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後日改めて伺います

 それでも休止が惜しまれるのは、このたび届いたサード・フル・アルバム『後日改めて伺います』が素晴らしすぎるからである。最大のトピックとしてはついにアユニ自身がすべての作詞/作曲を手掛けていることが挙げられる。これまでも取材のたびに曲作りについて語り、昨年には自宅に制作環境を整えていることも話してくれていた彼女だが、今回はそこから選び抜いた全10曲が収録。もちろん本人の自作だから凄いとかいう話ではなく、プロデューサーの松隈ケンタや田渕ひさ子の影響をはじめ、本人が掘り進めてきたさまざまな音楽の滋養がアユニ・Dというフィルターを通して、立体的なPEDROの表現を生み出している点が何より素晴らしいのである。

PEDRO 『後日改めて伺います』 ユニバーサル(2021)

 アルバムのオープニングを温かい音色で飾るのは、〈SAYONARA BABY PLANET TOUR〉の告知動画でもインストが使用されていた“人”。儚くエモーショナルな音色を纏って描かれる優しい光景は何を意味しているのだろうか。心地良くフィードバックするギターと激しいドラミングに包まれるオルタナ仕様の“魔法”でも吐き出される言葉は愛と人間味に溢れている。疾走感のある“吸って、吐いて”、アレンジの緩急とメロディーの飛躍が爽快な“ぶきっちょ”、初期に顕著だった激情を数割増ししたエッジーな“死ぬ時も笑ってたいのよ”、日常感覚をリリカルに貫いた“安眠”、過去の己に突き付けるような“いっそ僕の知らない世界の道端でのたれ死んでください”……と思わず羅列してしまったが、アユニらしい言語感覚と奇を衒わないトライアングルの演奏がシンプルながらも絶妙な彩りを作品中に生み出している。

 全体を通じて伝わってくる幻想的なムードは、ひとつの眩しい季節の終わりに捧げる名残惜しさだ。ずっと作品を追ってきた人には自明の変化だろうが、思春期の日陰から眩しい太陽を呪ってきたようなアユニが、いつしかPEDROと生活を地続きとするなかで鬱陶しい〈夏〉を熱い活動の象徴としていたことに改めて気付かされて、不意にグッときてしまう。

 生き急ぐような表情で〈生きているうちは全部こっちのもんだ〉と歌う“万々歳”、張り巡らされたギターも目映いタイトなロックンロール“おバカね”で〈おやすみなさい、また会いましょう〉と聴き手に挨拶を残して、ラストに控えるのはシューゲイズな“雪の街”。野暮な説明は不要だろうが、温かい吹雪のようにノスタルジックに瞬く冒頭のギターから素晴らしいし、アユニがアユニになる前の原風景を綴ったような言葉にも心打たれずにはいられない。

 持って回ったような『後日改めて伺います』というタイトルは、アートワークにある〈SEE YOU AGAIN〉の意訳なのだろうが、〈後日改めて伺います〉を英訳すれば〈I will be back later〉となる。届いたアルバムのアートワークを見れば室内のソファの上にベースがまっすぐ立てかけられ、Tシャツも畳んである。整然とした寂しさもありつつ、彼女がこの部屋に戻るつもりなのは間違いないのではないだろうか。