
バンドの名を爆発的に広めたあの曲を引き継ぐ新シングル! 多幸感溢れる仕掛けの端々からこぼれるのは、聴き手の人生に寄り添う絶対的な〈愛〉で……
バンドの名を爆発的に広めた“青空のラプソディ”に続き、fhánaが「小林さんちのメイドラゴンS」のオープニング主題歌となるニュー・シングル“愛のシュプリーム!”を完成させた。賑々しいブラス/ストリングスを交えてグルーヴィーに場面転換するディスコ・ファンク上で、towana(ヴォーカル)とkevin mitsunaga(ラップ/サンプラー/グロッケン)のラップが軽快に躍るアップ・チューンだが、〈愛〉をテーマとするリリックはコロナ以降の困難を抱えた現在だからこその光をもたらすもの。約1年半ぶりのパッケージ・リリースとなる本作について、メンバー4人に話を訊いた。

愛こそはすべて
――今回はふたたび〈メイドラゴン〉の主題歌ですが、制作の取り掛かりはどんなところでした?
佐藤純一(ピアノ/コーラス/プログラミング)「まずラップにしよう、ってところが大きな決断でしたね。〈メイドラゴン〉の曲として、2019年の春頃にはワンコーラスのデモが出来ていて。それでOKが出たのでフルの制作を進めてたら、いろいろあって、一時はアニメの制作もどうなるかわからない状況になったんですが……。ちなみに、最初はこの曲とは別の、普通の歌モノを提出したんです。でもそれじゃないな、と。作品側からも〈もっと変わった曲で〉という話があったので、〈じゃあ、ラップがいいんじゃないか〉ということになりました。ちょうどその時期、kevin君のラッパー化計画みたいな話もよくしていて」
――“僕を見つけて”の取材時にそんなお話をされてましたね。ライヴでのラップの披露を経て書かれた“Unplugged”では、towanaさんと掛け合いをされていて。
佐藤「そうですね。その流れで、今回はついにアニメ・タイアップ曲もラップでいこうと(笑)。それも、スチャダラパーのANIとBOSEみたいな感じでメインを張るっていうね。……ANIはいないか。BOSE & BOSE & オザケン(小沢健二)みたいな感じかな(笑)」
――(笑)そのうえで、場面転換も音数も多いド派手な楽曲ですが、歌のテーマは明確に伝わってきます。
佐藤「やっぱり〈メイドラゴン〉の曲で、さらに“青空のラプソディ”に続く曲なので、林(英樹)君にはそのテーマ性を引き継ぎつつ書いてもらいました。“青空のラプソディ”ってすごく明るくて楽しい、はっちゃけた曲ですけど、同時に切ない儚さがあるというか、特に2番のサビではちょっと終わりを匂わせながら、だけど今はこの繋がりを大切にしたい、みたいなメッセージを伝える曲で。あとは当時、監督から物凄く長い、A4の紙がびっしり埋まるぐらいの〈メイドラゴンの第2期はこういうテーマなんです〉みたいな資料をもらっていて、それも参考にしました。すごい多幸感があるがゆえに泣ける曲になったと思います」
――それ、わかります。聴いてると泣きそうになります、この曲。
佐藤「それから、当時は林君とよく〈愛こそはすべて(“All You Need Is Love”)〉の話をしてました。ビートルズの曲は子どもの頃から知ってますけど、〈愛こそはすべて〉の歌詞について深く考えたことはなくて、〈愛〉ってよくある歌詞のテーマだな、ぐらいにしか思ってなかったんですけど、2019年のツアーを経て“僕を見つけて”を作ったあとぐらいに、突然〈やっぱ、愛だな〉と。〈愛が大事なんだな〉ってグサッときたんですよ。そんななか、ビートルズをモチーフにした『イエスタデイ』っていう映画を観たんです。現代が舞台なんですけど、主人公が事故に遭って目が覚めたらビートルズが存在しない世界になってて、でも自分だけビートルズのことを覚えていて。主人公は売れないシンガーなんですけど、ビートルズの大ファンで、ビートルズの曲を歌ったらどんどん評価されてって……っていう映画で、そのなかで〈愛こそはすべて〉が流れるんですね。ドームみたいな会場で、何万人の前で歌うシーンにグッときて。そんな話からこの歌詞になったってところはありますね。〈生きてるすべてのことがメッセージ/照らしていてよ 最後まで〉って歌詞がすごいなと思うんですよね。最後まで、消えてなくなるまで照らしていてくれと。そこに生と死を感じて、〈誰もがいつかは死ぬけど最後まで照らしてて〉〈この先どうなるかわかんないけど最後まで照らしていてよ〉みたいなところで泣きそうになります」
