(左から)星野沙織、Jill

Unlucky MorpheusのJillとsoLiの星野沙織によるTONERICOが、1stアルバム『Valkyrie Notes』を完成させた。クラシックのみならず、ロックのフィールドでも様々に活躍してきた2人だが、ツインバイオリンによる新たな音楽の創造を掲げた本作は、作曲は星野が約半数を書いている他、ISAO(soLi)、優介(摩天楼オペラ)、Mao(LIGHT BRINGER)、岡聡志、岩嵜壮志が楽曲提供。彼女たちが自ずから醸し出すゴシックな世界観とも符合した、静なるものから動なるものまで、その意思を明確に映し出した聴き応えのある内容に仕上がっている。もちろん、プレイアビリティの高さにも驚愕させられるだろう。

TONERICOはいかにして生まれ、『Valkyrie Notes』なる名盤はどのように制作されたのか。収録された各曲について詳細に触れながら、2人に話を訊いた。

TONERICO 『Valkyrie Notes』 Walküre(2024)

 

バイオリン × 美しさ × ゴスロリ

――Jillさんと沙織さんはどんな出会いだったんですか? 直接顔を合わせる前にお互いに存在は知っていたのかもしれませんが。

星野沙織「バイオリンをやっていると、Jillさんはやっぱり目に入ってくる存在だったんです。ただ演奏するだけではなく、パフォーマンス力もあって、バンドでもソロでも活躍なさっていて。なおかつ美しい(笑)。私はゴスロリ系も好きなので、こんな世界観のお洋服で弾いていらっしゃる方がいるんだというところも憧れがあって。

最初はRose Noireの動画をたまたま観たんです。軍服のようなお衣装を着ていらっしゃって、転がしに足をかけながら、G線(ゲーセン)をバーンと弾くところがあったんですが、それがめちゃめちゃカッコよかったんですね。いつか私もどこかでやりたい(笑)」

――Rose NoireはJillさんが東京藝術大学在籍時から活動されていたユニットですね。

星野「実際に相まみえたのは〈魔界〉だったかな。ISAOさんが音楽面で関わってた総合プロレスエンターテインメントショーみたいなもので……今は形態が変わったようですけど。当時、ISAOさんがプロデューサーさんから〈バイオリニストを2人入れたい〉という相談をされて、Jillさんにお声がけしたそうなんです」

Jill「多分、2017年ですね。直接関わりがなくても、知ってる方々の活動がSNSで回ってくるので、沙織さんの活動は拝見していたんですけれど、あるとき〈魔界〉に私も参加させていただくことになったんです」

――〈魔界〉で一緒に演奏したときは、どんな印象だったんですか? 〈バチバチ〉とは言いませんけど(笑)、同じパートの場合、どうしても相手を意識するところがあるじゃないですか。

星野「私からしたら憧れの人がいるって感じなので、〈一緒にやらせていただいていいんですか!?〉という感じでした。バッハの“Invention”とかを2人で弾かせてもらったりしたんですけど、合奏もできて、〈全部美味しい〉という感じでしたね。最後に一緒に写真も撮っていただいて(笑)」

Jill「お会いする前にデータのやり取りをさせていただいたんですけど、沙織さんは丁寧に準備してくださってたんですね。覚えやすいメロディを譲ってくださったり(笑)、細やかな気遣いをしてくれる人だなって思ってたんです。

実際に会って一緒に演奏して……クラシックはただただ巧く演奏することに重きを置くので、バイオリニストにもそういう方が多いんですけど、沙織さんはパフォーマンスも素晴らしかったんです。自分以外にもこういうタイプの人がいて嬉しいなって、素直に滾りました。すごくキマってた」

星野「とんでもないです」

Jill「弾きながら魅せることをより意識する、いい機会になったし、〈魔界〉には成長させていただきました」