愛こそ道を切り拓く
そうした前置きを踏まえて中身が明かされた『Thank You』は、メインのプロデュースをトロイ・ミラーが担当し、スロウ~ミディアムを中心にソウル寄りからポピュラー系までダイアナのさまざまな側面にスポットを当てている。彼女自身と娘のロンダ・ロス(ベリー・ゴーディJrと間に授かった長女)らが共作した“All Is Well”は穏やかなスロウで、キーヨン・ハロルドのトランペットをフィーチャーした“Just In Case”はトロイのピアノとオーケストラをバックにしたシンプルでゴージャスなジャズ・バラード。さらにサイーダ・ギャレット(マイケル・ジャクソン仕事でお馴染み)が名匠バリー・イーストモンドと共作して歌っていた“The Answer’s Always Love”は、ブラック・コンテンポラリー的な美しいMORバラードとダイアナらしい品格が流石の好相性だ。また娘のロンダの書いた粋なスロウ“Count On Me”はロンダ・ロスの夫でもあるジャズ・ピアニストのロドニー・ケンドリックがトロイと共同プロデュースにあたっていて、言うなれば縁故採用でもありつつ当然ながらダイアナの歌世界にはハマっている。ちなみに、先述の“All Is Well”やベタベタの哀愁バラード“Beautiful Love”などを共作したフレッド・ホワイトは前作『I Love You』にも“I Love You (That’s All That Really Matters)”を提供していた身近なヴォーカリストだ。
そんなトロイ仕切りの楽曲たちと並んで、トライアングル・パークはより現行R&B~ポップ寄りなスタイルで助力。抑制の効いたスロウ“In Your Heart”があったり、レトロな響きのホーンと性急なビートで牽引する“Tomorrow”はセレステあたりがやりそうなアップ・チューンだったり、チャレンジングな作りになっていて、こちらの仕上がりにも注目したい。
なお、久々のアルバムを仕上げてダイアナ自身はこのようにコメントを寄せている。
「今回の曲たちは、私からあなたへ感謝と愛を込めた贈り物です。この素晴らしい音楽をこの時期に録音できて、とても嬉しかった。愛についてのこのアルバムをすべてのリスナーに捧げたい。私の声を聴くと、私の心が〈愛こそ道を切り拓く〉と言っているのが聴こえると思います」。
そのようにダイアナが『Thank You』に込めた喜びや感謝の念は、そのまま彼女自身に返したいものでもある。トロイ・ミラーと彼女の共同プロデュースによるアルバムのラスト曲“Come Together”のポジティヴな昂揚感に触れれば、きっとそういう気分になるという人も多いはずだ。
左から、ブリーチャーズの2021年作『Take The Sadness Out Of Saturday Night』(RCA)、セイント・ヴィンセントの2021年作『Daddy's Home』(Loma Vista)、スノー・アレグラの2021年作『Temporary Highs In The Violet Skies』(ARTium)、ビービー・レクサの2018年作『Expectations』(Warner)、ロドニー・ケンドリックの2014年作『The Colors Of Rhythm』(Impulse!)
トロイ・ミラーの手掛けた近作。
左から、ローラ・マヴーラの2021年作『Pink Noise』(Atlantic UK)、グレゴリー・ポーターの2020年作『All Rise』(Blue Note)、カイリー・ミノーグの2020年作『Disco』(BMG)