――そして、サウンドやMVに関しては、50~60年代のミュージカルやディスコ・ファンクあたりが背景にあるのかなと。
佐藤「そうですね。ブラスとストリングスがたくさん入ってるソウル・テイストの曲……『LIFE』とか、“強い気持ち・強い愛”の頃のオザケンが相当好きなんで。リヴァーブがかかっていないドライな感じで、すごく音が太くて、グルーヴがあって、弦とブラスがいっぱいあって、ハープとかも入ってて、ゴージャスで甘美で……みたいな、そういうものを作りたいというのはありますね。今回については、2サビ以降の〈さあ歌おう!〉からどう仕掛けるか、かなり悩みました。というのも、“青空のラプソディ”もライヴでは中間部が盛り上がるので。〈ほんの小さな傷を~♪〉のパートからディスコ・ゾーンがあって、そこからギター・ソロ……かつ、ギターががんばってるのに、kevinがずっと横で〈Hey! Hey!〉って言ってるっていうね(笑)」
yuxuki waga(ギター)「誰もギターを観てない(笑)」
佐藤「あの一連の流れはお客さんたちとの一体感もあって、何度やっても多幸感があるんです。で、今回もそういうドカンとした何かが必要だなと」
――それぞれの見せ場と、全員で息を合わせてキメていくところと、メリハリがすごくありますよね。明快な曲なんですけど、全体的に難しいことやられてるなあって。
yuxuki「fhánaの曲で、“ワンダーステラ”は〈ジェットコースターみたいな曲〉ってよく言われますけど、これも別な意味でジェットコースターだなって」
――ギターに関しては、基本的にデモをそのままですか?
yuxuki「そうですね。リフも決め打ちだったんで、基本的には再現ですね。曲が速いし、しかもかなりタイトな演奏が必要だったから、普通に弾くだけでも大変でした。ギターの人が考えるフレーズじゃないっていうのもあって、Dメロのリフとかはホントがんばって弾いてて(笑)」
――ラップのお二人はいかがです?
kevin「メロディーの仮の打ち込みはあるんですけど、ラップの発音のニュアンスはデモではわからないんです。だから、もっと音程の上がり下がりが欲しいとか、こういうリズム感でいきたいとか、そういうのを現場でめちゃくちゃ緻密にやりながら、ゆっくりゆっくりレコーディングしていったっていう感じでしたね。語尾の伸ばし方ひとつとっても、サクッと言い終わるのか、伸ばして言うのか試行錯誤したり。すごく勉強になりました」
――towanaさんは、レコーディングで印象に残ってることはありますか?
towana「覚えてるんですけど、レコーディングは去年の4月1日にやって、10時間ぐらいかかったんですよね。でも、そのぐらいの時期に緊急事態宣言が出て……いまはそれが普通になっちゃったけど、当時はそんななかでレコーディングなんかしてていいのかな?って不安な気持ちがあって。本当に、この曲が世に出る日がくるのかな、って……。この曲を聴くと、明るい曲なのに泣きそうになるってさっきおっしゃってましたけど、私もそうなんですね。それって、個人的につらかったこと――1年前の春頃って、自分の歌う場所はもうなくなっちゃうのかな、みたいに絶望的な気持ちで生きてたので、そういう苦しさが個人的にあったから泣きそうになるのかなって思ってたんですけど、でも、それはこの曲自体の強度があるからなんだなって。いま話を聞いてて思いました」
――この曲は、コロナ以降の困難をどう乗り越えていくかということに対する、fhánaとしての回答のような曲でもあるのかなって思いました。
