ファレルが制作したロビン・シックの“Blurred Lines”はマーヴィン・ゲイ某曲との相似が話題になった。が、〈パクリ〉などという世評が低次元に思えるほどの換骨奪胎ぶりは至極痛快で、その鮮やかな手捌きは『G I R L』でも存分に発揮されている。“Happy”も実は巧妙かつ大胆な換骨奪胎ソングで、アンドレ3000“Hey Ya!”やジャネル・モネイ“Tightrope”の系譜を継ぐこの愉快でレトロなダンス曲は、ノーザン・ソウル古典として知る人ぞ知るヴェルヴェット・ハンマーの同名曲“Happy”がモチーフ。デ・ラ・ソウル経由で拝借したと思しきアーマッド・ジャマル“Swahililand”なども含め、そのチョイス/センスはJ・ディラにも通じるアングラ的なものだが、あくまでポップに振り切った作風は、突飛なようで万人の心を掴んだネプチューンズ時代の作品から変わっていない。それをブギー・ブームなどの風潮と同調しながら最新型のソウル/ファンクへと昇華し、ハッピーな音楽探検をさせてくれるのが、今回の『G I R L』なのだ。

 

JACKIE WILSON 『Higher And Higher』 Brunswick(1967)

序文で触れた通り、一応〈元ネタ〉がある“Happy”だが、幸せを謳歌しているような気分で突き進むアップリフティングな展開は、ブランズウィックのR&Bスターによるシカゴ録音盤の表題曲にも通じている。〈ミスター・エキサイトメント〉という愛称のままに熱いテナーで歌い上げたノーザン・ソウルの傑作だ。

 

THE METERS 『Struttin’』 Josie(1970)

ニューオーリンズ古典“Iko Iko”風の小気味良いリズムにアーシーな感覚が加わったマイリー・サイラス客演のトゥワーク系ファンク“Come Get It Bae”を聴いて、ミーターズの“Chicken Strut”と“Handclapping Song”が同時に頭を駆け巡ったら、それは正しい。トゥワークもNOLAファンクの派生形の一つだし。

 

DIANA ROSS 『Diana』 Motown(1980)

ダフト・パンクを通じて共演したナイル・ロジャーズにも、カッティング・ギターの導入を含めて影響されまくっているファレル。そのナイルが絶頂期のシック・サウンドで染め上げたモータウンの歌姫による大ヒット作にも『G I R L』の要素は見い出せる。“Hunter”はファレル流“Upside Down”だという声も多数。

 

QUADRON 『Avalanche』 Vested In Culture/Epic(2013)

このデンマーク出身の男女ユニットとは、彼らが本メジャー・デビュー作を録音する際にコラボしていたというファレル。現時点では世に出ていないが、マイケル・ジャクソン愛を打ち出した本作と『G I R L』がめざすソウル感はよく似ている。リズミックでポップな“Hey Love”はファレルが歌ってもおかしくない。

 

CURTIS MAYFIELD 『Curtis』 Curtom(1970)

以前から人懐っこいファルセットがカーティス・メイフィールドを思わせるファレルであったが、“Happy”は大ファンのカーティスにインスパイアされた曲でもあるという。ストリングスを使いながらファンキーにも迫るこのソロ・デビュー作の疾走感や昂揚感は、“Move On Up”など、いま聴くと『G I R L』風だ。

 

MICHAEL JACKSON 『Off The Wall』 Epic(1979)

MJを手掛けたテディ・ライリーを師とするファレルは、『G I R L』に限らず自身の関与作にMJ作法を持ち込んでいる。特にそのダンサブルでスムースなグルーヴやファルセットは本作からの影響が強い。ジャスティン・ティンバーレイク客演の“Brand New”でのワカチコぶりは“Working Day And Night”そっくりだ。

 

PRINCE 『3121』 NPG/Universal(2006)

ネプチューンズとして“The Greatest Romance Ever Sold”(99年)のリミックスを手掛けていたファレルはプリンス愛もかなりのもの。ファルセットを交えた唱法も含めキャリアを通して殿下の影響が色濃いが、“Gush”のようなタイトなファンクを本作収録の“Black Sweat”と重ね合わせることは容易だろう。

 

PAUL SIMON 『Graceland』 Warner Bros.(1986)

ヒットメイカーの2人組からソロへ……という共通点ではなく。“Lost Queen”で聞こえるアフリカンなチャントは、南アのミュージシャンに協力を仰いだ本作でレディスミス・ブラック・マンバーゾを招いた“Homeless”、もしくは“You Can Call Me Al”でのそれを連想させる。世界で愛される才人は視野も広い。

 

JAMIROQUAI 『A Funk Odyssey』 S2(2001)

思えばジャミロクワイが『Synkronized』(99年)でコズミック・ディスコ的なアプローチを強めたのはダフト・パンクのブレイク後だった……という点においても、ファレルとは見ていた景色が似ていたはず。いち早くファンクの旅に出て70sマナーのディスコ/ブギーを展開していた本作は、早すぎた『G I R L』か。

 

STEVE ARRINGTON, DAM-FUNK 『Higher』 Stones Throw(2013)

スヌープの“Let’s Get Blown”でスティーヴ・アーリントン在籍時のスレイヴ名曲“Watching You”を引用していたファレルだが、『G I R L』にもスレイヴ流ブギー・ファンクのエッセンスを散りばめている。その発想やセンスは、アーリントンとの共演盤を作ってしまったデイム・ファンクと相通ずるものだ。