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まだ若かった4人が、本当に生々しい“原子心母”を演奏している

――映像本編の中身についてはどう思われました? 

「初めて観る方は、意外に思うかもしれませんが、この映像はピンク・フロイドの演奏だけが入っているわけではないんですよね。もちろん彼らのライブが中心なんですが、それ以外にも彼らが羽田に着いたときの映像、ホテルでの記者会見、〈アフロディーテ〉に来ているお客さんたちの模様、箱根登山鉄道や新幹線の姿なども映っている。いわゆる50年前の日本の姿が、垣間見えるところがおもしろい。あれだけクリアな映像で71年の日本を観られるのは新鮮だと思います。あと、いまでいう〈フジロック〉の雰囲気と意外にあまり変わらないんだなって」

――それは思いました。

「〈アフロディーテ〉は、洋楽アーティストを呼んだ日本初の野外フェスなんですよね。だから、その模様をちらっとだけでも観られるというのは資料としても貴重。ピンク・フロイドのみならず、日本の音楽史的にもすごく意義深いフィルムだと思いますね」

――ピンク・フロイドの演奏に関してはどんな印象を受けました?

「演奏は抜群にいいと思いました。当初は、初日の前日にリハをやる予定だったんですけど、大雨が降ってできなかったそうです。だから、1日目はぶっつけ本番みたいな感じだったとは思うんですが。

何と言っても、バンドだけで演奏しているのが、いまとなってはレアですよね。アルバム・ヴァージョンの“原子心母”はオーケストラが入った荘厳なサウンドで、その印象が強い人が多いと思います。〈アフロディーテ〉では、“原子心母”(原題:Atom Heart Mother)という曲が持つスケール感をバンド・アレンジで再現している。ベース、ギター、ドラム、オルガンしかないわけですよ。バンドの初期――ピンク・フロイドがいちばんライブに精力的に取り組んでいた時期ならではの演奏ですよね。個性豊かで、素晴らしい演奏テクニックを持った4人が、本当に生々しい“原子心母”をやっている。このライブにはそういう魅力があると思います」

ピンク・フロイド『原子心母(箱根アフロディーテ50周年記念盤〉』発売記念スペシャル映像
 

――荒々しさとかダイナミズムがありますよね。

「その後、ピンク・フロイドのライブは〈光と音の大スペクタクル・ショー〉に向かうわけですが、ここでは掘っ立て小屋みたいなステージで、4人だけで組曲をきっちり聴かせている。彼らのライブはいろいろ聴いてきましたが、〈アフロディーテ〉のライブは本当にいいです 。ロック・バンドとしてのピンク・フロイドという点では、71年はいちばんいい時期だったんでしょうね。写真を見ても仲良さそうですし(笑)」

――みんなハンサムでかっこいいですよね。

「デヴィッド・ギルモア(David Gilmour)はそもそもモデルでしたしね。あのロジャー・ウォーターズ(Roger Waters)も、この頃は可愛く見えます(笑)」

――今回の制作で、印象深いエピソードは?

「驚いたことに、ライブを撮影した山田さんと永谷さんは、ピンク・フロイドにこの映像を見せていたそうです。ピンク・フロイドは翌年の72年にも来日しているんですが、そのときにホテルの部屋に行って観てもらった、と。しかも上映する際、ロジャー・ウォーターズがホテルの壁にハサミをぶっ刺してスクリーンを固定したらしく(笑)」

――おおらかな時代のロック武勇伝(笑)。

「映像を観てピンク・フロイドも喜んでいたと言ってましたね。確かにそういう関係性じゃないと、あんな写真は撮らせないだろうなと思いました 。今回の一連の発見のなかでも、それがいちばん驚いたことかな」