佐藤「ワンコーラスは2019年前半に出来てたんですけど、2番以降のフルサイズを作ったのは2020年に入ってからなんで、Dメロの〈さあ歌おう!讃美歌を どんな試練でもあきらめない〉〈涙は代償なんかじゃない〉とか、そのあたりの歌詞のやり取りをしてるときは、もうコロナ禍にも突入してましたね」
――さまざまな意味合いが込められた曲になりましたね。
towana「そうですね……。あとこの曲、タイトルは私が付けたんですよ。もともとは林さんが“a Love Supreme!”という英語のタイトルを提案してくださっていたんですけど、日本語で“愛のシュプリーム!”のほうがキャッチーで、〈!〉が付いてることで、タイトルだけ見ても元気で明るい曲なんだなってわかるじゃないですか。“青空のラプソディ”の次の曲っていうのもあるし、聴くと切ないんですけど大団円みたいな、そういう明るさのある感じを出したいなと思ってこれに決めました」
終わりを迎える寂しさ
――それから、アーティスト盤にはwagaさんが手掛けた“閃光のあとに”も収録されていて。こちらは、佐藤さんから〈シンセやカッティング・ギターを多用したシンプルでダンサブルなロック〉というオーダーがあったとか。
yuxuki「そうですね。世界的にもですけど、最近はR&BやEDMをよく聴いてたんで、そういうものを落とし込みたいなと。ギターの生感を、というよりは完全に素材みたいな感じで緻密にエディットして、シンセも自分で打ち込んで。ただ、そうやって作った結果、めちゃくちゃシビアな曲になってしまったんですよね。リズムがちょっとずれると一気にノれなくなる。とはいえプレイヤーの有機的なグルーヴは欲しいしで、その塩梅が難しかったです。ただ、逆に言うとじっくり時間をかけて全体のリズムのグルーヴを組めたのはよかったなと。それで曲の印象が変わったなと思います」
――この曲はコーラスもヴォーカル・シンセを多く使われてますね。
yuxuki「ヴォーカル・シンセはここ数年、海外の曲だとベタだと思うんですけど、改めて使ってみるとおもしろいなと。あとこの曲、実は〈花火〉がテーマなんですけど、もともと夏の終わりの曲みたいな、例えばAIRの“夏の色を探しに”とか、フジファブリックの“若者のすべて”とかが好きなんで、〈もうすぐ終わりを迎える寂しさ〉みたいなイメージで作れたらいいなあって。で、ヴォーカル・シンセのところは、花火的にはちょうどいちばん盛り上がってるシーンなのかなっていう。ここを境に終わっていく雰囲気を効果的に出せたらなって」
――ああ、どこか儚さもありますよね。
yuxuki「あと、メインのシンセのところは佐藤さんが入ってガラッと変わりましたね、ミックス当日に(笑)。デモとは違う質感ですけど、大人な感じで、これはこれでカッコイイなと。自分ひとりじゃできないものが、バンドだとできるっていうのがすごくいいなと思いましたね。シンプルに楽しかったです」
意外な場面で珍しい系統の曲が
――また、ジャジーなピアノのリフがリードするミニマルなラップ・パートからラテン歌謡風のサビへと雪崩れ込む“GIVE ME LOVE”は、アニメ盤のみに収録ということで。こちらはスーパーちょろゴンずの楽曲のカヴァーなんですよね?
佐藤「そうですね。最初はキャラソンとして作ってたんですけど、デモの段階で〈ヤバい、カッコイイのが出来ちゃったな。これは自分のバンドでもやりたい〉みたいな(笑)。スーパーちょろゴンずは“青空のラプソディ”と“愛のシュプリーム!”もカヴァーしてるんで、それならfhánaがスーパーちょろゴンずの曲をカヴァーしてもいいんじゃないか、ということでfhánaヴァージョンを作るに至りました」
――作詞は、スーパーちょろゴンずのほうが林さんで、fhánaのほうはtowanaさんとkevinさんが担当されているということですが。
towana「ラップの部分はkevin君で、メロディーは私で」
――お題はあったんですか?
