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細井徳太郎
 

いつも褒め合っている

――“スカートになって”と“したっけ”が起点になって、そこから他の曲も作っていくうちに作品としての全体像が見えてきたわけですか?

細井「2曲だけだと勿体ないなと思ったときに、さっきも言った通り、僕の曲には80%くらい歌詞がついているので、基本的には昔書いた曲を引っ張り出してきて、自分で歌い、結果7曲になった感じです」

――“スカートになって”と“したっけ”は比較的シンプルなアレンジで、〈歌〉の印象が強いです。

細井「非常に申し上げにくいですけど、この2曲はほとんどデモというか、ギターはデモの時に入れた音がほとんどそのまま残っていて、そこに生のドラムとベースとシンセを入れてもらって。歌は歌い直したんですけど、アレンジ自体はほぼデモのときのまんまです。“したっけ”は駿の最初のデモの段階で〈もうこれ完成してるな〉って感じで駿の作曲アレンジ能力に驚きました」

――もともと石若くんは“したっけ”をどんなイメージで書いたのでしょうか?

石若「曲を作ってて、〈これ徳ちゃんじゃね?〉と思って、パッと送ったら、徳ちゃんから“スカートになって”が送られてきたので、それを家で録りました。ホントに直感なんですけど、曲の醸し出す雰囲気みたいなものが徳ちゃんっぽいと思ったんですよね。僕は曲を作ってて、〈これは歌詞が乗るな〉と思ったときは、毎回〈誰が歌うのがいいかな?〉と考えるんですけど、“したっけ”は徳ちゃんにピッタリなんじゃないかなって」

――歌そのものに関しては、細井くんの中ではどんなイメージがあったのでしょうか?  最初の方でスピッツやフジファブリックの名前が出ていて、もちろん全然違うんだけど、ああいう日本のバンドにも通じる雰囲気はあると思いました。

細井「自分の中では一貫してるつもりなんですけど、実際に録音したものを聴いてみると、わりと着せ替え人形みたいになってるというか、1曲1曲イメージが違う感じにはなりましたね。具体的に言うと、1曲目の“スカートになって”はthe pillowsみたいな感じ。2曲目の“八月の光”は一緒に歌ってることもあって、めちゃめちゃ君島氏から影響を受けてます」

――最初に作った2曲以外は昔の曲を引っ張り出してきたとのことですが、“八月の光”はいつ頃書いた曲なのでしょうか?

細井「まだ僕が群馬にいた頃に書いた曲です。大学でアメリカ文学を勉強していて、ウィリアム・フォークナーの『八月の光』がめちゃくちゃ好きなので、それに対して曲を作ろうと思って。なので、〈リーナ・グローヴ・サイド〉と〈ジョー・クリスマス・サイド〉に分けて、君島氏がリーナ、俺がジョーで、歌詞がふたつあるんです(※リーナとジョーはそれぞれ「八月の光」の登場人物)。この曲は外山明さんと、ニラン・ダシカ、栗田妙子さんとのバンド(Around Trio)でよくやってて、トランペットとピアノのメロディーを俺と君島氏が歌ってます。で、泥砂に金でもこの曲をやり始めて、せっかくだから録音したいなって」

――2か所出てくるギター・ソロも素晴らしいです。

君島「1回目が徳ちゃんで、2回目が僕ですね。徳ちゃんのソロがめちゃくちゃよくて、魔法がかかってる感じ」

細井「それはあなたよ、君島さん。ラストにかけてやばソロが聴けます」

君島「いつもこういう褒め合いをしてます(笑)」

――あはは。前半の細井くんのソロはエフェクティヴで、音の変化が面白い。

君島「僕は逆にレコーディングのときはエフェクティヴに行かないんですよね。割とアン直(アンプに直接ギターを繋ぐ)っぽい音の方が好きというか、今回のギターも全部そうかもしれない。ヴォリューム・ペダルとオーヴァードライヴと残響だけ、みたいな。でも“八月の光”の徳ちゃんのソロは、すごくシームレスにエフェクトを入れながら、気付いたらめっちゃ歪んでて、〈どうやってるんだろう?〉とずっと思ってたんですよね」

――実際“八月の光”のプレイはどうやって生まれたのでしょうか?

