最近は〈UKロック〉という形でのジャンル分けをあまり見かけなくなっている。この時代にUS/UKみたいなやや大雑把な区切りはあまり意味を持たないのかもしれない。それでもやはり、限定的な意味であれ〈UKロック〉という言葉で表したいバンドはいるし、サーカ・ウェイヴスはそのうちの一つだ。

 リヴァプール出身の4人組で2013年にデビューした彼らは、ギター・ロック苦境と言われてきた時代においてもチャート上で結果を残してきた。このバンドはトラップ的なビートを導入したりするのとは別の方向から〈UKロック〉をモダナイズしているのだ。1月リリースのニュー・アルバム『Never Going Under』でもそんな最新形かつ正統派な〈UKロック〉を思う存分堪能できる。

CIRCA WAVES 『Never Going Under』 Lower Third/PIAS/BIG NOTHING(2023)

 例えば2曲目の“Do You Wanna Talk”は強めの音圧を持ちつつもシャープで小気味の良いギターが曲をドライヴさせ、切なさ溢れる美メロの“Want It All Today”、爽やかな抒情を含んだ“Northern Town”など、いずれの楽曲もコンパクトでひたすらにキャッチー。“Hell On Earth”や“Electric City”などサッカー・スタジアム映えする楽曲も揃っている。つまりは〈UKロック〉の最良な部分を受け継いだアルバムで、全体で35分という短さなのも憎いまでに完璧だ。

 セルフ・タイトルのアルバムをリリースする、同じくUK発のザ・ウェイヴはブラーのグレアム・コクソンと元ピペッツでその後も素晴らしいソロ・キャリアを積んでいるローズ・エリナー・ドゥーガルによるユニットだ。この作品においてグレアムはサックスや伝統楽器を、ローズはもっぱらピアノやシンセを担当し、いずれも自分に日常的な馴染みがない楽器を用いたということである。この試みはいずれの楽曲において非常に効果的に機能している。

THE WAEVE 『The WAEVE』 Transgressive/BIG NOTHING(2023)

 こうした取り組みは手癖的なルーティンからミュージシャンたちが解放されるための手段というわけだ。それが非常にうまくいっている。アナログ・シンセの生々しい響き、サックスの艶やかな音色等は非常に効果的に、このヨーロッパ的な気怠さと繊細な美しさに満ちた作品に貢献している。

 楽曲単位で言うと、ハンマー・ビートが疾走しつつアンニュイな雰囲気の中でサックスのハーモニーが線状に伸びていく“Sleepwalking”、グロッケン風シンセの導入部から妖しく聴き手を引き込む“Drowning”、ヴォコーダーの声に耳を惹かれ、後半部のギターに悶絶させられる“Someone Up There”など快楽性の高い楽曲が揃っている。

 そして最後のスロウなオールディーズ“You’re All I Want to Know”を聴いた後には、〈何とも豊かな音楽を聴いた〉という満足感が溢れてくる。何度か耳にしたら、たまらずフィジカルでも欲しくなってくるような、熟達した作家による何とも丁寧な手触りの作品である。

 


【著者紹介】岸啓介
音楽系出版社で勤務したのちに、レーベル勤務などを経て、現在はライター/編集者としても活動中。座右の銘は〈I would prefer not to〉。