佐藤「最初に送りました。オリジナルのキャラソンはトールとイルルと小林さんが三人で歌う曲なんですけど、〈メイドラゴン〉のキャラクターたちって、ドラゴンと人間という種族の違いはもちろん、ドラゴンのなかでも〈混沌勢〉〈調和勢〉〈傍観勢〉がいたりで、みんなカルチャーが違っていて最初はわかり合えないんです。でもだんだん理解し合って、居場所もできていって……だけど、お互いに理解できる部分と理解できない部分がある。さらには、わかり合えて愛を感じるようになったとしても、そもそも人間のほうが早く死んでしまう。〈メイドラゴン〉ってそういう〈相互理解〉や〈愛と孤独〉みたいなテーマも根底にある作品だから、それを歌詞に落とし込んでほしいみたいな話を林君にしてて。一方、fhánaヴァージョンはドラゴンと人間という種族の違いはなくて、基本的に人間同士の話なんで、逆に同じ人間なのにわかり合えなかったり、ぶつかり合ったりするよね、っていう、そのもどかしさの方向性で広げてほしいみたいな話をkevinとtowanaに伝えましたね」
――そして、そこからは……?
towana「私は〈あとは好きなように書いてください〉みたいな感じで、最後までほっとかれて」
佐藤「towanaさんには、基本上がってきたものをそのまま受け入れるってつもりで最初から頼んでるんで(笑)。切なくて儚げな歌詞をサビに入れてほしいみたいな。towanaが書けば、自然とそういう方向になるだろうなって」
towana「テーマ的なところはkevin君のラップで結構言ってくれてたから、私はこの曲で書きたいこと……この曲はカヴァーっていうのもあるから、fhánaと〈メイドラゴン〉、私と〈メイドラゴン〉とかそういうことだったり、あと、メロを最初に聴いたときに歌謡曲っぽいなって思ったのと、雨っぽいイメージも浮かんだので、そのへんで私が書きたいことを書いたって感じです」
――〈雨〉ってワードはkevinさんのパートにもありますね。
佐藤「そこは、towanaさんのパートで使ってるからこっちも〈雨〉を入れようって」
kevin「そうですね。ラップのパート作るの、めちゃくちゃ難しかったです。佐藤さんが言ってたテーマに合う、一本筋の通ったお話を作るっていうのがまずあって、それでいてちゃんと韻を踏んでて、聴いてて気持ちいいワードをチョイスする。そのバランスを取るのがなかなかチャレンジングでした」
佐藤「(取材の段階では)いまワンコーラス録ってあるんですけど、レコーディングの前日、ギリギリまでかかりましたからね(笑)。自分のなかでの“GIVE ME LOVE”は、いままでのfhánaで言ったら、初期にあった“lyrical sentence”の系統なんです。その系統の曲って作りたくてもなかなか出てこないんですけど、キャラソンのほうでそのパターンが出てきたから、これは自分たちでもやるしかない、って。これもライヴでやったら楽しそうだなって思います」
towana「歌詞を見たときに、私も“lyrical sentence”と共通点があるなって思いました」
――鍵盤のミニマルなリフと言葉数の多いメロディーっていうサウンド面の共通点もありますよね。3曲ともライヴでの披露も楽しみですが、そこは世の中の状況とすり合わせながら、バンドの動きがより活発化していけばそのうちに、というところでしょうか。
佐藤「動きという意味なら、2020年、2021年になってからのfhánaは、実は相当活発だったんですよね。コロナで不安な気持ちもありましたけど、僕は逆にテンションが上がっていた部分もあって。大変な時期だからこそ、むしろ何か新しいことをやらなければってことで、緊急事態宣言のなか“Pathos”って曲をメンバー4人だけでリモートで作ったり、いまはライヴをやってもお客さんは声を出せないから、“Ethos”って曲ではオリジナル・ヴァージョンのほかに、ファンの皆さんにコーラスを送ってもらった“Ethos Choir caravan(feat. fhanamily)”というヴァージョンを作ったり。オンライン・ライヴもオンラインならではの演出だったり体験だったりを追求したりといろいろやってて。それはそれで可能性を追求しつつ、でもやっぱりリアルな現場で、たくさんの人の前でも演奏したいし、早くファンのみんなに会いたい。そういう気持ちが、いまはとても高まっているって感じですね」
fhánaの近作。
左から、2018年作『World Atlas』、ベスト盤『STORIES』、2019年のシングル“僕を見つけて”、2020年のシングル“星をあつめて”(すべてランティス)
LIVE INFORMATION
fhána Love Supreme! Tour 2021 TOKYO-OSAKA
2021年9月12日(日)Billboard Live TOKYO
2021年9月17日(金)Billboard Live OSAKA
★久々の有観客ライヴが決定! 詳細は追ってお知らせします。