細井「バンド全員で一発で録ったんですけど、ホントに思いつきです(笑)。ソロの途中で逆再生をかけて、その隙にオクターヴと歪みを変えて、戻ってきたら音が変わってる、みたいなのをその場で思いついてやりました」

――そこはやはりSMTKをはじめ、即興演奏を重ねてきた細井くんならではと言えそうですね。一方、後半の君島くんのソロはトーンとフレーズ自体が美しいなと。

細井「ギター・ソロをふたつ入れたのは俺の趣味というか、絶対1曲は俺と君島どっちのソロもある曲を作りたくて、勝ち負けではないですけど、これは負けたと思いました」

君島「バンドでせーのでやって、1個目のソロが出てきた時点で、俺は負けたと思ったけどね」

――また褒め合ってる(笑)。なおかつ、その間には石若くんのソロも入っていて、後半に向けての盛り上がりを作っていますね。

細井「構成としては俺の歌があって、ギター・ソロがあって、駿のドラム・ソロがあって、そこに瀬尾さんと君島のソロが入ってくる、みたいな。あそこのドラム・ソロは前半と後半を繋げるめちゃめちゃ重要な役割で、あそこに駿のドラム・ソロがあることで、その後の君島ソロがよりドラマチックになるので、さすがだなと思いました」

君島「“八月の光”の構成はすごくきれいだなって、聴くたびに思います。2人ともソロを取ってるけど、ソロの乗る進行は違うしね。聴き飽きない曲なので、自分でもよく聴いてます」

 

表現の源には夢があるんだろうな

――“エンガワ”も原型は昔書いた曲ですか?

細井「作ったのは3~4年前で、SMTKでも2回やってるし、他のインスト・バンドでもやってたんですけど、おじいちゃんおばあちゃんが亡くなったことがすごく悲しくて、その時の気持ちを歌詞にしたので、この曲はアレンジも含めておじいちゃんおばあちゃんがプレゼントしてくれた曲だと勝手に思ってます。なので、基本的には田んぼだったり、群馬の情景だったりが描かれていて、駿のドラムも風を感じさせるし、瀬尾さんの生音も木の感じが出てて、そこに何となく夢っぽい佑成のシンセが入って、さらに広がりが出てる。あとは何と言っても、フィーチャリング君島大空ギターですね」

――スティール・ギターみたいなやつですよね?

石若「あれレコーディングしてて超気持ちよかった」

君島「〈ビル・フリゼールでお願いします〉と言われたのをめっちゃ覚えてる(笑)」

細井「〈ビル島さんでお願いします〉って(笑)」

――ビル・フリゼールは共通のルーツな感じがしますよね。

君島「〈うん、オッケー〉って感じでした(笑)」

細井「あれは最高のギター。あとラストのカオスになる部分は、ミックスの段階で最後にちょっと逆再生をつけてて、あそこは僕の願いというか。君島氏とちょっと前に逆再生の意義みたいな話をしたんですよ。俺たちみたいな逆再生好きなやつらは、過去に戻りたいのかなって(笑)」

君島「時間はどうしたって流れて行ってしまうけど、音楽なら逆再生できるっていう、めちゃめちゃエモーショナルが高まった夜があったよね」

細井「あれだ、藤本タツキ先生の『ルックバック』を読んだ日」

君島「そう、『ルックバック』を読んで、Twitterのタイムラインが『ルックバック』だらけになって、嫌だよねって電話していて、それから逆再生の話になったんだよね」

細井「その話をした1週間後くらいにミックスだったので、願いを込めてラストに逆再生をつけたんです」

――いい話ですね。そして、ラストの“呼吸”は3部構成になっています。

細井「最初はひとつながりの曲にしようと思ってたんですけど、この形がカッコいいんじゃねえかっていうのは……君島氏が言ってくれたんだっけ?」

君島「クラシックとかだと、サブスクでひとつの組曲が3つに分かれたりしてて、そういうのがカッコいいんじゃないかなって」

細井「ちなみに、この曲はSMTKの“すって、はいて。”を誰にも分からないようにグチャグチャに改造した曲なんです」

SMTKの2020年作『SUPER MAGIC TOKYO KARMA』収録曲“すって、はいて。”
 

石若「1回、東北沢(OTOOTO)でやったよね? キミも一緒に」

君島「やった。その時はまだ“すって、はいて。”だった」

石若「その日の演奏がめちゃめちゃかっこよくて」

細井「曲の成り立ちとしては、“呼吸:Ⅰ.火の中の水”はキーだけ決めてみんなで即興をして、幕間というか、〈これから違う曲をやります〉っていう感じ。“呼吸:Ⅱ.砂漠のノイズ”がさっき言ってた駿と俺とキミの3人で、東北沢でライブをして、その時も進行表だけ作ってほとんど即興だったんですけど、iPhoneで録音したのを後で聴いたらすごくかっこよくて、その即興演奏を採譜してアレンジとしてレコーディングをしました。で、“呼吸:Ⅲ.心臓”だけちょっと異質というか、コード進行は“砂漠のノイズ”の後半と一緒なんですけど、“砂漠のノイズ”の原型ができた日のライブで僕は基本バッキングだったので、俺もソロが弾きたいと思って、この曲をつけ足した感じです(笑)」

