじゃない〉とか、そのあたりの歌詞のやり取りをしてるときは、もうコロナ禍にも突入してましたね」

――さまざまな意味合いが込められた曲になりましたね。

towana「そうですね……。あとこの曲、タイトルは私が付けたんですよ。もともとは林さんが“a Love Supreme!”という英語のタイトルを提案してくださっていたんですけど、日本語で“愛のシュプリーム!”のほうがキャッチーで、〈!〉が付いてることで、タイトルだけ見ても元気で明るい曲なんだなってわかるじゃないですか。“青空のラプソディ”の次の曲っていうのもあるし、聴くと切ないんですけど大団円みたいな、そういう明るさのある感じを出したいなと思ってこれに決めました」