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複雑さを引き受けた作品

 共同プロデューサー/アレンジャーとして迎えたベーシスト/作曲家の千葉広樹ををはじめ、ドラマーの渡健人(av4ln)やヴィブラフォンの角銅真実ら、ceroのサポートを務める5名の管弦楽器奏者が参加。さらにヴォーカルと作詞でフィーチャーしたBlack BoboiのJulia Shortreedとceroでの共演経験もあるトロンボーン奏者のコーリー・キングが楽曲を豊かに膨らませていった。

 「最初、3曲くらい作った時点で、千葉さんに聴いてもらって、制作に参加してもらいました。彼のことは昔から一方的に知っていたんですけど、知り合ったのは2013年ですね。ceroにも参加しているシンガー・ソングライター古川麦のレコ発ライヴに、僕がピアノ、千葉さんがベーシストで呼ばれて、そこから話すようになりました。自分がメカニカルでゼンマイ仕掛けのような音楽性であるのに対して、千葉さんは有機的で時間軸も伸縮するようなしなやかさが特徴というか、作曲家としての作風は正反対なんですけど、お互い通ってきた音楽、バックグラウンドは大いに重なる部分があるという。そして、千葉さんしかり、ドラマーの渡健人くんや木管楽器奏者の大石俊太郎くん、ヴォーカリストのJulia Shortreedさんとコーリー・キングは、みんなプレイヤーでありながら、トラックメイカーでもあって。自分のアイデアを上手く汲み取ってくれる面子がたまたま集まったんですよ」。

 変拍子やポリリズムを洗練させた形でコンポジションに織り込んだ本作は、ヒップホップやエレクトロニック・ミュージックからの影響を内包しながらも、グルーヴを強調した作品でもなければ、ジャズのようにプレイヤーの技量にフォーカスした作品でもない。

 「『POLY LIFE MULTI SOUL』より複雑なことをやっていて、なおかつ、それをすんなり聴かせられるようになっていると思うんですけど、この作品はリズム面に主眼を置いていたわけではないんです。ジャズもそう。参加プレイヤーの半分くらいがジャズの人たちだったり、クラシックをジャズの語法で分析したうえで楽曲制作に臨んだことで、意図せずしてジャズの要素が混ざってしまった感じ。自分としてはクラシック、ミニマル・ミュージックや現代音楽的なものから外に出ようとはあまり考えていませんでした。ただ、コンセプトありきで制作すると上手くいかないことが多かったりするので、頭でっかちにならず、自分が美しいと感じるものになればいいなと思っていましたね」。

 複雑に絡み合った色とりどりの糸を解きほぐし、新たに織り上げたサウンドスケープは、そう、ただただ美しい。

 「自分にとっての美しい音楽とは、純粋で綺麗なものというよりも、例えばフランク・オーシャンの『Blonde』がそうであるように、ドラッグとか性愛、暴力なんかが下地にあったうえで成り立っている美しさが感じられる音楽。今回のアルバムもそんなふうに、独特な質感や空気感になったらいいなと思っていました。聴く人によって、これはジャズだ、クラシックだ、誰々っぽいとか、いろんな捉え方をされる作品だと思うんですけど、現代音楽も好きだし、ヒップホップも好きだし、BTSも好きだし、まぁ、それが自分だったりするので(笑)、そういう複雑さを引き受けたこの作品を通じてどういう気持ちになるのか、どういう心象風景が見えるのかを自由に楽しんでもらえれば嬉しいですね」。

左から、ceroの2018年作『POLY LIFE MULTI SOUL』(KAKUBARHYTHM)、Shohei Takagi Parallela Botanicaの2020年作『TRIPTYCH』(ソニー)

 

『Sisei』に参加したアーティストの関連作品と一部紹介。
左から、蓮沼執太フルフィルの2020年作『フルフォニー|FULLPHONY』(ユニバーサル)、東京塩麹の2018年作『YOU CAN DANCE』(dim up)、角銅真実の2020年作『oar』(ユニバーサル)、ASA-CHANG&巡礼の2020年作『事件』(AIRPLANE)、コーリー・キングの2016年作『Lashes』(Ropeadope)