君島「やっぱり徳ちゃんヤバいなと思ったのが、“砂漠のノイズ”の作業を家でしてたときに、〈瀬尾さんのソロに歌詞が乗ってたら面白いよね〉って、僕が思い付きで言ったら、〈俺、歌詞書いてきたよ〉と言われて。ベース・ソロに歌詞を当てて書くって、この人ホントに計り知れないなって(笑)。あと、見た夢を歌詞にしたって言ってた気がする」

細井「歌録り当日の朝に見た夢なんですけど、おじいちゃんおばあちゃんの実家の周りが全部砂漠になって、家が宮殿みたいになってて、そこをおじいちゃんの機械が歩いてるんですよ。で、〈あれは人間に見えるけど機械なんだよ〉って、誰かが言ってて、そうしたらおばあちゃんが後ろから来て〈あんた!〉って、そのおじいちゃんの方に走っていって。それを追いかけて、みんな宮殿の中に入って、おばあちゃんがおじいちゃんを捕まえたら、おじいちゃんがニコッと笑って、そのまま2人がベッドに落ちていく、みたいな夢で。そこから“砂漠のノイズ”と“心臓”の歌詞を書いたんです」

――前にSMTKで取材をさせてもらったときに、“長方形エレベーターとパラシュート”も夢で見た風景を曲にしたと言ってたし、細井くんは夢がインスピレーション源になることが多そうですね。

君島「徳ちゃんと出会ってすぐくらいに、分厚い夢日記をLINEで送ってきて、それからちょくちょく見た夢についてやりとりしてたんですけど、徳ちゃんが送ってくれる夢の描写が緻密過ぎて(笑)。こんな人には出会ったことがなかったので、徳ちゃんの表現の源には夢があるんだろうなっていうのは、前から思ってます」

――ちなみに、EPのタイトルになっている“スカートになって”も夢が関係していたりしますか?

細井「いや、この曲は夢は関係なくて、ただ僕がスカートが好きっていうか、スカートを履きたいなって。君島氏ともよくこういう話をするんですけど、〈ギャルに生まれたかった〉とか、かわいいものへの憧れみたいなのがあるんですよね。そういうジェンダーのこととかって、今まで生きてきた人が勝手に決めた縛り付けで、そういうものから自由になりたい気持ちがあるので、歌詞もそう思って書きました。これをタイトルにして、僕が大好きな漫画家の羽賀翔一先生に本当に素敵な、EPの雰囲気にもばっちり合ったジャケットを書いてもらって、すごく満足です」

スカートになって』ジャケット
 

――もともとソロ作を作るつもりはなくて、ある意味偶発的に今回の作品が生まれたわけですが、1枚作ってみて、ソロに対する意識に変化はありましたか?

細井「お恥ずかしながら、もう携帯のメモに〈次回作〉というのを作ってます。今回の作品に参加してくれたみんなと〈こういう曲もやりたい〉というのが出てきたし、それにプラスして、〈こんな人を呼んだらもっと面白そう〉という人も何人か思い浮かんで。1枚作らせてもらって、自分が中心になって作る楽しさを知って、創作意欲も湧いたので、次の作品も絶対に作りたいと思っています」

 


LIVE INFORMATION

「スカートになって」発売記念ライブ
2021年11月26日(金)東京・新宿Marz
詳細後日発表

〈泥砂に金〉プチツアー名古屋京都東京編
(メンバー:細井徳太郎、瀬尾高志、君島大空)

2021年10月20日(水)愛知・名古屋KDハポン
開場/開演:
①13:30/14:00
②17:00/17:30
③18:30/19:00
※各セット入れ替え
料金:各1,900円(税込、1ドリンク代別)
※各回要予約、割引あり(2回で3,500円、3回で4,500円 各税込、2ドリンク代別)
予約メール:kdjapon@gmail.com
※件名に「2021.10.20水予約」、本文に氏名(カタカナフルネーム)、人数(複数名の場合は全員の氏名)、メールアドレス、電話番号、①②③どの回の予約かを明記の上、メールにてご予約お願い致します

2021年10月21日(木)京都・木屋町UrBANGUILD
開場/開演:
①16:30/17:00(短めセット)
②18:00/18:30(長めセット)
※各セット入れ替え
料金:①1,500円、②3,500円(各税込)
予約ページ:http://urbanguild.net/events/

2021年10月23日(土)東京・神保町試聴室
with special guest 荒悠平(ダンス)
開場/開演:
①13:30/14:00
②16:00/16:30
③18:30/19:00
※各セット入れ替え(複数セット割り有・抽選予定)
料金:各3,000円(税込、1ドリンク代込)
予約ページ:http://shicho.org/1event211023/

※名古屋、京都、東京、3公演とも複数セットのご希望が可能です。ご希望の時間帯やセット数を添えてご予約ください