ジャズピアニストの西山瞳さんによるメタル連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉。第80回は、満を持して伊藤政則さんについて。日本のメタルシーンに多大な影響を及ぼしてきた音楽評論家・伊藤政則さんと、西山さんがトークイベント〈政則十番勝負〉でついに対面。伊藤政則さんの文章で育った経験からイベント当日のことまで、西山さんが綴りました。 *Mikiki編集部

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3月のある日、メールフォルダを開けると、とんでもないメールが届いていました。

件名:伊藤政則です

ぶったまげました。「ヘドバン」の編集長から、「連絡先教えてもいい?」と話はあったのですが、まさかご本人から直接連絡があるとは、思わないじゃないですか。

伊藤政則ですよ!

そのメールは、この9月に開催された〈政則十番勝負 2024〉の出演オファーだったので、自宅でパソコンに向かって「おっしゃ!」とガッツポーズをするも、メタルを知らない家族には、何が起こっているのか意味不明。

「ジャズでいうと、誰みたいな感じ?」と聞くので、「伊藤政則みたいな人は、どこのジャンルにもおらん!!」と、なんとなく誰かを挙げることすらせず、一人栄誉に浸っている私……。

 

ということで、今年の〈政則十番勝負 2024〉、9月13日の回に参加してきました。
こちらはメタルファンの年間恒例行事となっている、タワーレコード渋谷店で開催されるトークイベントシリーズで、伊藤政則氏とゲストが十夜にわたってトークライブを繰り広げるものです。

一般に発表になった時は、SNSではメタラーのフォロワーの皆さんから「おめでとうございます!」「ついに!」という反応でしたが、ジャズファンのフォロワーさんからは、無風(笑)。本当に無風でした。

しかし、ジャズファンの中には、プログレからジャズに到達したおじさま方も少なからずいて、そういう方々は、ヘヴィメタル以前のブリティッシュロック、ジャズロック(このワードは、ジャズ側、ロック側と人によってあまりにも認識が違うので、私はあまり使わないようにしておりますが)を愛聴していたことから、伊藤政則に馴染みがあったりするんですね。

昔の雑誌「Rockadom」をきれいな状態で大事にお持ちの方からお借りして読んだところ、ヘヴィメタルや「BURRN!」以前の伊藤政則を知らなかったので、とても面白かったです。

 

そもそも、伊藤政則とは……?

ジャズ系の方から「どういう人?」と何度も聞かれ、私はテンプレ通り、「日本のメタルゴッドです」と言うのですが、似たような存在が、ジャズどころかどのジャンルにも存在しないので、説明が難しい。

大体、下記3点でお話ししています。

 

「私も含め、多くのメタラーは伊藤政則の文章で育ったんですよ!」

最初の出会いはいつだったか覚えていませんが、しっかり名前を認識したのは、きっとボン・ジョヴィ『These Days』だったと思います。一度ボン・ジョヴィ回でトップに掲載したこのアルバム。

BON JOVI 『These Days』 Mercury(1995)

CDが本のような仕様で、聴きすぎてボロボロになっていますが、このアルバムのライナーノートが〈MASA ITO〉でした。色々と洋楽を聴いていると、ライナーノートの最後によく〈MASA ITO〉と書いてあるんですよ。

そう書いてあるライナーノートの文章は、とても熱かったんです。

初めてそのアルバムを聴く時、どきどきして興奮するじゃないですか。昔は必ず、初聴きと同時にライナーノートを読んでいたのですが、滾る熱情と叙情、血と汗のにおい、歴史を目撃したような生々しさに満ちた文章を読み、「私だけがこの凄い音楽に出会えたんだ……!」と、音楽を聴きながら興奮したものです。

中学生や高校生の時は、MASA ITOの文章を読みながら音楽を聴くことが、体験としてセットになっていて、この音楽に選ばれた自分になれたかのような、少し誇らしい気分になっていたのですよ。感情の奥底をぐっと掴んでくる文章に、魅入られたものです。

B’zから洋楽ハードロックへ、そしてイングヴェイ・マルムスティーンからヘヴィメタルへ流れ着いた私は、常に伊藤政則の文章が傍にあったんです。「BURRN!」も勿論読んでいたけど、やっぱり私にとって大きかったのは、洋楽CDのライナーノートかな。