ジャズピアニストにしてメタラー、西山瞳さんがメタルにまつわるあれこれを綴る連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉。今回は2025年、ついに開催されたドイツのメタルバンド、アンプロセストの初来日公演について。バンドのライブパフォーマンスに感銘を受けた西山さんが感想を綴ります。 *Mikiki編集部
2月28日、ついに初来日が実現したアンプロセストの新宿アンチノックでの公演を観てきました。
本来は2020年に初来日の予定がキャンセル。その後、2024年6月に来日予定でしたが、リーダーのマニュエル・ガードナー・フェルナンデスが緊急入院することになり、キャンセル。意外と早く振替日程が決まり、その日程なら私も行ける。ということで、喜び勇んでチケットを取りました。
2023年のアルバム『And Everything In Between』がとても良くて、話題になりました。私自身は、リリースされてすぐに聴いた時はそこまでピンとこなくて、後で徐々に好きになっていったところがあります。

以前も書きましたが、近年非常に気になっているのが、最近のメタルコアの〈救済感〉。なんだか〈救済されたい〉っていうサウンドが多い。
それには、リフに頼らず、シンプルでダイアトニックなコード進行を繰り返すことによるエモーションの高まり、ウィスパーとスクリームをうまく使い分ける生々しい感情表現、多弦ギターと多弦ベースで音域を拡張し、奥行きのあるエフェクトを加え音像をダイナミックにするなど、〈音像は大きいけど人間の感情は物凄くリスナーに近い〉という、以前のメタルには全然感じなかった、新しい物差しを感じるんです。
一人のヒーローが先頭を走り全体を率いるのではなく、爆音だけどリスナーに寄り添う、暴力的だけど傷ついているように聞こえる、強いけど弱さを曝け出している、そのあたりが私にとっては新鮮で、それらをひっくるめて〈救済感〉と呼んでいます。なんとなく、ヒーロー不在の音楽のようにも感じています。ギターソロも少ないし、一聴して人間離れしたボーカリストもいない。
そういう音楽をしている人たちが何を考えているのか、とても興味があります。
ジャズピアノトリオという自分のフォーマットで、その救済感を実現できないかと、いろいろなバンドを聴いて頭にストックしていっているのですが、その中でもアンプロセストはかなり凄いんじゃないかと。曲の良さ、テクニックの素晴らしさ、トータルの世界観に向かうアレンジの良さ、全てにおいてハイクオリティと感じ、じわじわとハマっていったのです。
何より、そのハイクオリティが全てポップな方向に作用しているのが素晴らしい。ジェント風の刻みも全く排他的に使わず、全てのテクニックやスキルは、大きな風景を描くために奉仕している。
まずはその名も“Sacrifice Me”を聴いてください。
そして、“Thrash”。
なんなのこの高速ピッキング?の音。こんなの、絶対生で観たいじゃないですか。