コラム

キース・ジャレット(Keith Jarrett)『Budapest Concert』無調的な雲はみるみる形を変えて、ひとつの造形の印象を残す

Keith Jarrett©Daniela Yohannes/ECM Records

2016年、即興は曇りのち晴。

 無調のクラスターの中からやがてある調性が聞こえてくる。2016年ブダペストのソロ・コンサートをキース・ジャレットはそんな風に始めた。

KEITH JARRETT 『Budapest Concert』 ECM/ユニバーサル(2020)

 キースのピアノ・ソロのアルバムは、一晩のコンサートだけ、あるいはツアーからいくつかピックアップしたもの、ツアー全てをボックスセットにして出したもの、そしてスタジオでレコーディングされたものなど、様々だ。このブダペストのコンサートの前年にリリースされた『Creation』は、2014年のツアーから選ばれたトラックで構成されている。キースは、ソロのコンサートをどう終えるのかを考えて即興を始めるのだろうか? いくつかのコンサートのトラックを再編して作られた『Creation』の曲順は、即興を終えた後の彼のどんな意志が反映されて、ああなったのだろう。

 ブダペストの無調のクラスターの雲はみるみる形を変えて、そしてひとつの造形の印象を残す。繰り返される音列、音塊があるトーナリティーの重力を生み、この重力は周期性を呼び込む。まるでセシル・テイラーのアフリカだ。冒頭からの曲名の無い即興の塊が続き、創造の可塑的なプロセスを経て突然現れるラメンテーション。まるでバルトークの“14のバガデル”を聴いているようだし、まるでストラヴィンスキーの“春の祭典”のような構成だ。そしてある瞬間、コンサートの折り返し地点を告知するかのように、キースの手は音楽の無垢な形を顕にする。即興はラグやブルース、それはソングの形となって現れる。再び冒頭の混沌が繰り返されて、“It's A Lonesome Old Town”、“Answer Me”の、かつてナット・キング・コールの明朗な声に封じられていた旋律の愁いを優しく包んで終演を飾る。

 チャーリー・ミンガスがクラシックの作曲家とジャズの作曲家を比較して、前者をPencil Composerそして後者をSpontaneous Composerと区別していたことを改めて思い出した。

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