ジャズピアニストでありながらメタルファンとしても知られる西山瞳さんによる連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉。今回は、明日2021年9月29日(水)にリリースされるLOVEBITESとMary's Bloodの新作について、西山さんならではの視点で語っていただきます。 *Mikiki編集部

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今年の9月29日(水)は、日本で最も重要な女性だけによるヘヴィメタルバンドの新譜リリースが重なっています。

LOVEBITES、そしてMary's Blood

それぞれの旧譜は大体聴いていましたが、新作が両バンドともあまりにも素晴らしく、しかも同日にこんな充実した作品が聴けるなんてどれだけ豊かなシーンなんだ! 幸せなことだよね!と感激しましたので、メタルを聴いたことない方もぜひ聴いて頂きたく、取り上げることにしました。

 

ガールズバンドといえば、私はまずはプリンセス プリンセスとSHOW-YAという世代です。子どもの頃テレビで観ていて、圧倒的に歌がうまくて滅茶苦茶カッコよかった。

当時から社会環境や価値観も大きく変化して、今は女性のミュージシャンが本当に多く活躍し、個性豊かで風通しの良い、成熟したガールズバンドシーンになっていることを実感します。良いバンドが本当に多すぎる。

女性ミュージシャンたちが自分たちの音楽を思いっきり表現していて、衣装やメイクなどのビジュアルにおいても様々なコンセプトにチャレンジしていて、自然に楽しんでやっている感じがとてもいいし、なんか嬉しくてワクワクしちゃう。未来は明るいっ!って、すごくポジティブなエネルギーを貰える、そんな風に感じている私のような女性リスナーも絶対多いと思います。

 

ジャズ界でも水着で演奏のプレイヤーが話題になった時、私も「いえーい!」って言っていましたし、周りの女性ミュージシャンほぼ全員が「いいぞもっとやれー!」と応援していました。好きな装いで好きなことをしている人って、めっちゃ素敵です。それぞれが自分の意思で好きなことを全力でやれたら、それが一番ですよね。

そう、全力で表現している女の子のミュージシャンを見ていると、本当に嬉しいんですよね。しかも、その音楽がメタルだったら嬉しさも倍増! 全力応援です。

 

 

まずは、LOVEBITES『ヘヴィ・メタル・ネヴァー・ダイズ~ライヴ・イン・トーキョー2021』から。

LOVEBITESは2017年にリリースされたファーストEPが非常に話題になっていた時に名前を知り、その後すぐに発表されたファーストアルバム『アウェイクニング・フロム・アビス』から聴きました。これがあまりにも楽曲の完成度が高く、メタル濃度100%。破格のバンドが出てきたなと驚きました。2作目『クロックワーク・イモータリティ』、3作目『エレクトリック・ペンタグラム』と聴いてきましたが、特に3枚目は大傑作でした。

私の話で恐縮ですが、2006年にデビューした時のレコード会社のプロデューサーが「試聴機では3曲目までが勝負。3曲でリスナーを掴まないといけない」とおっしゃっていました。もう今は試聴機で頭から3曲を聴いてCDを買うか判断する時代ではないですが、この『エレクトリック・ペンタグラム』の最初の3曲は、こんなに完璧な最初の3曲はないんじゃないだろうかと思うくらいのもので、最初の3曲でこれだけのものを提示できるバンドの力に猛烈に感動しましたよ。

29日にリリースされる『ヘヴィ・メタル・ネヴァー・ダイズ~ライヴ・イン・トーキョー2021』は、私にとって初めて聴くLOVEBITESのライブ盤。スタジオ盤で感じていた圧倒的な完成度で構築された絵巻物のような荘厳な佇まいをそのままに、100%戦闘態勢のメタル・アティテュードでクオリティー抜群。風格もありながらこちらの感情に突進してくる素晴らしいライブ盤でした。いやあ、端的に傑作です。

LOVEBITES 『ヘヴィ・メタル・ネヴァー・ダイズ~ライヴ・イン・トーキョー2021』 ビクター(2021)

今までスタジオ盤を聴いていて、あまりにも楽曲の完成度が高いので、〈箸休め曲が全くないバンド〉という印象でした。その完璧さゆえ、少し遠い存在のようにも感じていたのですが、ライブ盤ではオーディエンスに向かう情熱が音楽のクオリティーを追い越してきて、知らない間に感動で胸がいっぱいに。

全編通して聴いていておもしろいなと思ったのが、全員が非常にスキルフルでスタープレイヤーとして目立ってもいいのに、スタジオ盤よりライブ盤の方が、メンバー全員が全体的に俯瞰してプレイしているように感じたこと。全員が同じビジョンを共有して同じ出口を目指している、バンドとしての結束の強さ、全員が一つの音楽に向かって奉仕する潔さ、その気持ち良さを、ビシビシと感じました。

これまでスタジオ盤だとサウンドが完璧なまでに整っているので音楽全体が耳に飛び込んできましたが、ライブ盤では、誰かが何かをやっている時、何かの合間に、他の誰かが物凄くカッコいいフレーズを〈少し〉〈裏で〉弾いていることに気付くんですよね。これがもうなんというか絶妙な良いパスを見ているようで、誰かだけ突出して演奏するのではないまるでチームプレーのよう。そう、演奏技術は音楽のためにある。

最初にアイアン・メイデンが提示した〈美意識と世界観の透徹こそがメタルだ〉という価値観に通じる、これぞメタル・アティテュードだと思います。

また、MCをきちんと収録しているのが素晴らしいんです。普通結構切っちゃうでしょ。コロナ禍でライブができなくなった葛藤の後、この日を迎えることができた喜び、感謝と、聴衆との信頼関係、拍手の温度、聴衆のバンドを支えてきた誇りや生きることに音楽が必要だという気持ちが溢れた、充実した時間が収録されています。

あえて映像ではなく音だけで先に聴かせてもらいましたので、発売後映像で見るのが楽しみだなあ。