群馬発、女性ヴォーカリストNaNaを擁するトリオ・バンド、MAHATMA(マハトマ)が、11月8日(水)に過去曲をコンパイルしたベスト盤仕様の『Reminiscence』と新ミニ作『WITH LOVE IN MY HEART』を同時リリースする。

MAHATMAは、現在YAHAMAとエンドース契約を結んでいる技巧派ドラマーのHidekiを中心に、2001年に結成された。その翌年にはHidekiの実弟であり、MAHATMAの全作品でミックスも手掛けているマルチ・プレイヤーのTsubasa(ギター)が加入。その後活動休止を経て、NaNaが加わった2009年頃に現在のスタイルを確立させた。

憂いがありながらも親しみやすいメロディーを軸に、ロックやポップス、メタル、アニソン、ゲーム・ミュージック、ジャズ、フュージョンなど、多様な音楽を飲み込んだ音像は、まさに彼らが標榜している〈クリエリティヴ・ロック〉=聴き手の創造力を刺激するものと言えるだろう。

この度リリースされる2枚組の『Reminiscence』は、NaNaが加入した2009年以降に自主制作で発表した入手困難な音源に、「ライヴで一度だけ披露したことがある」というギター・インストの新曲“絆”を加え、全曲をリマスタリングしたもの。彼らの軌跡を辿ることができる一作となった。

一方、『WITH LOVE IN MY HEART』には、ラウド・ロックの成分が強い“GREATNESS”といった新曲群に加え、過去曲のリアレンジ・ヴァージョンも収録。荒々しいギターが前に押し出され、より強靭な楽曲に生まれ変わった“Departure”や、〈制作時にJAM Projectをイメージしていた〉という“生きとし生けるもの”には、Hidekiが在籍するALHAMBRAへも度々ゲスト参加をしているYasuo Sasai(GERARD、元ARK STORM)が参加。パワフルな歌声を轟かせている。

※水木一郎が〈21世紀へ古き良き“アニソン魂”を残したい〉という呼びかけ結成されたアニソン歌手グループ

そして、タイトル曲の“WITH LOVE IN MY HEART ~君と共に~”は、前作『Orchestra of the Life』(2016年)に収録されていた“Romance”の続編にあたるもの。前奏曲も含め、10分を超えるプログレ/シンフォニック・メタル路線を踏襲した同曲は、そのドラマチックさはもちろん、曲尺も前作を上回る13分強の超・超大作。ゲスト参加したISAO(BABYMETALのバックバンド・神バンドにも参加)のギターが、楽曲をさらに情感豊かなものにしている。

今回は2枚の作品を軸に、過去作に込められた思いや、普遍的な魅力を誇るMAHATMAの楽曲の秘密、そしてMAHATMAの現在のモードについて、NaNaとHidekiに話を訊いた。


 

とにかく物語の起承転結をしっかりさせたいから、全体の流れを先に決める

――まずは『Reminiscence』の話からお伺いします。バンドの軌跡をまとめたベスト盤仕様の同作を聴いた印象として、セカンド・ミニ・アルバム『Dioramatic』から、今のMAHATMAの音楽に繋がっていく雰囲気がありました。

MAHATMA 『Reminiscence』 Walküre(2017)

Hideki(ドラムス)「現体制初の作品『Brave Hearts』(ファースト・ミニ・アルバム)を制作してから、自分とTsubasaでいろんな試行錯誤を重ねていくことで案がまとまっていったので、確かにそういう感覚はありますね」

NaNa(ヴォーカル)「『Brave Hearts』は、Hidekiがすべて作曲していたんですけど、『Dioramatic』からTsubasaの曲が少しずつ入るようになってきたんですよね。

2人は兄弟なのもあって、根底にあるものは同じなんですけど、曲の作り方やテイストが真逆なんですよ。だから、そのぶんいろんな曲が出てくるのはいいなと思っているし、自分としてもそこについていかなきゃいけないなという思いは、それこそ『Dioramatic』から強くなりました。どんな曲でも歌えないと、MAHATMAというバンドでヴォーカルはできないなって」

――ただ、実際に歌うとなると大変だったんじゃないですか?

NaNa「大変でしたね。今回の2枚組(『Reminiscence』)のDISC1に収録されている曲は、ほぼ泣きながらレコーディングしてました(苦笑)。求められるレヴェルになかなか辿りつけないことがすごく悔しくて」

――求められるものに加えて、NaNaさん自身の中でもこういうものにしたいという絵が見えているからこそ悔しかった?

NaNa「そうです。特にHidekiの作る曲は苦労しましたね。もちろん、そこにやり甲斐がものすごくあるんですけど、サビで高いところがずっと続くことが多いので、最初は全然声が出ていなくて。喉から血が出るぐらい歌って、声が出なくなって、ハチミツを舐めながら歌い続けてました」

Hideki「やっぱり初期の頃はまだ探り探りだったので、確かに無理をさせていたと思います(苦笑)。そこからいろいろ試行錯誤して、勉強して、でもまあ今でも苦労はさせているとは思うんですけど」

NaNa「そのおかげで成長できたと今は思っているので、そこに関して恨んだりとかは全然してないです(笑)」

『Reminiscence』トレーラー

――先ほど、HidekiさんとTsubasaさんは根底にあるものが同じというお話がありましたが、Hidekiさんご自身としてもその感覚はありますか?

Hideki「あります。うちの父がレコード・マニアで、クラシックとか昭和の歌謡曲のレコードが、家に山ほどあったんですよ。それをお腹にいる頃からひたすら聴かされて育って、物心がつく頃には自分でプレイヤーに置いて聴いていたみたいで(笑)。

それもあって、曲を作っている時にそのあたりの共通する音楽が意識せずとも出てくるところはあって」

――実際に楽曲のメロディーは、それこそ昭和の歌謡曲的というか、親しみやすさがありますよね。その隙間や間奏で、楽器が激しく暴れまわっていて。

Hideki「演奏に関しては、確かに技巧的とかいろいろ言われるんですけど、自分はメロディーを一番大事にしているので、アレンジをするうえで、その方向性にマッチしないものには絶対にしたくないんですよ。だから、音数を無理やり増やしてやろうとか、逆にシンプルにしてやろうという気持ちはまったくなくて」

――大事ゆえに、曲はメロディーから作られたりします?

Hideki「そうですね。自分が曲を作る時は鼻歌をボイスメモに録音するんですけど、それが固まったら、ボイスメモだけで一度フル尺を作るんですよ。前奏とかも〈ダッダダン!〉みたい感じで、バンドでやっていることを想像しながら、曲の中で一番前に出てくるメロディーを全部口ずさむんです。とは言ってもその仕上がりは酷いものなので(笑)、誰にも聴かせたことはないんですけど」

NaNa「私も聴いたことないです(笑)」

Hideki「あれは絶対に聴かせられない(笑)。逆に、Tsubasaはギター視点で曲を作るので、ギター的においしいフレーズがあったり、自分が思いつかないような展開の曲を作ったりするので、そこはやっぱりすごいなと思います」

――鼻歌でフル尺というのはあまりないやり方ですね。ワンフレーズを歌って、それを膨らませていくという方法はよく聞きますけど。

Hideki「そこは、自分があまりツギハギが好きじゃないというか、むしろそういうものが苦手だからなのかもしれないです。

自分は、映画やドラマみたいなストーリー性のあるものが大好きなんですよ。もちろん後から〈ここのセクションは直そう〉というのはありますけど、とにかく物語の起承転結をしっかりさせたいから、全体的な流れを先に決めてしまいたいんです」