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“Ambrosian Blood”が描く不老不死の生き物と人間の運命

――少し話が戻りますが、なぜアンブロシアをテーマに採り上げることになったんですか?

Michal「偶然なんだと思うんですけど、ANCIENT MYTHって、私が加入する前(2008年以前)から、作品のタイトルは〈A〉から始まってたんですよね。だから、このまま〈A〉シリーズを続けようと思って、自分が気になる〈A〉から始まるキーワードを必ずメモするようにしてたんです。その中で、アンブロシアについてもずっと温めていたんですけど、今回、Halに相談してみたんですよ」

Hal「語源なども含めて改めて調べ直したんですよね。〈ambrosia〉が形容詞になると〈ambrosian〉で、〈味がとても良い〉みたいなニュアンスもあって。そこで〈blood〉という言葉と結びつけることになったんですよ」

『Ambrosian Blood』トレーラー

Michal「私もHalもメタルらしいアイコン的なものが好きだから、〈『ambrosian』で『blood』って、カッコよすぎない!?〉なんて言ってて(笑)。音楽性は自分たちとは違いますけど、クレイドル・オブ・フィルスとかディム・ボルギルとかは、むちゃくちゃビジュアルがカッコいい。耽美かつ妖艶であるだけではなく、ちょっと血とかも出ているような映像を作りたかったところに、上手く〈Ambrosian Blood〉というタイトルも浮かんできたので、これはもう悪魔的な方向性で行くしかないと思って」

――“Ambrosian Blood”になる曲のデモが上がってから、実際に歌詞を書き始めたと思うんですが、おそらく何かしらの構想もあったのでしょうね。

Michal「題材にしようとしているものが決まっているから、何となくストーリーは考えてたんですけど、最初は不老不死の主人公だけが一人称で歌ってる感じだったんですね」

Hal「ただ、このジャケットには二人の人物が写っていましたし、メロディーの起伏で上手く分けたら、ストーリー的な連なりが出るかなと思って、会話形式になるように作り込んでいった感じですね」

Michal「登場人物は不老不死の生き物と人間なんですけど、二人の間には、ものすごい信頼関係が出来上がっていて、あるとき人間のほうが、〈これを食べると不老不死になる〉とは伝えられずに、ジャケットのように目隠しをされちゃったんです。この不老不死の生き物は、それまでも人間と親しくなって、いい関係を築いてきていたんですが、人間は必ず死んでしまう。そこで禁断の方法ではあるんだけども、不老不死になる果実を、騙してでも自分の愛する人間に食べさせることを思いつくんです。そうすれば、二人は永遠に生きられる。

でも、MVでは、歌詞のとおりではなく、同じ世界観の中にあるアナザーストーリーになっているんですね。人間のほうは、不老不死になるかどうかをすごく迷っています」

――最終的に女性は果実を口にしていますよね。

Michal「そうですね。食べたらもう迷いは吹っ切れて、永遠を共に生きていこうと」

――歌詞には書かれていないその後の話も気になってきます。

Michal「どうなるんでしょうね。というのも、不老不死の生き物が出てくる作品をいろいろ読んだり観たりしたんですけど、たとえば、『ロード・オブ・ザ・リング』だと、エルフという不老不死の種族がいて、この世にいることに疲れた彼らは西のほうに向かうと描かれてるんですね。その〈西のほう〉というのは、不老不死の人たちだけが選択できる天国みたいなところに相当すると思うんですが、きっとこの二人も、他の人間たちと同じ世界にいるのがしんどくなったら、そういうところに行こうかと話し合ってるんじゃないかなと。私の想像ではそう思います。そういう希望は残してるんです」

――現実社会でも、たとえば薬の開発というのは、生への欲求に応えるものですよね。不老不死とは幸せなものなのか、そういった問いかけをする曲でもあるかもしれません。

Michal「大切な人と一緒にいるからこそ残せる思い出というのは絶対にあると思うんです。とはいえ、この歌詞の中にもあるように、見送る悲しみってめちゃくちゃ辛いじゃないですか。誰しも人生を積み重ねていくと、肉親の死を経験しますが、そういったところで改めて気付かされることもありますよね。自分を知ってくれている人がこの世に存在することこそが、もしかしたら自分の存在意義なのかなとか。多分、誰も自分のことを愛してくれない、自分が愛してあげることもできないという中で孤独に生きていくのは、しんどいと思うんです。

この主人公にしても、仮にまた他の誰かと仲良くなったとしても、相手が人間だったら、必ず先に死なれてしまう。永遠にこんな悲しいことが繰り返されるのかと思うと……。何となくこの曲はハッピーエンドにはなってますけど、やっぱり根本には、不老不死であることの埋められない孤独感みたいなものがあるんですね」